◇SH2070◇債権法改正後の民法の未来50 多数当事者間の決済に関する問題(一人計算)(1) 山形康郎(2018/09/05)

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債権法改正後の民法の未来 50
多数当事者間の決済に関する問題(一人計算)(1)

関西法律特許事務所

弁護士 山 形 康 郎

 

Ⅰ 最終の提案内容

 「中間的な論点整理案」においては、論点として整理されていた(【参考】参照)ものの、その後の検討はなされず、中間試案や最終提案の際には、提案内容からは外れている。

 

  1. 【参考】中間的な論点整理
  2. 第21 新たな債権消滅原因に関する法的概念(決済手法の高度化・複雑化への民法上の対応)

1 新たな債権消滅原因となる法的概念に関する規定の要否

 多数の当事者間における債権債務の決済の過程において、取引参加者AB間の債権が、集中決済機関(CCP)に対するAの債権とBに対するCCPの債権とに置き換えられる(下図1参照)ことがあるが、この置き換えに係る法律関係を明快に説明するのに適した法的概念が民法には存在しないと指摘されている。

 具体的な問題点としては、例えば、置き換えの対象となるAB間の債権について譲渡や差押えがされた場合に、法律関係の不明確さが生ずるおそれがあることや、CCPが取得する債権についての不履行により、置き換えの合意そのものが解除されると、既に完了したはずの決済をやり直すなど決済の安定性が害されるおそれがあるとの指摘がされている。

 このような指摘を踏まえて、決済の安定性を更に高める等の観点から、上記のような法律関係に適した法的概念に関する規定を新たに設けるべきであるという考え方が提示されている。この考え方は、集中決済を念頭に置きつつも、より一般的で、普遍性のある債務消滅原因として、次のような規定を設けることを提案する。すなわち、AがBに対して将来取得する一定の債権(対象債権)が、XのBに対する債権及びXのAに対する債務(Xの債権・債務)に置き換えられる旨の合意がされ、実際に対象債権が生じたときは、当該合意に基づき、Xの債権・債務が発生して対象債権が消滅することを内容とする新たな債務消滅原因の規定を設けるべきであるというのである(下図2参照)

 まずは、このような規定の要否について、そもそも上記の問題意識に疑問を呈する見解も示されていることや、集中決済以外の取引にも適用される普遍的な法的概念として規定を設けるのであれば、集中決済以外の場面で悪用されるおそれがないかどうかを検証する必要がある旨の指摘があることに留意しつつ、更に検討してはどうか。

 また、仮にこのような規定が必要であるとしても、これを民法に置くことの適否について、債権の消滅原因という債権債務関係の本質について規定するのは基本法典の役割であるとする意見がある一方で、CCPに対する規制・監督と一体として特別法で定めることが望ましいとする意見があることに留意しつつ、更に検討してはどうか。

 

図1

 

図2

2 新たな債権消滅原因となる法的概念に関する規定を設ける場合における第三者との法律関係を明確にするための規定の要否

 前記1のような新たな法的概念に関する規定を設ける場合には、併せて、第三者の取引安全を図る規定や、差押え・仮差押えの効力との優劣関係など、第三者との法律関係を明確にするための規定を設けることの要否が検討課題となる。この点について、具体的に以下の①から③までのような規定を設けるべきであるとの考え方が示されているが、これらの規定を民法に置くことの要否について、特に①は決済の効率性という観点から疑問であるとするとの意見や、これらの規定内容が集中決済の場面でのみ正当化されるべきものであるから特別法に規定を設けるべきであるとの意見が示されていることに留意しつつ、更に検討してはどうか。

  1. 第三者の取引安全を確保するため、前記1の債権・債務の置き換えに係る合意については、登記を効力発生要件とし、登記の完了後対象債権の発生前にAがした債権譲渡その他の処分は、効力を否定されるものとする。
  2. 対象債権の差押えや仮差押えは、対象債権が発生した時に、Xの債務に対する差押えや仮差押えに移行する。当該差押えの効力が及ぶXの債務を受働債権とする相殺については、民法第511条の規律が適用されるものとする。
  3. 対象債権についてのBのAに対する一切の抗弁はXに対抗することができない旨の当事者間の特約を許容する。また、Xの債権をBが履行しない場合にも、対象債権の消滅の効果には影響しない。

 

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