◇SH0352◇中国:商業賄賂規制 川合正倫(2015/06/25)

未分類

中国:商業賄賂規制

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

1.商業賄賂の事例

 大手飲料メーカーが新商品を販売するにあたり、小売業者に対し、陳列費及び場所代として約25万元相当の現物で支払い、販促費用として記帳していたところ、商業賄賂にあたるとして大手飲料メーカーが処罰された。

2.商業賄賂とは

 上記の事案は、実際に違法所得の没収と過料の行政処罰が課された事案である。日本では、主に公務員に対して職務に関する不正な報酬としての利益を供与することを賄賂として捉えているが、中国では民間に対する行為も商業賄賂として広く規制されている。

 商業賄賂行為とは、事業者が、財物又はその他の手段により、商品を販売又は購入するために、相手先である法人又は個人に対して賄賂を贈る行為をいう。

 事業活動において、公平競争の原則に反して、財物等を提供することにより、取引機会や経済的利益を提供する行為を指すと考えられている。つまり、中国の商業賄賂規制は、民間における「公平な競争」をも保護法益の一つとし賄賂を受け取る主体を公務員に限定していない点(公務員や国営企業の職員に対する賄賂も当然規制されている。)で、「公務員の職務の公正に対する信頼」を保護法益とし公務員に対する贈収賄行為を主に規制する日本の制度と大きく異なる。

4.禁止される具体的な行為

 実体を伴わない費用の支払い、適切な会計処理を経ない価格割引、過度な接待や贈答の方法で金銭的利益を供与することに加え、帳簿に記帳せずに密かにリベートを贈ることも禁止行為に含まれる。

 冒頭の事例は、現物での支払いが実質的な価格割引に該当するにもかかわらず、販促費用として処理した点が問題視されたと考えられている。この他にも、仲介業者を通じて取引相手の出張費用(宿泊費や食費等)を負担した事案、販売担当者にリベートをキックバックした事案、架空のサービスに対するコミッションの支払いをした事案、ゴルフクラブを贈答した事案などがある。

5.いくらまでなら問題ないのか?

 我々弁護士は「いくらまでなら許されますか?」という質問を受けることがある。社内管理上は一定の明確な金額基準があると望ましいという事情はよく理解できるところであるが、一定の金額基準を設けることには慎重になるべきと考える。

 一例をあげると、賄賂と、許容される贈与との区別については、授受がなされた背景(友人関係の有無等)、授受された財物の価値、授受の理由や時期及び方法(誕生日プレゼント、春節ギフト等)、結果としての受贈者による利益提供の有無等の事情を総合的に考慮して判断される。このため、客観的には同じ価値(金額)の物を授受した場合であっても、状況によって商業賄賂を構成する場合とそうでない場合が生じえる。また、少額のプレゼントであってもそれを繰り返すことにより商業賄賂に該当する事態も考えられる。

 「上有政策、下有対策」という言葉に示唆されるように、故意に違法行為をする人は頭を使って工夫をする。コンプライアンス上の問題について、「●●までであれば問題ない」といった制度を導入する場合、その基準が一人歩きして事態が発展し、結果的に会社として違法行為を許容する制度を有していたとのそしりを受けることになることも考えられる。

6.商業賄賂の罰則

 賄賂行為が不正競争防止法違反にとどまる場合には、違法収入の没収及び1万元以上20万元以下の過料を科されることになりが、犯罪を構成する場合には刑法が適用される結果、高額な罰金を受け、さらに責任者が懲役刑等に処される可能性がある。

 これまでに外資系企業の外国人管理者や中国人業務責任者が逮捕され、懲役刑に処された事案が複数あり、2014年9月に出された英系製薬会社による贈賄行為に関する判決では、法人に対して30億元の罰金、英国人総経理に対して執行猶予付き3年の懲役刑、その他の中国人幹部4人にも2年から3年の執行猶予付き懲役刑が言い渡されている。

 また、中国での公務員等への贈賄行為が日本法の域外適用を受けることがある。例えば、中国現地工場の違法行為を黙認してもらうため、政府幹部に約45万円の現金と女性用バッグを渡した行為が日本の不正競争防止法(外国公務員への贈賄)に違反するとして日本人経営者が日本で逮捕・罰金刑を受けた事案がある。このほか、アメリカの海外腐敗防止法(FCPA)やイギリスの贈賄防止法(Bribery Act)は広範な域外適用が認められうる法律であり、注意が必要となる。

7.まとめ

 中国政府による公務員・国有企業の汚職防止取締りの強化に伴い、数年前まで業界慣行として行われていた行為であっても問題視されるケースが多発している。外国におけるリスク管理の特徴として、ひとたび政府機関等に問題視された場合には、莫大な費用と手間をかけて対応する必要が生じてしまう点がある。日常業務において商業賄賂とみられる可能性のある行為が行われていないか、商業賄賂を許容していると捉えられうる社内制度が残っていないか等の事前の点検をし、積極的な防止策として社員教育や内部通報制度の確立を検討することが望まれる。

(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

長島・大野・常松法律事務所      www.noandt.com

長島・大野・常松法律事務所は、弁護士339 名(2014 年6月1 日現在、外国弁護士13 名を含む。)が所属する日本最大級の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野に対応できるワンストップファームとして、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

東京オフィスにおいてアジア法務を取り扱う「中国プラクティスグループ(CPG)」及び「アジアプラクティスグループ(APG)」、並びにアジアプラクティスの現地拠点であるシンガポール・オフィス、バンコク・オフィス、ホーチミン・オフィス、上海オフィス及びアジアの他の主要な都市に駐在する当事務所の日本人弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携・人的交流を含めた長年の協力関係も活かして、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を効率的に支援する体制を整えております。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました