実学・企業法務(第167回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
5. 建設に関する紛争解決の仕組み
(1) 指定住宅紛争処理機関「住宅紛争審査会」(住宅品質確保法)による解決
- ・ 国土交通大臣は、弁護士会・一般社団法人等であって、紛争処理業務を公正・適確に行うことが できるものを、その申請により「指定住宅紛争処理機関」に指定して公示する[1]。(66条)
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・ 国土交通大臣が、指定住宅紛争処理機関の行う紛争処理業務支援・住宅購入者等の利益保護・住宅紛争の迅速適正な解決を図る「住宅紛争処理支援センター」を1つだけ指定する(82条)。
- (注) 公益財団法人「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」が指定されている。
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2016年度の新規相談件数は30,163件であった。(「住宅相談と紛争処理の状況 CHORD REPORT 2017」より)
(内訳)新築等住宅19,759件、リフォーム10,404件
相談者区分: 消費者84%、消費生活センター・地方公共団体7%、事業者6%、その他3%
対象となった住宅:戸建住宅79%、共同住宅等21%
(2)「建設工事紛争審査会(建設業法)」による解決
「建設工事の請負契約に関する紛争」の簡易・迅速・妥当な解決を図るため、建設業法に基づいて国土交通省(中央建設工事紛争審査会)及び各都道府県(都道府県建設工事紛争審査会)に設置されるADR(裁判外紛争解決手続)である。
当事者の申請に基づいて斡旋・調停・仲裁を行う。
- 2016年度の建設工事紛争審査会の申請件数は次の通り[2]。
- (合計132件) 中央33件、都道府県99件、合計132件(斡旋25、調停86、仲裁21)
- 当事者類型別:個人発注者→請負人53 法人発注者→請負人19 請負人→個人発注者19
- 請負人→法人発注者22 下請負人→元請負人18 元請負人→下請負人1
- 工事種類別: 建築工事98、土木工事13、設備工事13、電気工事3、他5
- 紛争類型別: 工事瑕疵51、工事遅延2、工事代金争い40、契約解除15、下請代金争い18、他6
(3)「裁判」による解決
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○ 訴訟の現状[3]
金銭を目的とする建築関係訴訟事件(地方裁判所における民事第1審新受件数、2016年度)には、①建築瑕疵による損害賠償1,498件と、②建築請負代金等471件がある[4]。
平均審理期間(2016年度、速報値)は、①建築瑕疵による損害賠償では25.1カ月を要するが、②建築請負代金等では16.5カ月と相対的に短い。
- ○ 裁判の専門委員制度(2004年4月から導入)
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・建築、医療、知的財産権、不動産等の専門家(大学教授・研究者等)が裁判所に非常勤で採用される。
(注) 専門委員の訴訟への関与・指定・任免は、民事訴訟法92条の2、92条の5、92条の7の規定による。 -
・ 専門委員は、専門的な事項について裁判所のアドバイザー的立場から分かり易く説明するが、その説明内容は裁判の証拠にならない。また、裁判の当事者から尋問を受けることは想定されていない。
(注1) 専門委員は、裁判所に所属する非常勤職員(任期2年)であり、常勤職員である裁判所調査官(裁判所の命令を受けて調査・報告する。調査結果は、証拠とされない。)、裁判所職員ではない鑑定人(裁判所から求められた鑑定事項について意見を述べる。この意見は証拠になり、裁判の基礎になる。)と異なる。
(注2) 専門委員は、訴訟の当事者双方の同意を得たうえで、争点整理・証拠調べ(証人尋問他)・和解勧告に関与する。
[1] 全国52の弁護士会に住宅紛争審査会が設置されている。(2016年3月現在)
[2] 国土交通省資料より
[3] 裁判所HP「司法統計」より。「第一審通常訴訟新受件数―事件の種類別―全地方裁判所」等。
[4] 「建築瑕疵損害賠償」は建物建築に関する設計・監理・施工等の建築瑕疵を理由とし、「建築請負代金等」は建物建築に関する請負代金・工事代金・設計料・報酬金等の請求を理由とするものをいう。なお、金銭目的以外に、「建物を目的とする訴え23,494件」、「土地を目的とする訴え7,437件」がある(いずれも2016年度)。