明治、仮処分命令申立に関するお知らせ
岩田合同法律事務所
弁護士 柏 木 健 佑
株式会社明治(以下「明治」という。)は、3月24日、明治とムンディファーマ株式会社(以下「ムンディファーマ」という。)が相互に不正競争行為等の差止仮処分命令申立を行っていた件が和解によって解決したことを発表した[1]。
明治はムンディファーマからライセンスを受けて「イソジン」ブランドのうがい薬の製造・販売を長年にわたって行ってきたが、ムンディファーマとの契約の終了により、4月からは「明治うがい薬」を発売することとなっていた。一方で、ムンディファーマは塩野義製薬株式会社(以下「塩野義製薬」という。)と販売提携契約を締結して4月から「イソジンうがい薬」を発売することを予定していた。新商品の発売に当たって、明治は、「イソジンうがい薬」のパッケージに長年にわたって用いていたカバを模した既存キャラクター「カバくん」を新商品のパッケージにも用いることを予定していたのに対し、ムンディファーマが販売予定の新商品パッケージにもカバを模したキャラクターが用いられる予定であることが判明した。そのため、相互に不正競争行為等の差止仮処分命令申立を行う事態となっていたが、当該事案が解決したことが発表されたものである。報道によれば、和解の結果、明治が「カバくん」のパッケージの使用を継続し、ムンディファーマがパッケージを変更することになるとのことである。
両社の仮処分命令申立の内容は公表されていないが、明治は、ムンディファーマのパッケージデザイン使用が不正競争防止法2条1項1号に定める、①商品等表示として、②周知性を有するものと、③同一又は類似の商標等表示を使用等することで、④他人の商品又は営業と混同を生じさせる不正競争に該当するとして、営業上の利益の侵害停止・予防(同法3条1項)を主張したものと考えられる。本件では、パッケージデザインの類似性(③)及び混同のおそれの有無(④)が主たる争点として想定されていたものと考えられるが、これらの争点について裁判所の判断が下されることなく和解により解決がなされた。
本件の時系列は別表に示すとおりであり、明治による仮処分命令申立から1ヵ月あまりというスピード感をもって解決がなされた。双方が4月1日に新たな商品発売を予定している中で仮処分命令の申立てという手続が選択され、民事保全手続内で和解の話し合いが行われたことで、紛争の迅速かつ全体的な解決が可能になったものと思われる。民事保全手続における和解は、紛争が生じて間もない時期に行われることから、双方当事者に誠意と接点があれば紛争全体を解決する方向での合意は後の時点よりもかえって成立しやすい傾向があるとも指摘されており(瀬木比呂志『民事保全法〔新訂版〕』(日本評論社、2014)238頁)、本件はこのような民事保全手続の紛争解決機能が活かされた事例であったと評価することも可能であろう。
また、本件は、第三者からライセンスを受けて行っていた既存事業が終了し、双方が別個に事業を行うこととなった際の、既存事業の成果がどちらに帰属するかを巡る争いとみることもできる。類似の事案の際の法務リスクを考える上でも、示唆に富む事案であったと考えられる。
別表
2015年12月9日 |
明治がイソジン製剤の製造販売権をムンディファーマに移管することに合意し、「明治うがい薬」を新発売することを公表 |
2015年12月9日 |
ムンディファーマが塩野義製薬と「イソジン」ブランド製品の販売提携契約を締結したことを公表 |
2016年2月9日 |
明治がムンディファーマ及び塩野義製薬の子会社であるシオノギヘルスケアに対して東京地裁に不正競争行為差止等仮処分命令の申立て |
2016年2月26日 |
ムンディファーマが明治及びそのグループ会社であるMeiji Seikaファルマ株式会社に対して東京地裁に不正競争行為差止等仮処分命令の申立て |
2016年3月18日 |
明治及びムンディファーマの申立てに関し、各当事者間で円満な合意に至り、和解によって解決 |
2016年3月24日 |
明治及びムンディファーマが和解による解決と4月1日からの製品発売を公表 |
以 上