実学・企業法務(第168回)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
6. 国民の「住生活」の水準を向上するための施策
(1) 住生活基本法(2006年6月制定)
住生活基本法は「住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進」について、次の4つの基本理念を示している。
- 1) 現在・将来における国民の住生活の基盤となる良質な住宅の供給、建設、改良、管理(3条)
- 2) 住民が誇りと愛着をもつことのできる良好な住環境の形成(4条)
- 3) 居住のために住宅を購入する者・住宅の供給等に係るサービスの提供を受ける者の利益の擁 護・増進(5条)
- 4) 低額所得者、被災者、高齢者、子どもを育成する家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保(6条)
この理念を実現するために、①国・地方公共団体・住宅関連事業者の責務を明らかにし、②基本的施策・住生活基本計画(全国計画、都道府県計画)・その他の基本事項を定めて、③住生活の安定の確保・向上の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進する。
(2) 住宅セーフティネット法[1](2007年7月制定)
- ・ 住生活基本法の基本理念に則り、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子ども育成家庭等の「住宅確保要配慮者」に対する賃貸住宅の供給の促進に関し、基本方針の策定、その他の「住宅確保要配慮者」に対する賃貸住宅の供給の促進に関する施策の基本事項等を定める。
- ・ 国・地方公共団体は「住宅確保要配慮者」用の賃貸住宅の供給を促進する努力義務を負う。
- ・ 都市再生機構の賃貸住宅を、住宅セーフティネットに役立てる。
- ・ 今後の増加が見込まれる高齢単身者等の対策に「空き家」活用の検討等が始まっている。
(3) 公営住宅法(1951年6月制定)
国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸・転貸する(1条)。
公営住宅は、地方公共団体が、建設・買取り・借上げを行い、低額所得者に賃貸・転貸するための住宅で、国が補助する。
(4) 独立行政法人都市再生機構法(2003年6月制定。1955年設立の日本住宅公団が母体)
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・ 都市再生機構(愛称:UR 都市機構[2])の業務
機能的な都市活動・豊かな都市生活の基盤整備が十分ではない大都市・地域社会の中心都市において、①市街地の整備改善・賃貸住宅の供給支援に関する業務を行って都市再生を図り、②賃貸住宅等の管理等の業務を行って良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図る(3条)。
〔主な業務内容〕
1都市再生[3]、2約76万戸の賃貸住宅の住環境整備、3災害復興、都市防災機能強化、4魅力ある郊外・地方居住の実現
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・ 都市再生機構の組織改編の経緯
1955年 日本住宅公団が設立され、集団住宅・宅地の大規模供給と健全な新市街地造成を開始
1981年 日本住宅公団と宅地開発公団が統合して、住宅・都市整備公団を設立(都市公園整備等の新業務を追加)
1999年 住宅・都市整備公団を都市基盤整備公団に改組し、住宅供給から都市整備に重点を移行
2004年 特殊法人改革の一環[4]として、地域振興整備公団の地方都市部門と統合し、独立行政法人都市再生機構として業務開始
(5) 地方住宅供給公社法(1965年6月制定)
地方住宅供給公社は、住宅の不足の著しい地域において、住宅を必要とする勤労者の資金を受け入れ、これをその他の資金とあわせて活用して、これらの者に居住環境の良好な集団住宅・宅地を供給する(1条)。
地方住宅供給公社は、都道府県又は政令で指定する50万人以上の市でなければ、設立できない(8条)。
- 〔現在の状況〕
- 地方住宅供給公社は減少傾向にある。
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2008年(平成20年)3月時点
57公社(47都道府県及び10政令指定市の千葉市、川崎市、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、北九州市、福岡市) - 地方公共団体の住宅施策の変化の中で、役割終了や経営破綻等の要因で、16公社が解散。
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2017年(平成29年)4月現在
39公社(都道府県30公社・政令指定都市9公社が、全国住宅供給公社等連合会に加盟)
(6) 独立行政法人住宅金融支援機構法(2005年7月制定)
政府100%出資の「住宅金融支援機構」が、民間金融機関が行う住宅ローンを買い取って証券化(住宅ローン債権を担保にする)し、又は、民間金融機関が住宅ローンを証券化するときに「住宅金融支援機構」の保険を付して投資家に対する利払いを保証する。この他、住宅融資保険業務、融資業務(災害復興住宅融資等)等の業務を行っている。
[1] 「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」の略称。
[2] 英文:Urban Renaissance Agency
[3] (具体的な取組内容)産業構造転換に伴う大規模な土地利用再編、都市における生活・交流・経済の拠点の形成、都市の防災性向上・密集市街地改善、民間賃貸住宅の供給支援等を通じて良好な住宅市街地形成、既存賃貸ストックを活用した地域生活拠点の整備
[4] 2001年1月に中央省庁が再編され、1府22省庁が1府12省庁になった(10省庁減少)。2001年6月に特殊法人等改革基本法が制定され、77特殊法人・86認可法人のうち6法人(日本銀行等)を除く全ての法人が廃止・統合・独立行政法人化・民営化等された。