インドネシア:区分所有建物の管理組合に関する新規則の制定
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 松 本 岳 人
2018年10月、インドネシアにおいて区分所有建物の管理組合に関する新たな規則(公共事業・国民住宅大臣規則2018年第23号。以下「新規則」という。)が施行された。管理組合に関する規則は従来から存在していたものの、これまで不明確であった点をより明確化する形での改正がされている。インドネシアでは分譲住宅の開発が引き続き活発に行われており、日系企業による事業参画も増加しているところである。新規則は、分譲住宅の購入者だけでなく、開発を行うディベロッパーにとっても影響のある規制であることから、本稿では新規則の概要について紹介する。
1. 管理組合の設立
区分所有者は、区分所有建物の所有者及び占有者の管理組合(Perhimpunan Pemilik dan Penghuni Satuan Rumah Susun。以下「PPPSRS」という。)を設立する義務を負う。PPPSRSは、所有者及び占有者の共用部分の権利関係などについて規律する法的な主体となる。区分所有建物のディベロッパーは、専有部分の最初の引渡しから1年以内にPPPSRSが設立できるよう会議室、設備や所有者の情報提供や事務の手伝い等の支援をする義務を負う。また、新規則においてPPPSRSの設立に至る手続に関する詳細な規定が設けられた。
PPPSRSは、区分所有者による創立集会によって設立され、創立集会ではPPPSRSの機関構成、定款及び付属定款、並びにPPPSRSの機関の委員の選任を行う。設立証書、定款及び付属定款については地方の管轄当局に登録する必要がある。
2. PPPSRSの機関
PPPSRSは、区分所有者の集会のほかに、区分所有者による執行委員会(pengurus)及び監督委員会(pengawas)から組織される。執行委員会及び監査委員会は、それぞれ5人以上の委員で構成され、委員はそれぞれ区分所有建物に居住する区分所有者の中から選任され、任期はいずれも3年である。
3. ディベロッパーからPPPSRSへの引継ぎ
ディベロッパーは、PPPSRSの設立後3か月以内に、公証人の面前で共用部分の占有をPPPSRSに移転する必要があり、土地の境界、建物の設計図書、許認可等の書類もあわせて引き継がれる。また、占有移転に先立ち、公認会計士によるPPPSRSの監査が行われる。
区分所有建物の管理のため、PPPSRSは、設立から3か月以内に、自ら管理会社を設立するか管理会社を選任すべきこととされている。管理会社は、法人でありかつ必要な許認可を取得している必要がある。
4. PPPSRSの運営
区分所有者の集会では、主に(1)占有に関する事項(居住者のルール、地域活動、防犯、衛生施設への拠出など)、(2)権原に関する事項(共用部分の使用、管理費の徴収など)、(3)その他の管理に関する事項(共用部分の維持管理、積立金からの支出など)、及び(4)委員会の委員の選任に関する事項について決議がなされる。集会において決議するためには、原則として、定足数として過半数の区分所有者又は代理権を付与された占有者の出席を要し、決議要件として出席者の議決権の過半数の賛成が必要となる。また、定款の変更など、一定の重要な決議事項については、定足数として3分の2以上の出席、決議要件として出席者の議決権の3分の2以上の賛成を要する。
各区分所有者が有する議決権の割合は、決議事項によって異なっており、上記(2)及び(3)の事項については専有部分の価値に応じて定められる割合に応じた議決権を有するとされているが、上記(1)及び(4)の事項の決議については各区分所有者につき1つの議決権とされている。そのため、仮にディベロッパーが床面積ベースでは専有部分の3分の2を所有している場合であっても、PPPSRSの運営の全てを決定できるわけではない。
5. 団地開発における協力
一つの開発区域において、段階的に複数棟の区分所有建物の開発が行われる場合、各段階の工事は3年以内に完了させる必要があり、各建物に共用部分を設け、PPPSRSもそれぞれの建物について設立する必要がある。複数の建物で共通の共用部分が設けられる場合には、各建物のPPPSRSとの間で協力に関する契約を締結し、共同で管理する必要がある。
以上