◇SH0964◇第三者委員会の役割と機能 第1回 久保利英明(2017/01/13)

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第三者委員会の役割と機能

第三者委員会とは何か――その概要と役割 (第1回)

日比谷パーク法律事務所代表

弁護士 久保利 英 明

 

Ⅰ 第三者委員会の本質とは何か

1. 第三者委員会の意義、役割

 (1) 第三者委員会の意義

 第三者委員会とは何でしょうか。その定義が法律で定められているわけではありません。一昨年、日本取引所自主規制法人[1]から「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」が公表されました。しかし、これは、あくまでも原理・原則を示すものであって、ルールではありません。そこに書いてある考え方の下でやれば大筋まちがいがないでしょうという性質のものです。その意味で、遵守すべきもの、または、違反するとペナルティーが科せられるというものではありません。

 第三者委員会とは典型的なソフトローです。「ソフト・ソフト」の状態からスタートしたものです。私は早くから第三者委員会の実務に携わってきた経験から、第三者委員会の意義を次のように理解しています。

 すなわち、日本にコンプライアンスやガバナンスというものをしっかりと根付かせるためには、市場(マーケット)の構成員である企業において自浄作用が発揮されなければなりません。自浄作用がない企業はまともではありません。さらに、まともでない企業が多く集まる国は、まともな国家にはならないでしょう。もし企業が自らの自浄作用をもってその組織風土を変えていこうとするならば、そのお役に立ちたいというのが第三者委員会であるとご理解いただければと思います。

 (2) 役割は何か?

 次に、第三者委員会の具体的な役割は何でしょうか。3点に集約できます。第1に、事実を確定するために調査を行う役割です。しかし、それだけでは自浄作用の発揮にはつながりません。そこで、第2に、事実をもとに原因を究明する役割です。ここに言う原因とは表面的なものではなく、本当の原因つまり「真因」を明らかにすることが事実調査の次に来る役割だと考えています。

 第3に、真因が明らかになれば、真因を是正し再発を防止するために必要なことを提言します。即ち、再発防止のための提言・提案をする役割です。

 (3) 独立性と協働関係

 これらの役割を果すために、最も留意すべきなのが利益相反です。すなわち、会社の求めているものを忖度し過ぎて調査に手心を加えたり、もちろん会社側や役員の代理人になったり刑事弁護人であったりすれば不適格です。自浄作用の発揮に役立たないからです。

 第三者委員会で最も大事なものは、会社からの「独立性」です。自主独立して、事実を曇りのない目で探究する。そして、真因は何だったのかを究明し、是正するためには何が必要かを虚心坦懐に提言していく。第三者委員会とはこのような組織です。

 ただし、皆さんに誤解しないでいただきたいのは、会社と第三者委員会とは敵対関係ではないということです。会社が本当に立ち直る、再生するためにはどうすればよいかを調査・提言するわけですから、独立性を持ちながらも企業価値再生のために協働関係にもあるという関係です。

 

2. 第三者委員会の依頼者は誰か

 (1) 真の依頼者は誰か

 独立性を強調しましたが、第三者委員会は会社との契約関係によって立ち上がります。それでは、契約当事者は誰か、つまり誰が誰に対して頼むのでしょうか。

 私の経験から申しますと、形式的にはやはり社長さんのことが多いのです。現実には取締役会を開き、第三者委員会の設置を決め、次に委員長を決める。そして、委員の人選を諮り、委任を決議するとなります。

 ところが、社長さんとしては具体的に何を調査するのかまで詳しく決めたがります。裏返せば、広く調査され、批判されることを恐れて、第三者委員会の調査に対する制約をできるだけ多く設けたくなるということです。しかし、社会の目がそうはさせません。そもそも社会――世間やマーケットと言っても良いでしょう――は、経営陣全員を信頼できないと感じているのです。このような状況の下にありますから、会社が第三者委員会に対してあれやこれやと指図することになれば、社会としては、何のために第三者委員会を設けたのか疑います。まったく意味がないのです。したがって、会社として、調査範囲については第三者委員会に全面的に委任せざるを得ません。

 それでは、委任を受ける第三者委員会側はどうあるべきでしょうか。自主独立は大事です。ただし、調査は、会社とともに行う協働作業でもあるわけです。ですので、最終的な目標である、この会社をどうやって立ち直らせるかを第一に考えなければなりません。

 このように考えますと、形式的には会社、社長さんから頼まれていますが、真の依頼者は会社に関わるオールステークホルダーなのです。株主、従業員、顧客だけでなく、社会、さらに、将来株主になるかもしれない投資家、マーケットも含まれます。このような方々のことを考えて、どのような調査をし、提言をすべきか。第三者委員会の委員長は、この全体像を踏まえて行動し、判断しなければならないという非常に難しい立場にあります。

 (2) 社長(経営者)の姿勢

 社長さんとしては、社会からの信頼を回復することを第一に考えて、社外取締役や社外監査役の意見を十分に聞き、しっかりと同意をとった上で、会社として調査に全面的に協力することを決定しなければなりません。たとえば、第三者委員会からサーバーの中にあるメールを確認したいと要請されれば全部開示することを取締役会で決めておくべきです。従業員に対するヒアリングに協力してほしいという要請に対しても、従業員には業務命令として応じさせるとあらかじめ決めておく。アンケートに答えてほしいという要請なら、業務よりも最優先で回答すべきということを指示しなければなりません。こういう“決め”があって初めて第三者委員会との協働作業が成り立ちます。これは会社の内部的には非常にシビアなことです。しかし、それができなければ信頼に足りる調査はできません。それを思えば、第三者委員会も当然に、全ステークホールダーに対する責任を負って行動すべきことになります。

 

3. 第三者委員会の委員長の人選

 (1) 検事や裁判官がよいのか

 次に、委員長をどのように選任すればよいでしょうか。たとえば弁護士であれば、候補者のリストが日本弁護士連合会(日弁連)にあるかというと、ありません。どこにもないのです。となりますと、どのような判断基準で選ぶべきでしょうか。今、日本には弁護士が約37700人いますが(日本弁護士連合会『弁護士白書2016年版』)、経歴や肩書きでしょうか。

 たとえば、2015年11月4日付けの産経新聞に「不祥事企業、トップに元特捜検事雇う」という記事が載っていました。第三者委員会の委員長に特捜検事出身の弁護士を据えるケースが多いという内容です。同様に、高等裁判所の長官を経験した裁判官出身の弁護士を据えるケースもあります。これらのなかには第三者委員会の実務にふさわしい能力をお持ちの方もいらっしゃいますが、率直に申しますと、私は長年訴訟や調査活動をしてきた弁護士のほうがふさわしいと考えています。

 なぜかと申しますと、まず、現役の検察官には強制的な捜査権限があります。権力を持っています。それから、日本で最も優れた捜査機関である警察を自由に使えます。電話1本で色々な証拠を集めてくれます。しかし、元検察官といっても第三者委員会にそのような存在はいません。裁判官はどうでしょうか。裁判官は自分で証拠を探すことはいたしません。民事事件なら原告も被告も、刑事事件なら検察官も弁護人も提出しないような証拠を裁判官がどこからか見つけてきて、有罪にした、無罪にしたとか、再審にしたという話はあまり聞きません。

 第三者委員会の活動の肝は調査です。必要な証拠を探してきて、それをつなぎ合わせて、真相はこうだったのではないかと仮説をたてて、検証するのです。そこでは、委員長の経歴がものを言うわけではありません。事実調査を一生懸命やってきた経験があること、言わば、調査のプロフェッショナルが必要とされるのです。もちろん、弁護士にもそのような経験のない人は多数います。

 多くの裁判官は文書を最も大事にしていて、偽造はほとんどないと考えているように感じます。りん議書やメールの信頼性を高く見るでしょう。文書は形式が整っている限り、裁判官は信用しがちです。他方で、弁護士は偽造された文書を嫌というほど見ています。証拠となりうるのか否か、その判断力をいつも問われています。把握しています。

 (2) 大事なのは調査能力

 何を申したいかと言いますと、検事だから、裁判官だから信用できる、あるいは、弁護士を長年やっているから間違いない、とは決して言えないということです。繰り返しになりますが、調査能力の優れた人こそが第三者委員会にふさわしいのです。そのためには、会社事件、倒産事件を数多く手がけ、あるいは刑事事件で厳しい事件を、有罪か無罪かをきちんとした証拠をベースに争った経験があるかどうかが判断の決め手です。

 (3) 良い人選をするための判断材料

 そうは言っても、その見極めは難しいと思います。もし皆さんの会社が第三者委員会を立ち上げる事態になったとき、委員長を選ぶに当たってどうすればよいか。1つの方法として、これまでに公表された多くの第三者委員会の報告書をご覧になってください。誰が、どのような報告書を書いているか。そして、その報告書に対する世間の評価はどうか。手前味噌ですが、私どもでもさまざまな報告書を取り上げて、格付けしております(第三者委員会報告書格付け委員会〈http://www.rating-tpcr.net/〉)。また、表彰(プライズ)委員会という、報告書を表彰する委員会もあります(〈http://www.rating-tpcr.net/report/〉)。その格付け結果や表彰結果が1つの判断材料となるかと思います。いわばプロ同士のピアレビューとして、御利用いただければ幸いです。こうした資料をご活用いただいて、会社としても真剣に選んでいただければ幸いです。

 

4. 第三者委員会の委員、スタッフ

 次に、委員長を支える委員をどうするかです。仮に不正会計が調査対象であれば、当然、公認会計士の方を委員に入れます。土木・建築・工業製品などの科学的なデータ捏造が調査対象であれば、科学分野の研究者の方に加わってもらいます。

 私は、弁護士だけで構成された委員会をあまり信用しません。どれだけ優れた弁護士でも、その見方は弁護士の域を出ないからです。一方、その道の専門家が入っている第三者委員会報告書には厚みが出ます。私がNHKのインサイダー取引に関する第三者委員会を担当したときも、弁護士2名のほかに、共同通信で報道現場の出身の元役員に入っていただきました。それは、不祥事の真因を探り、提言を出すには、NHKだけではなく報道機関がどうあるべきかというミッションを検討すべきだと考えたからです。

 このように、多様性のある方々に委員に入っていただきます。委員は大体3名から5名です。これに加えてスタッフを入れていく体制をとります。

 では、スタッフはどのような人がよいでしょうか。大規模な法律事務所の若手を大量投入すればよいか。しかし、いわゆるデューディリジェンスの場面とは性格が違います。もちろん似た部分もありますが、証拠を探すというときにはヒアリングが重要になります。しかも、会社や組織の偉い人を対象とします。偉い人は、うそをつかないまでも大事なことを言わないことが多いのです。その人に切り込み、真相は何かをえぐり出さなければならない。あるいは、表情やふともらす片言隻句から心証をとらなければならないのです。

 たとえば、偉い人が「チャレンジ」だと言った。では、「チャレンジ」とは何の意味を込めて、具体的にどのような状況で言ったのか。机をたたいてチャレンジと言ったのか、あるいは、業績を真に上げようという趣旨で言ったのか。このあたりを追及しなければ、実は真実は浮かび上がってきません。

 これはテクニックでできるものではありません。この第三者委員会の調査の眼目は何なかを理解した上で、質問を練り上げ、回答を吟味する。これは弁護士になって数年程度ではなかなか難しい。己れを無にして頑とぶつかって真実を発見していくのにはやはり弁護士経験10年ぐらいは必要です。事実を巡る真剣勝負で鍛えられた現場感覚が貴重なのです。その意味で、スタッフについても数ではなくて能力を考えなければならないと思います。

 

5. 第三者委員会の目的は何か

 企業が第三者委員会に調査を託す目的は企業価値の再生のためです。そのために、オールステークホルダーに対して真相と真因を明らかにし、再発防止のために何をしければならないかを提言する。実はこれは、弁護士が普段からやっている仕事とは異なります。弁護士の普段の仕事は、代理人として、その依頼者を勝たせることです。もちろん嘘や偽造はいけませんが、何とかして勝てるように工夫をする。しかし、第三者委員会というのは、そういう仕事をするのではありません。真因は何かをどんどん追及していくのです。

 また、刑事弁護人とも異なります。刑事弁護人は検察官が主張するものを何とかひっくり返し、あるいは白黒つけられないという状況まで追い込んで、黒とは言えないとして無罪を勝ち取る。灰色(グレー)無罪とも言われますが、何と言われようとも黒でないということをきちんと証明すれば、それは無罪になる。一方、第三者委員会報告書は判決書ではありません。灰色(グレー)であってもこれは原因となった可能性がある、だとすれば、真相はこうであった可能性は否定できないという書き方をしてもよいのです。刑事事件と異なり灰色は無罪でなく、追及の対象となるということです。捜査権限もない中でできるだけ真相、真因に迫るためにはそのようなスタンスをとるしかありません。そう考えると、普段行っている民事代理人、刑事弁護人の仕事とは異なります。オールステークホルダーを念頭に置きながら、会社の企業価値を再生するために真因を追及するという仕事は、実は弁護士もあまりやったことがないのです。

 これまでの公表された第三者委員会報告書をみていると、第三者委員会の目的を誤解しているように感じるものが少なくありません。依頼者は社長さんだから、社長さんだけは罪がない、関与していないということにしましょうという、誤った工夫を重ねた報告書があります。金融庁をはじめとするマーケットの規制当局の方はこのような状況では困ると思ったでしょう。世間の方々も、これでは、刑事事件の弁護人の弁論要旨を聞いているようなものではないかと思います。これを重ねれば、弁護士そのものが信用されなくなってしまいます。オールステークホルダーのことを全然考えていない報告書では困ります。

 そこで、日弁連も真剣に考えました。第三者委員会というのは普段の仕事と違うのだということを弁護士にも示すためにガイドラインを作成しようということになりました。検討チームが立ち上がり、私はたまたまその座長を務めることになり、2010年の7月に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(最終改訂:同年12月17日〈http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2010/100715_2.html〉)を公表しました。これについては後ほど項を改めてご説明します。



[1] 筆者は同法人の外部理事を務めているが、本稿の内容は弁護士個人としての見解であり、同法人としての公的見解ではないことに留意いただきたい。

 

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