◇SH2126◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(107)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する⑰岩倉秀雄(2018/10/09)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(107)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する⑰―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、食中毒事件後の雪印乳業(株)の対応の経緯を述べた。

 7月28日、雪印乳業(株)は、石川社長ら8人の役員が引責辞任西紘平常務が新社長に就任する新体制を発足した。

 その間、雪印製品全てに対する不信が拡大し、店頭での雪印製品の撤去が全国に広がった。

 7月12日より、雪印乳業(株)は営業禁止中の大阪工場を含む全国の市乳21工場の操業を自主的に停止し、安全性の確認を行なった。

 第三者機関による安全点検を実施したほか、厚生省によるHACCP遵守確認の査察を受けた。

 厚生省専門評価会議は、食品衛生上の重大な問題はなかったと結論付け、厚生大臣津島雄二は、8月2日の記者会見で事実上の安全宣言を行なった。

 これを受けて、8月6日朝刊に社告「安全確認の終了及び品質管理の徹底そしてお客様へのお約束」を掲載し、お客様への約束として、①お客様ケアセンターの設置、②フリーダイヤル年中無休体制の確立、③商品安全監査室の設置、④再利用の禁止、⑤工場記号から工場名表記へ変更、の5項目の実行を表明、これを機に売場復活活動を再開した。

 今回は、食中毒事件の原因が大樹工場にあったことが判明した経緯について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する⑰:大樹工場の事故】

 2000年6月27日の食中毒事件の発生以来、関係機関及び雪印乳業(株)による懸命の原因究明活動にもかかわらず、汚染源、汚染経路等は特定されていなかった。  

 8月18日、大阪市が、低脂肪乳の原料として用いられていた大樹工場製造の脱脂粉乳から、黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンA型が検出されたことを発表したため、食中毒の原因究明は北海道の大樹工場に移った。

 

1. 大樹工場製の脱脂粉乳からエンテロトキシンA型を検出

 毒素が検出されたのは、大樹工場で2000年4月10日に製造された脱脂粉乳で、工場に保存されていた2サンプルを大阪府警が8月4日に押収し、大阪府立公衆衛生研究所に鑑定を依頼していた。

 その結果、それぞれ1グラム当たり4ナノグラム(ナノは10億分の1)を検出した。

 8月19日、大樹工場は操業を停止し、行政の立ち入り検査を受けた。

 雪印乳業(株)は8月21日に社告を掲載し、お詫びと他の乳製品については、該当する脱脂粉乳を使用していないため安全であることを表明した。

 8月23日北海道保健福祉部と帯広保健所が大樹工場4月1日製造の脱脂粉乳からもエンテロトキシンA型が検出されたことを公表した。

 

2. 大樹工場への営業禁止命令と八ヶ岳雪印牛乳(株)商品の自主回収

 大樹工場製脱脂粉乳からエンテロトキシンA型が検出されたことを受け、帯広保健所は8月23日、食品衛生法に基づき、同工場に対しチーズ製造を含む営業禁止と、4月1日と10日製造の脱脂粉乳の回収命令を出した。

 また、大阪府警は大樹工場の脱脂粉乳が汚染原因と特定し、業務上過失傷害容疑などで同工場を家宅捜索する方針を固めた。

 同日、北海道支社長が会見し、「毒素に対する認識が欠如していた」ことを謝罪し、トラブル発生時の作業マニュアルの未整備や、社内規定を超える細菌を含んだ脱脂粉乳を原料として再利用したことなど、ずさんな生産現場の実態も認めた。

 雪印乳業(株)は8月25日に社告を掲載し、謝罪と併せて4月1日製造の脱脂粉乳が関連会社の八ヶ岳雪印牛乳(株)の商品の一部原料に使用されていたことから、エンテロトキシン検査の結果は陰性であったが自主回収することを発表した。

 

3. 大樹工場操業再開までの経緯

 大樹工場は8月28日、衛生管理体制などの改善計画書の原案をまとめ帯広保健所に提出した。

 その主な内容は、①停電事故発生時の対応マニュアル、②毒素エンテロトキシンを含む社内における自主検査体制の構築、③製造施設及び機器の洗浄・消毒の実施、④従業員の衛生教育の実施などであった。

 一方、8月29日帯広保健所が4月10日製造脱脂粉乳に関し、日報の改ざん(数量の虚偽報告並びに製造日付の改ざん)があったことを発表した。

 8月30日、東京本社及び西日本支社に対し、大阪府警が家宅捜査に入った。

 一方、長野県が、八ヶ岳雪印牛乳㈱の「牧場の朝」からエンテロトキシンが検出されたと発表、これを受け、諏訪保健所から八ヶ岳雪印牛乳(株)の8月14日、15日製造の同商品について回収命令が出された。

 9月1日、帯広保健所が手捺印製造日の6月30日付脱脂粉乳をさらに追加発見し、エンテロトキシンを検出したことを発表した。

 同日、北海道支社は道東支店にて記者会見を行ない、未出荷のまま保管されていた大樹工場製造の脱脂粉乳6,400袋(160トン)を全量廃棄し、今後大樹工場で脱脂粉乳を製造しないことを発表した。

 9月8日、大阪府警が大樹工場の家宅捜索を開始。

 9月20日、厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議の中間報告で、大樹工場製造の脱脂粉乳が食中毒の主たる原因であったと判断されることを発表。また、この脱脂粉乳の使用を確認できない製品の有症者も報告されていることから、大阪工場におけるずさんな衛生管理も否定できないとした。

 10月13日、10月3日から7日までのテスト生産で製造された製品の安全性が確認されたこと、洗浄・消毒が不十分なため細菌が検出された菓子原料ホエー粉の製造工程の一部についても、13日までの再検査の結果問題がなかったことから、帯広保健所は大樹工場の営業禁止命令を解除した。

 12月20日、厚生省・大阪市の原因究明合同専門家会議は、食中毒の原因を大樹工場の脱脂粉乳製造過程とする最終報告案をまとめ、中間報告で可能性を指摘した大阪工場のずさんな衛生管理については原因から除外した。また、有症者は1万4,780人、診定患者数は1万3,420人と断定した。

 次回は、事件の原因と問題点について考察する。

 

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