経産省、「カメラ画像利活用ガイドブックver1.0」を策定
岩田合同法律事務所
弁護士 松 原 崇 弘
「カメラ画像利活用ガイドブックver1.0」について
経済産業省、総務省およびIoT推進コンソーシアムは、平成29年1月、「カメラ画像利活用ガイドブックver1.0」(以下、「本ガイドブック」という。)を作成した。本ガイドブックは、事業者が、カメラ画像について、特徴を踏まえつつ利活用の促進を図ることを目的とし、その手段として、生活者とそのプライバシーを保護し、適切なコミュニケーションをとるにあたっての配慮事項を整理したものである。以下、本ガイドブックについて、法的観点を中心に紹介する。
1. 法的位置づけ
本ガイドブックは、事業者に対して、カメラ画像の利活用にあたっての遵守事項を定める規範的効力を有するものではなく、また、記載された配慮事項を強制するものではない。事業者が、任意で、生活者と事業者間での相互理解を構築するための参考とするものと位置づけられる。
2. 本ガイドブックの趣旨
事業者によるカメラ画像の利活用方法は、店舗内カメラ、車載カメラ、街頭カメラなどが考えられ、これらによって、顧客満足度の向上・商品廃棄物の削減、交通渋滞の解消や将来の自動運転の研究開発、迷子や急病患者の早期発見・災害時の群衆誘導などが期待される。このような期待から、事業者にとって利活用のニーズが高いが、一方で、生活者とのコミュニケーションとして、カメラによる撮影にあたっての事前告知等に関する指針がなく、カメラ画像の利活用が躊躇されてきた。また、生活者からも、データの利用目的が分からないなどの不安もある。
本ガイドブックは、事業者がカメラ画像を利活用するにあたり、ユースケース(想定適用ケース)を元に、生活者とそのプライバシーを保護し、適切なコミュニケーションをとるにあたっての配慮事項を整理することで、事業活動とプライバシー権との調和を図りつつ、カメラ画像の利活用が具体的に促進することを期待するものである。
3. 本ガイドブックの概要
本ガイドブックの適用対象は、個人情報保護法等関係法令を遵守し、個人を特定する目的以外の目的でのカメラ画像の利活用を検討する事業者である。なお、防犯目的で取得されるカメラ画像の取扱いは適用対象外である。
本ガイドブックは、配慮事項を、基本原則のほか、利活用の過程(事前告知時、取得時、取扱い時、管理時)ごとに整理し、また、適用ケースを設定して、配慮事項の対応例が検討されている。
配慮事項の具体的内容について若干紹介すると、「基本原則」において、特定の個人の識別が可能な画像であれば、個人情報保護法の遵守とともに、データのライフサイクルの設定及び責任主体の定めといったセキュリティに係る事項や、パブリック空間を撮影する場合には設置場所の自治体が定める条例を遵守すべきこと等が挙げられている。また、「利活用の過程」においては、それぞれの過程で配慮すべき事項のほか、事前告知時、取得時等の過程ごとに、生活者に対して告知すべきと思われる事項の記載内容例も紹介されている。
4. 事業活動への影響・留意点
本ガイドブックを契機に、様々な事業活動の領域において、一層、カメラ画像の利活用が促進されると予想される。
本ガイドブックは、各種サービスの利用者をはじめとした生活者との適切なコミュニケーションを図り、相互理解を構築するために不可欠な考慮要素を配慮事項として整理したものであるから、事業者は、かかる配慮事項を参考にしつつ、自己の業界・業態を踏まえ、生活者とそのプライバシーの保護に配慮した利活用ルールを設定する必要がある。そして、事業者が配慮すべき範囲は、個人情報保護法により守られるべき範囲を包含し、かつ、それよりも広く(図1)、また、かかる配慮事項は、個人情報保護法遵守のための各種方策を一部敷衍するものでもある。
ただし、本ガイドブックを活用したとしても、事業者によるカメラ画像の利活用に関して、すべての生活者の同意・理解を得ることは困難であり、批判や訴訟の発生リスクを完全に排除できるものではないことにも留意されたい。