◇SH1670◇公取委、「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表(2018/02/26)

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公取委、「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表

――フリーランス等の人材の獲得をめぐる競争に対する独占禁止法の適用についての考え方を示す――

 

 公正取引委員会は2月15日、「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表した。

 個人の働き方が多様化するとともに、労働人口の減少による深刻な人手不足のおそれから、人材の獲得をめぐる競争の活発化が予想され、またその一方で、活発化した競争を制限する行為が行われる可能性もあるところである。個人が個人として働きやすい環境を実現するために、「人材の獲得をめぐる競争に対する独占禁止法の適用関係および適用の考え方」を理論的に整理するため、公取委では、競争政策研究センター内に「人材と競争政策に関する検討会」(座長=泉水文雄・神戸大学大学院教授)を設置した。そして、ヒアリングやウェブアンケートを通じて把握された発注者(使用者)による人材の獲得をめぐる競争を制限する行為について、平成29年8月から検討を行ってきた成果を取りまとめて公表したものである。

 なお、公取委は、今後の業務の参考とするため、本報告書に関する意見を3月16日まで募集することとしている。

 以下では、報告書のうち、①労働法(労働者・労働組合)と独占禁止法の関係、および、②発注者(使用者)による人材の獲得をめぐる競争を制限する行為について独占禁止法上の考え方を検討した部分の概要を紹介する。

 

1 労働法(労働者・労働組合)と独占禁止法の関係について
  (報告書の第3「労働者・労働組合と独占禁止法」から)

 1947年の独占禁止法立法時には、「人が自分の勤労を提供することは、事業ではない」として、労働者の労働は独占禁止法2条1項の「事業」に含まれないとの解釈がなされ、公正取引委員会は、これらを踏まえて独占禁止法を運用してきた。

 しかし、就労形態が多様化する中で、独占禁止法上も労働法上も解決すべき法的問題が生じてきている。さらに、近年、労働契約以外の契約形態によって役務提供を行っている者であっても、労働組合法上の「労働者」に当たると判断される事例も生じている。このように労働契約を結んでいなくとも「労働者」と判断される者が、独占禁止法上の事業者にも当たることも考えられる。

 以上のことを踏まえると、労働者は当然に独占禁止法上の事業者には当たらないと考えることは適切ではなく、今後は、問題となる行為が同法上の事業者により行われたものであるのかどうかを個々に検討する必要がある。同様に、独占禁止法上の「取引」についても、その該当の有無を、取引の類型ごとに一律に整理するのではなく、独占禁止法上禁止されている行為に該当する行為が行われていると認められる場合に、その行為のなされている取引が独占禁止法上の「取引」に該当するかどうかを個々に検討することが適切である。

 そして、労働法と独占禁止法の双方の適用が考えられる場合、それらの適用関係について検討する必要がある。

 そもそも独占禁止法立法時に前記のとおり労働者の労働は「事業」に含まれないとの解釈が採られたのは、使用者に対して弱い立場にある労働者保護のため、憲法の規定に基づき労働組合法、労働基準法を始めとする各種の労働法制が制定されたことを踏まえたものであった。この意義自体は現在も変わらないことからすれば、独占禁止法立法時に「労働者」として主に想定されていたと考えられる伝統的な労働者、典型的には「労働基準法上の労働者」は、独占禁止法上の事業者には当たらず、そのような労働者による行為は現在においても独占禁止法の問題とはならないと考えられる。加えて、労働法制により規律されている分野については、行為主体が使用者であるか労働者・労働者団体であるかにかかわらず、原則として、独占禁止法上の問題とはならないと解することが適当と考えられる。たとえば、労働組合と使用者の間の集団的労働関係における労働組合法に基づく労働組合の行為がこのような場合に当たる。使用者の行為についても同様であり、労働組合法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も、原則として独占禁止法上の問題とはならないと解される。また、労働基準法、労働契約法等により規律される労働者と使用者の間の個別的労働関係における労働者に対する使用者の行為(就業規則の作成を含む)も同様である。ただし、これらの制度の趣旨を逸脱する場合等の例外的な場合には、独占禁止法の適用が考えられる。

 

2 発注者(使用者)の共同行為に対する独占禁止法の適用について
  (報告書の第5「共同行為に対する独占禁止法の適用」から)

(1)「役務提供者に対して支払う対価」に係る取決め

  1. ○ 複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者に対して支払う対価を取り決めることは、原則、独占禁止法上問題となる。

(2)「移籍・転職」に係る取決め

  1. ○ 複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者の移籍・転職を制限する内容を取り決めること(それに類する行為を含む)は、独占禁止法上問題となる場合がある。
  2. ○ このような行為が役務提供者の育成に要した費用を回収する目的で行われる場合であっても、通常、当該目的を達成するための適切な他の手段があることから、違法性が否定されることはない。
  3. ○ たとえば、このような行為が、複数のクラブチームからなるプロリーグが提供するサービスの水準を維持・向上させる目的で行われる場合、そのことも考慮の上で、独占禁止法上の判断がなされる。
     

(3) 役務提供者に求める資格・基準を取り決めること

  1. ○ 事業者団体などにおいて、一定の商品・サービスの供給に必要な役務提供者についての自主的な資格・基準を定めることは、通常、独占禁止法上問題とはならないが、その内容・態様によっては問題となる場合がある。

 

3 発注者の単独行為に対する独占禁止法の適用について
  (報告書の第6「単独行為に対する独占禁止法の適用」から)

(1) 秘密保持義務および競業避止義務

  1. ○ 自由競争減殺の観点からは、発注者(使用者)が、営業秘密等の漏洩防止の目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で秘密保持義務または競業避止義務を課すことは、ただちに独占禁止法上問題となるものではない。
  2. ○ 競争手段の不公正さの観点からは、発注者(使用者)が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をし、またはあらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者が秘密保持義務または競業避止義務を受け入れている場合には、独占禁止法上問題となり得る。
  3. ○ 優越的地位の濫用の観点からは、優越的地位にある発注者(使用者)が課す秘密保持義務または競業避止義務が不当に不利益を与えるものである場合には、独占禁止法上問題となり得る。
     

(2) 専属義務

  1. ○ 自由競争減殺の観点からは、発注者が役務提供者に対して、発注者が自らへの役務提供に専念させる目的や、役務提供者の育成に要する費用を回収する目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で専属義務を課すことは、ただちに独占禁止法上問題となるものではない。
  2. ○ 競争手段の不公正さの観点からは、発注者が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をする、またはあらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者が専属義務を受け入れている場合には、独占禁止法上問題となり得る。
  3. ○ 優越的地位の濫用の観点からは、優越的地位にある発注者が課す専属義務が不当に不利益を与えるものである場合には、独占禁止法上問題となり得る。
     

(3) 役務提供に伴う成果物の利用等の制限

  1. ○ 発注者が役務提供者に対して合理的な理由なく行う以下の行為は、それにより他の発注者が商品・サービスを供給することが困難となるなどのおそれを生じさせる場合には、自由競争減殺の観点から独占禁止法上問題となり得る。

    1. ・ 役務の成果物について自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務づけること
    2. ・ 成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止すること
    3. ・ 役務提供者の肖像等の独占的な利用を許諾させること
    4. ・ 著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず、納品後や納品直前になって著作権を無償または著しく低い対価で譲渡するよう求めること
  2. ○ 競争手段の不公正さの観点からは、発注者が役務提供者に対して制限・義務等の内容について実際と異なる説明をし、またはあらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者がそれを受け入れている場合には、独占禁止法上問題となり得る。
  3. ○ 優越的地位の濫用の観点からは、優越的地位にある発注者が課す制限・義務等が不当に不利益を与えるものである場合には、独占禁止法上問題となり得る。
     

(4) 役務提供者に対して実態より優れた取引条件を提示し、自らと取引するようにすること

  1. ○ 発注者(使用者)が役務提供者に対して事実とは異なる優れた取引条件を提示し、または役務提供に係る条件を十分に明らかにせず、役務提供者を誤認させ、または欺き自らと取引するようにすることは、競争手段の不公正さの観点から独占禁止法上問題となり得る。
     

(5) その他発注者の収益の確保・向上を目的とする行為

  1. ○ 優越的地位にある発注者による役務提供者に対する以下の行為は、優越的地位の濫用の観点から独占禁止法上問題となり得る。

    1. ・ 代金の支払遅延、代金の減額要求および成果物の受領拒否
    2. ・ 著しく低い対価での取引要請
    3. ・ 成果物に係る権利等の一方的取扱い
    4. ・ 発注者との取引とは別の取引により役務提供者が得ている収益の譲渡の義務づけ

 

4 競争政策上望ましくない行為について
  (報告書の第7「競争政策上望ましくない行為」から)

  1. ○ 対象範囲が不明確な秘密保持義務または競業避止義務は、役務提供者に対して他の発注者(使用者)との取引を萎縮させる場合があり、望ましくない。対策として、関係分野ごとに、範囲の明確化に資する考え方を周知すること等が考えられる。
  2. ○ 発注者は、書面により、報酬や発注内容といった取引条件を具体的に明示することが望まれる。
  3. ○ 発注者が、合理的理由なく対価等の取引条件について他の役務提供者への非開示を求めることは、役務提供者に対する情報の非対称性をもたらし、また、発注者間の競争を起こらなくし、望ましくない。
  4. ○ 役務提供者の獲得をめぐって競争する発注者(使用者)が対価を曖昧な形で提示する慣行は発注者が人材獲得競争を回避する行動であり、望ましくない。

 

  1. 公取委、「人材と競争政策に関する検討会」報告書について(2月15日)
    http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/feb/20180215.html
  2. ○ 報告書本体
    http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/180215jinzai01.pdf
  3. ○「人材と競争政策に関する検討会」報告書について(公表文)
    http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/feb/20180215.files/180215_01.pdf
  4. ○「人材と競争政策に関する検討会」報告書について(概要)
    http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/feb/20180215.files/180215_02.pdf

 

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