債権法改正後の民法の未来 61
約款・不当条項規制(9)
清和法律事務所
弁護士 山 本 健 司
Ⅲ 議論の経過
1 経過一覧
(5) 第3ステージ
キ さらに、第99回会議(H27.2.10)において、部会資料88の下記のような論点設定のもとに議論がなされた[1]。
部会資料88では、まず、①「みなし合意除外規定」について、効果が「合意をしなかったものとみなす」という表現に改められた。
また、②「約款変更」について、変更条項の存在を約款変更の必須の要件とはせず、合理性判断の1考慮要素と位置づけることに改められた。
【 部会資料88 】
-
第28 定型約款
-
1 定型約款の定義
定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
-
2 定型約款についてのみなし合意
定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。
-
⑴ 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
-
ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
-
イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
-
⑵ ⑴の規定にかかわらず、⑴の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
-
3 定型約款の内容の表示
定型約款の内容の表示について、次のような規律を設けるものとする。
-
⑴ 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
-
⑵ 定型約款準備者が定型取引合意の前において(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
-
4 定型約款の変更
定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
-
⑴ 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
-
ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
-
イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
-
⑵ 定型約款準備者は、⑴の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
-
⑶ ⑴イの規定による定型約款の変更は、(2)の効力発生時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、その効力を生じない。
-
⑷ 2⑵の規定は、⑴の規定による定型約款の変更については、適用しない。
|
第99回会議の議論では、②「組入要件」について、約款内容の表示のルールが従前の一般的な理解と比べると甘すぎる点は将来の見直しの必要がある等といった意見が述べられた。
また、③「みなし合意除外規定」について、明文がなくとも何もない状態と比較して権利を制限し義務を加重するという意味であるという点の確認等がなされた。
さらに、④「約款変更」について、実体要件の「契約をした目的に反せず」とは抽象的・一般的な契約相手方を想定して客観的に判断する、当該契約の重大な部分の変更などがこれに当たるという点の確認等がなされた。
そして、約款規制に強く反対してきた経済界の委員から、約款部分には賛成できないが、全体としての要綱案のとりまとめには反対しないという意見が述べられ、ペンディングとなっていた「約款」部分を含めた要綱案のとりまとめがなされることとなった。
(6) 要綱案
上記のような第3ステージにおける議論の結果、第3ステージ終了時にとりまとめられた「要綱仮案」では、「約款」問題について、最終的に下記のようにとりまとめられ[2]、その提言内容が改正法の「約款」部分の規定内容となった。
【 要綱案 】
-
第28 定型約款
-
1 定型約款の定義
-
定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
-
定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
-
2 定型約款についてのみなし合意
-
定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。
-
⑴ 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
-
ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
-
イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
-
⑵ ⑴の規定にかかわらず、⑴の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
-
3 定型約款の内容の表示
-
定型約款の内容の表示について、次のような規律を設けるものとする。
-
⑴ 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
-
⑵ 定型約款準備者が定型取引合意の前において⑴の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
-
4 定型約款の変更
-
定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
-
⑴ 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
-
ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
-
イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
-
⑵ 定型約款準備者は、⑴の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
-
⑶ ⑴イの規定による定型約款の変更は、⑵の効力発生時期が到来するまでに⑵による周知をしなければ、その効力を生じない。
-
⑷ 2(2)の規定は、⑴の規定による定型約款の変更については、適用しない。
|