企業法務フロンティア
適正な経営原理に関わる『3つの誤訳と誤解』により、
企業不祥事が続発
日比谷パーク法律事務所
代表弁護士 久保利 英 明
最近、トップも取締役会も知らない不祥事が続発している。2015年に端緒が発覚した東芝に続き、2017年秋以降、素材メーカーのデータ改竄や、自動車メーカーの無資格検査事件の発覚が相次ぎ、日本企業への信頼が揺らいでいる。発覚したのは最近であるにしても、こうした不正が30年以上も継続し、常態化していたのにトップは知らず、内部統制も機能していなかった。
その真因は何か、再発防止のために何をすべきだったのか。その根底には、不祥事対策基本理念に関する「誤訳と誤解」がある。この点を是正しなければ、不祥事の根絶は不可能である。
1 「コンプライアンス」を「法令遵守」と訳すのは誤訳であり、誤解を招く元である
コンプライアンスとは本来は力学の用語で「外力に応じて柔軟にしなる可塑性」のことである。これを経営や組織原理の文脈で用いるなら「組織が社会の要請に誠実に従うこと(comply)」である。敢えて日本語に訳すなら「社会適合性」であろう。
一方で、「法令」とは正当な社会の要請が踏みにじられてしまってから制定の必要性が求められ(「立法事実」の発生)、それから国会審議を経て、法律として制定されたり、行政により政省令として規定されたりするものである。したがって、法令は人々の期待や社会の要請に遅れていることが通例である。それ故に、法令を先取りして企業が行動しなければ、コンプライアンスを満足したとは言えない。法令ができてからそれを守るのは当たり前で、守らないのは反社会的集団である。企業は仮に法令が不備であっても公正な経営理念に基づいて、自律的に適切な経営を行わなければならない。
神戸製鋼は鋼板や銅板の性能が契約基準を満たしていないのに、「トクサイ」と称して顧客に品質を偽装し、納入し、正規料金を受領していた。これは契約違反であり、明らかなコンプライアンス違反であるにもかかわらず、同社は記者会見において、刑事罰に触れないから法令違反ではなく、民事責任は民間同士の係争に過ぎないから、法令違反にはならず、よってコンプライアンス違反はないと主張した。ところが、米国司法省は、刑事罰を視野に入れ、罰則付き召喚状を発出して、詐欺容疑で捜査を開始している。
東京地検も同社を不正競争防止法違反として起訴し、有罪判決が下っている。
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