◇SH2149◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(110)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する⑳岩倉秀雄(2018/10/19)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(110)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する⑳―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、汚染された脱脂粉乳の流通経路と、大樹工場の問題点について述べた。

 4月1日付製造脱脂粉乳は、八ヶ岳雪印牛乳と神戸工場に、4月10日付製造脱脂粉乳は、大阪工場、神戸工場、福岡工場に輸送された。

 神戸工場では、有症苦情が33件あったが、苦情品、未開封製品からエンテロトキシンは検出されず、福岡工場では、当該製品に関わる苦情は報告されなかった。八ヶ岳雪印牛乳では、当該製品喫食による苦情が7件あったが、黄色ブドウ球菌による食中毒と断定するにいたらなかった。

 雪印乳業(株)は、大樹工場において食中毒を防げなかった原因を①作業ルールの標準化と記録する姿勢の不足、②微生物に対する知識の不足、③微生物検査異常品の再利用、④規格外品処分の仕組みの欠如、⑤事故発生時に全社で解決する仕組みの欠如を挙げている。

 今回は、連日メディアにより報道された大阪工場の衛生上の問題点と事故原因の究明が遅れた理由について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する⑳:食中毒事件の原因と問題点③】

1. 大阪工場の問題点

 大阪工場は年間製造量11万キロリットル(1999年度)の飲用乳、ドリンクヨーグルト及びクリームを生産する市乳の主力工場であった。

 厚生省・大阪市原因究明専門家会議による2000年9月20日の大阪工場の衛生管理状況調査結果(中間報告)では、以下のような衛生上の問題はあるものの、大阪工場の低脂肪乳製造工程で今回の黄色ブドウ球菌による毒素が発生する確率は極めて低いと評価された。

 さらに、同専門家会議による2000年12月の最終報告では、最終的に関係がなかったとして食中毒事件の原因から除外された。

 しかし、原材料の使用記録の不備が原因調査を遅らせたことや、再製品の使用記録がないことから店頭の返品を再利用したかのように受け止められるなど、大阪工場の衛生管理の報道が雪印製品の信頼を失墜させることにつながった。

 大阪工場の問題点をまとめると下表のようになる。

 なお、食中毒が拡大した背景には、社内で真の原因を追究する姿勢が十分でなく、マスコミの報道が大阪工場の管理の問題に向けられたことが大きいと考えられる。(『雪印乳業史 第7巻』412頁)

 

表.大阪工場の問題点

項目 内容
HACCPに関する点検記録 記載方法、訂正方法等に不適切な点(読み取りにくい、修正液による訂正など)が認められたが、重要管理点における管理基準の逸脱等の大きな問題点は認められなかった。
一般的衛生管理に関する衛生管理状況 逆止弁(チャッキ弁)の分解洗浄の不足

  1. ・ 規定された実施頻度で洗浄されていなかった。
  2. ・ 実施頻度が記載されていないものもあった。
  3. ・ 使用頻度と比較して洗浄頻度が少ない。
仮設のホースによる配管

  1. ・ CIP洗浄が可能なホースもあるが、使用後の水洗や不定期の循環洗浄のみのホースが認められた。
  2. ・ ホースの保管場所が屋外にもあり、保管時にホース末端に栓がされていなかった。
屋外における調合作業

  1. ・ 最終成分調整のための脱脂粉乳溶解機による脱脂粉乳溶解液の投入作業が、屋外で手作業により行なわれていた。
再製品の使用
  1. ・ 製造後出荷されずに冷蔵庫に残った商品及び出荷後受注ミス等により返品された商品を原料として使用していた。
  2. ・ 開封作業は冷蔵庫で委託業者が行ない、中には期限切れのものも混入していた可能性があった。
  3. ・ 加工乳の再製品を加工乳の原材料として再利用したことは、乳等省令違反であるとされた。この問題は大阪工場だけの問題ではなかったが、加工乳の加工乳への再利用については、雪印乳業(法人)が食品衛生法違反として起訴され略式手続きによる処分(罰金)を受けた。

(『雪印乳業史 第7巻』412頁をもとに筆者がまとめた)

 

 なお、食中毒事件を拡大した原因として、情報開示の遅れと報道対応のまずさ[1]については既述したが、事故原因の究明を遅らせた要因としては、次の問題があった。

 

2. 事故原因特定に至るまでの問題

 雪印乳業(株)は、事件当初から工程の問題のみならず、原材料の瑕疵についても調査を進めていた。当初、大阪工場の受け入れ記録からは、原材料として使用された脱脂粉乳は、磯分内工場ということになっていたが、7月3日までには、これは日報の記載ミスで大樹工場製の脱脂粉乳であるとの疑いが出てきた。

 7月初めから、同社品質保証部分析センターは大阪工場製品の原料となった可能性のある脱脂粉乳等についてエンテロトキシン検査を開始したが、7月13日までに全てについて陰性であるとの結果が出た。

 この中には、4月10日製造の脱脂粉乳も含まれていたが、このときはエンテロトキシンの検査方法が確立されておらず、手探り状態での判断であった。

 この結果、雪印乳業(株)は原材料には問題がないと信じ、大阪工場の工程に問題を見出すべく様々な調査・実験・推定を行なうとともに、全市乳工場の停止・再点検を行なった。

 ところが8月18日、大阪市より大樹工場製脱脂粉乳からエンテロトキシンAを検出したとの発表があり、社内でも直ちに再検査したところ、エンテロトキシンの存在を確認することとなった。(『雪印乳業史 第7巻』413頁)

 

 次回は、食中毒事件後の対応と再発防止策について考察する。



[1] 雪印乳業(株)の事件公表は食中毒被害者の最初の届け出から2日後に遅れた、原因が不明であることにとらわれ、消費者の手元にある販売済みの製品の危険性を軽視した、報道対応に不慣れで記者会見の体制づくりができていなかった、正確に事実関係を把握せずに記者会見を開き、公表内容が二転三転した、公表内容に対する意思統一が図られなかった、役員等幹部社員の不用意な発言がつづきメデイアの批判を呼び、会社に対する不信感と社会的不安を増幅させた。

 
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