空き家問題・放置された土地問題と「所有権の放棄」について(2)
富士ゼロックス株式会社
知的財産部マネジャー
梅 谷 眞 人
3. 寄付は可能か
現在、国が不動産の寄付を積極的に受け付けているとの情報は発見できない。不動産の所有権は、地方自治体(区市町村)への寄付が可能ではあるけれども、事実上不可能な場合が多く、道路の拡張や、市街化区域(都市計画法で建物の建築が認められている地域)の有効活用可能な土地等であれば、寄付を受け付けてくれる場合もあり得るであろうが、通常は、無償であっても市町村は不動産の寄付を受け取らないらしい[1]。
4. 相続放棄の場合
(1) 所有権の帰属
不動産の所有者が死亡したときに、相続人全員が遺産すべてについて相続放棄(民法939条以下)し、特別縁故者もなく(民法958条の3)、相続人不存在となった場合、当該不動産は、最終的に国に帰属する(民法959条)。その場合、地方自治体が選任する相続財産管理人が、不動産を売却等して換価し、残余があれば相続財産法人から国庫に納付される[2]。
(2) 管理責任
相続人全員を特定して同意を得ることができ、相続放棄(民法940条)できたとしても、固定資産税は免れるが、土地建物の管理義務は免れない[3]。その義務を免れるには、家庭裁判所に対して、相続放棄だけではなく、相続財産管理人選任(民法952条1項)を申し立てなければならない。相続財産管理人が選任されれば、遺産は相続財産法人(民法951条)に帰属し、相続財産管理人は法定代理人として(民法953条)、遺産を管理・清算する。債権者を探して債務を弁済後、残余財産があれば国庫に収納され、国有財産になる[4]。
しかし、相続財産管理人の選任には、1年近いと推定される手続き期間と予納金コストの問題が生じる。相続財産管理人の選任申立てに家庭裁判所に払う予納金(財産によって変動するが、100万円程度)がかかり、そのため、価値のない土地を処分するために相続財産管理人の選任手続きを申し立てる者は少なく、「所有者不明土地問題」の原因の一つになっている。そのため、相続放棄後、相続財産管理人が選任されない場合、相続人が管理責任を負うけれども、管理されないまま放置されることが多い。さらに、相続人全員が相続放棄し、相続財産管理人が市場で売却する努力をしても、利用価値が低いから放棄された物件は、買い手がつかない。
(3) 行政代執行による空き家の処分
空家対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法。平成27年2月26日施行)[5]や地方自治体の条例(法律の実施のための委任条例)[6]によって、相続放棄された空き家を「特定空き家」に認定し、行政代執行(所有者不明の場合に行う略式代執行の手続き。建築基準法9条11項参照)によって、危険な建物を取り壊して収去する方法がある[7]。
所有者が判明していれば、適正管理義務違反の戒告、代執行令書の通知、代執行と進み、行政代執行の費用を請求することになろう(行政代執行法3条)。しかし、所有者不明という扱いなので、その費用は行政(税金)の負担となる。結局、国が所有権を承継取得して、「負動産」を管理せざるを得ない不動産が増加していく。その費用を負担する国や地方自治体の財政も赤字で苦しい。行政代執行はあまり機能しておらず、問題は簡単ではない。
[1] 吉原祥子『人口減少時代の土地問題――『所有者不明化』と相続、空き家、制度のゆくえ』(中央公論新社、2017)83頁以下、吉原祥子「要らない土地が”所有者不明”に人口減時代の「受け皿」を作れ」東京財団政策研究所HP(2017年9月6日)(https://www.tkfd.or.jp/research/land-conservation/5b51n1)参照。
[2] 民法第959条(残余財産の国庫への帰属)前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。
[3] 民法第940条(相続放棄)相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
[4] 潮見佳男『民法(全)』(有斐閣、2017)624頁参照。相続財産管理人の選任については、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_15/)参照。
[5] 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html)参照。
[6] 日本弁護士連合会「『空家対策の推進に関する特別措置法』施行1年を経ての全国実態調査(分析結果)」(2017年5月22日)(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/1705_analysis-results.pdf)参照。
[7] 櫻井敬子=橋本博之『行政法〔第5版〕』(弘文堂、2016)169頁以下参照。行政代執行法に基づく例として、違法建築物、特に既存不適格物件への措置(除去)命令に基づく建築物除却義務(建築基準法9条、10条参照)などがある。