保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に、その旨を未決拘禁者に告げないまま、保護室収容を理由に面会を許さない刑事施設の長の措置が、国家賠償法上違法となる場合
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人又は弁護人となろうとする者からあった場合に、その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま、保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は、未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り、未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律79条1項2号・4項、115条、刑訴法39条1項、国家賠償法1条1項
平成29年(受)第990号 最高裁平成30年10月25日第一小法廷判決 接見妨害等国家賠償請求事件 破棄差戻
原 審:平成28年(ネ)第140号 福岡高裁平成29年3月7日判決
第1審:平成25年(ワ)第175号 福岡地裁平成28年1月15日判決
1 事案の概要
本件は、拘置所に被告人として勾留されていたX1及びその弁護人であったX2が、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)79条1項2号イに基づく保護室への収容を理由に拘置所職員がX1とX2との面会を許さなかったことにより、接見交通権を侵害されたなどとして、Y(国)に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案である。
2 事実関係の概要
(1) X1は、平成20年6月、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件で起訴され、福岡拘置所に被告人として勾留された。
弁護士であるX2は、当該刑事事件につきX1の弁護人に選任された。
(2) X1は、平成21年7月23日、福岡拘置所において、職員の制止に従わず、「獄中者に対する暴行を謝罪せよ。」などと大声を発したため、刑事収容施設法79条1項2号イに該当するとして保護室に収容された。
(3) X2は、平成21年7月27日、福岡拘置所を訪れ、X1との面会の申出(以下「本件申出」という。)をした。X1は、同月23日以降も連日大声を発して前記(2)の保護室収容が継続されており、同月27日当日も、本件申出の前後にわたり、「獄中者に対する暴行に謝罪しろ。」などと大声を発していた。同拘置所の職員は、X1に対して本件申出があった事実を告げないまま、X2に対して「X1が保護室に収容中であるために面会は認められない」旨を告げ、X1とX2との面会を許さなかった。
3 第1審及び原審の判断
第1審、原審とも、X1とX2との面会を許さなかった福岡拘置所職員の対応に国賠法上の違法はないとして、Xらの請求を棄却すべきものとした。原審は、その理由として、保護室に収容されている被告人との面会の申出が弁護人からあった場合に、その申出があった事実を被告人に告げないまま、保護室収容を理由に面会を許さない措置がとられたとしても、面会の申出があった事実を告げなかったことに裁量の逸脱がなく、保護室収容継続の必要性・相当性の判断に誤りがない限りは、原則として、国賠法上違法とならない旨判断した。
4 本判決の概要
本判決は、判決要旨のとおり判示し、その上で、X1は、本件申出があった事実を告げられればX2と面会するために大声を発するのをやめる可能性があったことを直ちに否定することはできず、原審の確定した事実のみをもって判決要旨にいう「特段の事情」があったものということはできないと判断して、原判決を破棄し、「特段の事情」の有無等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。
5 問題の所在
本件では、保護室に収容中であることを理由に被告人と弁護人との面会を許さない措置が、両者の接見交通権を侵害するものとして国賠法上違法となるかが争われている。
被告人又は被疑者の接見交通権については、判例上も、身体を拘束された被告人又は被疑者が弁護人等(弁護人又は弁護人となろうとする者)の援助を受けることができるための「刑事手続上最も重要な基本的権利」であり「憲法の保障に由来する」ものとされており、弁護人等の接見交通権については、弁護人等の「固有権」の最も重要なものの一つであるとされている(憲法34条前段、37条3項前段、刑訴法39条1項、最一小判昭和53・7・10民集32巻5号820頁、最大判平成11・3・24民集53巻3号514頁等)。このような接見交通権について保護室収容を理由に制限できることを定めた明文の規定はないため、そもそも未決拘禁者(刑事収容施設法2条8号)が保護室に収容中であることを理由に未決拘禁者と弁護人等との面会を許さない措置をとることができるかが問題となる。とりわけ、本件のように弁護人等から面会の申出があった事実を未決拘禁者に告知しないまま、保護室収容を理由に面会を許さない措置をとることができるか、仮にそれができるとすれば、どのような要件を満たす場合にできるのか、が問題となる。
6 解説
(1) 上記のとおり接見交通権の保障の要請がある一方で、刑事施設においては、未決拘禁者を含む被収容者の収容を確保し、その処遇のための適切な環境及び安全かつ平穏な共同生活を維持する必要があることから、規律及び秩序が適正に維持されなければならないという要請もあり、これら2つの要請の関係が問題となる。この点に関しては、未決拘禁の目的を定めた刑訴法によってその手段たる施設法の内容が規制されるという理解に基づき、そもそも刑事施設の規律及び秩序の維持という施設法独自の根拠によって接見交通権を制限することはできないとする見解もあるが(葛野尋之『未決拘禁法と人権』(現代人文社、2012)343頁、後藤昭『捜査法の論理』(岩波書店、2001)115頁等)、刑事収容施設法の規定(117条、118条1項等)が現に接見交通権について刑訴法上の制限とは異なる施設法の観点からの制約を認めていることなどに照らすと、そのような見解には無理があると指摘されている(川出敏裕「身柄拘束制度の在り方」ジュリ1370号(2009)108頁)。本判決も、刑事収容施設法に基づき、刑事施設の規律及び秩序の維持という観点から接見交通権が制限されることはあり得るという前提に立っているものと解される。
(2) 本判決以前に、未決拘禁者が保護室に収容中であることを理由として未決拘禁者と弁護人等との面会を許さないことができるかという論点について言及した裁判例や学説は、保護室収容中の被告人との面会の申出が弁護人からあった場合において拘置所の職員が被告人に対して弁護人の来所を告げなかったことが国賠法上違法となるか否かが争われた裁判例として東京地判平成25・5・27LEX/DB25512842があるほかは、特に見当たらない。
そのような中で、本判決は、まず、一般論として、刑事収容施設法が「保護室に収容されている未決拘禁者」と弁護人等との面会について特に定めを置いていないのは、「保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあったとしても、その許否を判断する時点において未決拘禁者が同条1項2号に該当する場合には、刑事施設の長が、刑事施設の規律及び秩序を維持するため、面会を許さない措置をとることができること」を前提としているものと解されると判示した。その理由の詳細については判示されていないが、もともと「保護室」は、刑事施設の規律及び秩序を著しく害する行為に及んでいる被収容者を収容し、その鎮静及び保護にあてるための特別の構造及び設備(刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則39条参照)を有する独居房であり(林眞琴ほか『逐条解説刑事収容施設法〔第3版〕』(有斐閣、2017)359頁)、同号が、「刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき」にそのような特別の構造及び設備を有する保護室に収容することができると規定している趣旨等が考慮されたのではないかと思われる。
もっとも、上記の「面会の許否を判断する時点において未決拘禁者が79条1項2号に該当する」というのは、当該時点の具体的な状況を踏まえて判断されなければならないところ、例えば、未決拘禁者が大声を発したために同号に該当するとして保護室に収容された場合であっても、弁護人等から面会の申出があり、面会の許否を判断する時点において改めて同号該当性をみたときには、そのような未決拘禁者も、弁護人等と面会するという状況であれば、大声を発するのをやめて、同号に該当しないこととなる可能性があり得る。
本判決は、このような点と、接見交通権の保障等に関する刑訴法及び刑事収容施設法の規定の趣旨とを勘案した結果、「未決拘禁者が刑事収容施設法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている場合において面会の申出が弁護人等からあったときは、刑事施設の長は、例外的な場合を除き、弁護人等から面会の申出があったという事実を直ちに未決拘禁者に告げなければならず、これに対する未決拘禁者の反応等を確認した上で、それでもなお未決拘禁者が同号に該当するか否かを判断し、該当しない場合には、直ちに保護室への収容を中止させて未決拘禁者と弁護人等との面会を許さなければならない」という職務上の法的義務を負う旨判示したものと考えられる。
その上で、本判決は、判決要旨のとおり、「……面会の申出が弁護人等からあった場合に、その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま、保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置」は、「未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情」がない限り、国賠法上違法となる旨判示した。この「特段の事情」に当たる場合については、判決理由中4(3)の第1段落で、「未決拘禁者が極度の興奮による錯乱状態にある場合」が例示されており、さらに池上裁判官の補足意見では、「未決拘禁者が、上記申出があった事実を告げられても、その告知内容を理解すること又はこれに的確な対応をすることが著しく困難な状況にあるために、上記告知をすることが実質的に意味を持たないような場合」と説明されている。
7 本判決の意義
本判決は、未決拘禁者と弁護人等の面会(接見交通権)と保護室収容との関係に関して最高裁が初めて判断を示したものであり、保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合における刑事施設の対応等を考える上で、実務上重要な意義を有するものと思われる。