企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
第1部 管理をめぐる経営環境の変化
2.高度経済成長期後半~バブル経済期 1965~1990年(昭和40年~平成2年)
(2) 経営管理の潮流
○ 1970年代に入ると、事務管理に大型コンピュータ・システム(オンラインで統合処理)を導入する企業が増えた。
- 〔業務分野ごとのシステムの例〕
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事務管理系(人事業務、経理業務等)、技術系(製品設計、品質管理等)、製造系(受発注在庫、工程品質管理等)、営業系(売上管理、顧客管理、市場管理等)
- ・ 1965年に国鉄の座席予約システム(東海道新幹線を含む)が稼働し、大規模オンライン・リアルタイム・システム時代が到来した。
- ・ 1973年には、日本銀行が内国為替集中決済制度を開始し、全国銀行データ通信システムが稼働して、金融機関相互間で振込・送金・代金取立等の内国為替取引が行われるようになった。
- この頃から、社員の給与・賞与の支給を現金から銀行振込に代える企業が増えた。
○ 1980年前後には、パソコンの高機能化・低価格化が進み、企業でOA[1]化が進められた。
- ・ 1980年代になると、パソコンが、それまで業務用システムの分野で主力を占めていた大型コンピュータに代替するようになった。
- ・ 1985年にNTTが「0120」で始まるフリーダイヤル(着信側負担)を開始して以降、この番号を「お客様相談センター」に設定して顧客サービスを拡大する企業が増えた。
○ 1987年に国際規格 ISO9000シリーズ(品質マネジメントシステム)が発行され、業務プロセスの文書化・結果の記録・ PDCA (Plan計画→Do実行→Check評価→Act改善、を繰り返して水準向上の継続を図る管理サイクル)等の管理の仕組みが世界に浸透した。
○ 1987年に米国で「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞」が大統領主導で創設された。
- ・ 米国企業の国際競争力強化を図るこの取り組みでは、日本の品質管理手法を参考にしつつ、顧客志向を積極的に評価する。
- ・ 米国の成果に触発され、1992年に欧州で同趣旨の「欧州品質賞」が創設され、欧州企業の経営品質向上の取り組みが加速した。
○ 1990年代には、インターネット・電子メール・携帯電話等が急速に普及し、企業の業務において情報通信技術(ICT)が欠かせないものになった。
(3) 業務の執行に係る法整備
○ 1981年(昭和56年)に商法・商法特例法が改正され、取締役・取締役会の役割・位置付けが細部まで明確になるとともに、総会屋排除が規定された。
- ・ 株主総会が取締役の競業を認許する制度を止めて取締役会の承認事項とし、利益相反取引(間接取引を含む)が取締役会の承認事項とされた[2]。
- ・「取締役会は会社の業務執行を決し取締役の職務の執行を監督」することが明文化された[3]。
- ・ 取締役会は、重要な業務執行の決定を代表取締役に一任できない[4]。また、取締役から少なくとも3カ月に1回は業務執行の状況の報告を受ける。
- ・ 会社が総会屋等に無償の利益供与を行うことを禁止した。
- (注) 1997年(平成9年)の商法改正で利益供与要求罪が導入され、総会屋が利益供与を要求した だけで処罰される[5]ようになって総会屋が大幅に減り、日本の株主総会運営の健全化が進んだ。
(4) 監査の充実(監査役、公認会計士)
○ 1951年に開始された公認会計士監査制度は、1957年に本格導入されて定着した。
○ 高度経済成長期が終盤に入った東京オリンピック後の「昭和40年(1965年)不況」の頃、大規模粉飾決算及び倒産が相次ぎ[6]、公認会計士による監査体制が強化された。
1) 1966年(昭和41年)「公認会計士法改正」の要点
- 1. 日本公認会計士協会が公認会計士法に基づく特殊法人(加入登録が義務付けられた。以前は社団法人)となり、公認会計士の立場が強化された。
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2. 監査法人が制度化され、5人以上の公認会計士が共同組織体として監査証明業務を行うことが認められた[7]。(以前の監査は、緊密に連携しても、最終的には個人の公認会計士による監査であった。)
(参考) 1967年に、公認会計士法に基づいて認可された監査法人が初めて設立された[8]。
2) 1967年(昭和42年)法制審議会商法部会が「株式会社監査制度に関する試案」を公表(以下、要点)
- 1. 監査役が、それまでの「会計監査」に加えて、「業務監査」を行う。
- 2. 大会社において公認会計士監査を採用する。
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(注) この後、財務諸表監査(証券取引法)との調整、会計基準の調整、税理士との分野調整等が行われた。
この間の制度変更の論議は、結果的に、実に緩やかなスピードで行われている。
○ 1974年(昭和49年)に、監査機能が大幅に強化された。(商法改正、商法特例法制定)
- (注1) 1974年の監査役制度が原型となって、この後の監査役権限の強化等が進む。
- (注2) 1974年に日本監査役協会が設立された。
1974年の監査制度(商法、商法特例法)の概要は、次の通りである。
1) 大会社・中会社では、監査役が「会計監査」に加えて1950年以来、再び、「業務監査(適法性監査)」を担当する[9]。
- (注) 取締役会は、従来通り、取締役の職務執行を監督する。
2) 監査役に、取締役に対する営業報告徴収権と業務財産状況調査権が付与された。親会社の監査役は子会社についても基本的にこの両権限を行使できる[10]。
- ・ 取締役は、会社に著しい損失を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちにその事実を監査役に報告しなければならない[11]。
3) 監査役は、取締役会に出席して意見陳述できること、取締役の法律・定款に違反する行為に対する差止請求権を有すること、会社と取締役との間の訴訟について会社を代表すること、及び、株主総会において監査役の選任・解任につき意見を述べることができること、が明記された[12]。
4) 監査役の任期が2年(以前は、1年)に伸長された[13]。
5) 「大会社(資本金5億円以上)」の会計監査について、それまでの「監査役監査」に加えて「会計監査人による監査」が義務付けられた[14]。
- (注) この結果、「大会社」では、「会計監査人監査」と「監査役監査」の二重監査が行われる[15]。
- ・ 会計監査人は、取締役の不正行為を発見したとき、これを監査役に報告しなければならない。
- ・ 会計監査人の監査の方法・結果が相当でないと認めた監査役は、自ら会計監査を行う。
○ 1981年(昭和56年)に、監査役・会計監査人の役割・位置付けが明らかにされ[16]、その機能が強化された。(商法・商法特例法改正)
1) 監査役に関して、次を明記した。
- ・ 取締役の会社の目的の範囲外の行為、及び法令・定款に違反する行為を認めた場合に、取締役会に対して報告する義務を課し、必要があるときに取締役会の招集を請求できる[17]。
- ・ 支配人その他の使用人(従業員)に対する営業の報告請求権を有する[18]。
- ・ 監査役報酬額は、定款又は株主総会決議で取締役報酬とは別に定め、監査役の職務執行費用は会社が弁済する[19]。
- ・ 監査役が監査報告書に、重要事実に関する虚偽記載をしたときは、第三者に対する損害賠償責任を負う[20]。
- ・ 「大会社」に監査役2人以上と常勤監査役の選任を義務付ける。
2) 会計監査人に関して、次を明記した。
[1] office automation
[2] 商法264条、265条
[3] 商法260条1項
[4] 商法260条2項(重要財産の処分及び譲受、多額の借財、支配人その他の重要使用人の選任・解任、支店等の重要組織の設置・変更・廃止)
[5] 商法294条ノ2第1項、497条3項~5項
[6] (例)1964年、日本特殊鋼、サンウェーブ工業が会社更生法適用申請。1965年、山陽特殊製鋼が会社更生法適用申請。
[7] 公認会計士法34条の2~34条の5
[8] 監査法人太田哲三事務所(EY新日本有限責任監査法人グループ<2018年7月1日現在>の母体となった)
[9] 商法274条
[10] 商法274条、274条ノ3
[11] 商法274条ノ2
[12] 商法260条ノ3、275条ノ2、275条ノ4、275条ノ3
[13] 商法273条
[14] 商法特例法2条
[15] 商法の監査とは別に、形式上は、証券取引法の要請に基づく「公認会計士又は監査法人」の監査が存在する。
[16] 大会社においては、貸借対照表・損益計算書について、会計監査人及び監査役の適法意見があれば、定時株主総会の承認が不要となった。(昭和56年改正商法特例法16条)
[17] 商法260条ノ3
[18] 商法274条2項
[19] 商法279条、279条ノ2
[20] 商法280条2項、266条ノ3第2項
[21] 商法特例法2条
[22] 商法特例法18条、3条