法のかたち-所有と不法行為
第十三話 実体・因果性・相互作用のカテゴリーによる私法の一般理論
法学博士 (東北大学)
平 井 進
ここで、カントが自然と法について論じていることを紹介し、その実体・因果性・相互作用のカテゴリーによって私法の一般理論を試みてみたい。
1 時間における三原則
カントの最初期の論文は、1755年の『天界の一般自然史と理論』という星雲の生成とその起源の理論に関するものである。[1]これは、星雲の生成について、ニュートンが「神の直接の手」による「最初の一撃」があったと考えていたことに対して、宇宙の構造とその生成をそこに内在する力学的な法則性(ニュートン力学)によって説明したものであり、後に「カント-ラプラスの星雲説」といわれるものである。
カントはこの論文において、宇宙に最初に分散していた物質が引力によって凝集して天体となり、それらの天体間の相互作用によってそれらが回転軌道をもちつつ、それらの全体の秩序が自ずと生成すると考える(312, 363-364)。すなわち、その内部に備わった自律的な原理によって、それらは相互に作用しつつ、一つのまとまったシステムとして体系付けられる。彼は同様のことを、同じく1755年の『形而上学的認識の第一原理』において、実体の存在を規定する法則の原理が、それらの実体の間の相互作用を規定するとして述べている。[2]
カントは、1786年の『自然科学の形而上学的原理』において、力学について三つの法則をあげている。[3]また、1781年の『純粋理性批判』においても、関係性のカテゴリーにおいて同様のことを述べており[4]、次にそれらを主として後者によりまとめてみる。[5]
第一 ≪実体の持続性の原則≫ 自然現象の変化において、実体は持続する。(541; 224)
第二 ≪因果性の法則に従う時間継起の原則≫ すべての変化は、原因と結果の関係によって生起する。(543; 232)
第三 ≪相互作用の法則による同時存在の原則≫ すべての実体は、空間において同時的に知覚される範囲で、相互作用をなす。(544; 256)
上記の第一の持続性、第二の継起性、第三の同時存在性は、いずれも時間の形式における態様であり、この形式において一般的に我々の経験が成立する。
[1] Immanuel Kant, Allgemeine Naturgeschichte und Theorie des Himmels oder Versuch von der Verfassung und dem mechanischen Ursprunge des ganzen Weltgebäudes, nach Newtonischen Grundsätzen abgehandelt, 1755. 以下、カントのテクストの頁は、いずれもKant’s gesammelte Schriften. Herausgegeben von der Königlich Preußischen Akademie der Wissenschaften, Berlinの版による。日本語訳については、『カント全集』(岩波書店)を参照。
[2] Immanuel Kant, Principiorum primorum cognitionis metaphysicae nova dilucidatio. 1755, S. 415.ラテン語である。
[3] Immanuel Kant, Metaphysische Anfangsgründe der Naturwissenschaft, 1786.
[4] Immanuel Kant, Kritik der reinen Vernunft, 2 Aufl., 1787. なお、この三つのカテゴリーは、最初に上記の『形而上学的認識の第一原理』において述べられている。
[5] ≪≫は後者により、括弧内の前の数字は前者、後の数字は後者第2版の頁である。