◇SH1438◇証券監視委、「開示検査事例集」を公表 (2017/10/17)

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証券監視委、「開示検査事例集」を公表

--最近の開示検査の取組みや開示検査で確認された不適正な会計処理やその根本原因等--


 証券取引等監視委員会は10月3日、「開示検査事例集」を公表した。これは、適正な情報開示に向けた市場関係者の自主的な取組みを促す観点から、開示検査によって判明した開示規制違反の内容やその根本原因を事例ごとに紹介するものである。


 証券監視委では平成20年以降、「金融商品取引法における課徴金事例集~開示規制違反編~」を公表してきたが、今年度から「開示検査事例集」と名称を変更したものである。これは、「課徴金納付命令勧告を行った事例だけでなく、勧告は行わないものの、開示規制違反の根本原因を追究した上でその再発防止策を会社と共有した事例、会社に対して訂正報告書等の自発的な提出を促した事例等、さまざまな事例」を紹介することとしたためであるとされている。

 本書の構成は次のようになっている。

○「開示検査事例集」の構成
証券取引等監視委員会からのメッセージ

Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて

Ⅱ 最新の検査事例

 1 開示書類の虚偽記載
 【事例1】架空売上の計上
 【事例2】架空売上の計上
 【事例3】貸倒引当金の過少計

 2 検査による自発的提出
 【事例4】売上の前倒し計上
 【事例5】売上の過大計上等

 3 内部統制の実態
 【事例6】棚卸資産の架空計上
 【事例7】売上の前倒し計上等
 【事例8】棚卸資産の過大計上等
 【事例9】工事収益の前倒し計上等

 4 特定関与行為に係る個別事例

 5 開示書類の不提出に係る個別事例

Ⅲ 最新の事例の特色・傾向

 1 開示規制違反の形態

 2 開示規制違反の背景・原因

Ⅳ 過去の検査事例

Ⅴ 審判手続の状況及び個別事例

Ⅵ 参考資料

 本書の「Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて」によると、平成28年度に証券監視委が行った開示検査は25件であり、そのうち15件の開示検査が終了した。この15件のうち、開示書類に重要な虚偽記載等が認められた5件について課徴金納付命令勧告を行った。また、開示検査では、重要な虚偽記載等が認められなかったものの、開示書類の記載内容の訂正が必要と認められた場合については、開示書類の訂正報告書等の自発的な提出を促しており、前記の15件のうち2件について訂正報告書の自主的な提出を促した。さらに、開示書類の訂正報告書等を自発的に訂正した上場会社についても、その会社の内部統制の機能状況等を把握する必要が認められる場合には、開示検査を行っている。

 以下では、本書の「Ⅲ 最新の事例の特色・傾向」を紹介する。

Ⅲ 最新の事例の特色・傾向(概要)

 平成28年度に終了した開示検査事案における開示規制違反の形態およびその発生原因は以下のようになっている。

 1 開示規制違反の形態

 開示規制違反のほとんどは、不適正な会計処理による有価証券報告書等の虚偽記載であった(他には、無届募集事案が1件)。事案ごとの違反の形態は以下のとおりであり、架空売上を計上した事案、売上の前倒し計上など、売上をめぐる不適正な会計処理が目立った。

 (1) 有価証券報告書等の虚偽記載
【売上高に関する不適正な会計処理】
《売上の架空計上》
 ① バイオ関連開発権の譲渡について、譲渡先の取締役会の承認が得られず契約が成立していないにもかかわらず成立したかのように装ったほか、回収困難となった商品売上代金を回収したかのように装うなどして、架空売上を計上したケース(事例1)。
 ② サーバー等の販売において、複数の会社を利用した循環取引を行うことにより、架空売上を計上したケース(事例2)。
 ③ 実体のない自社開発案件に関する原価を計上することにより、ソフトウェア仮勘定を架空計上したケース(事例7)。
 ④ 売買契約の合意解除に伴う受取補償金は、本来、営業外収益に計上すべきであったにもかかわらず、コンサルティング手数料収入として、売上計上したケース(事例5)。
《売上の前倒し計上》
 ⑤ 代金全額を受領した時点では商品を引き渡していないため、売上ではなく、前受金(負債)として計上すべきであったにもかかわらず、売上として前倒し計上したケース(事例4)。
 ⑥ 工事進行基準を適用する案件について、意図的に枝番を付して複数のフェーズ(工程)に分割することにより、売上等を前倒し計上したケース(事例7)。
【売上原価に関する不適正な会計処理】
《売上原価の過少計上》
 ⑦ 売上値引きであるにもかかわらず、売上値引額と同額の商品が返品されたように装い、売上原価を過少計上したケース(事例6)。
 ⑧ 費用計上すべきであった増産対応費用を計上しなかったケース(事例8)。
【営業外費用に関する不適正な会計処理】
《貸倒引当金の過少計上》
 ⑨ 短期貸付金等の回収が困難となる可能性が高いことを把握していたにもかかわらず、その貸付先がグループ企業であるということで貸倒引当金の計上を適正に行わなかったケース(事例3)。
【資産に関する不適正な会計処理】
《たな卸資産の過大計上》
 ⑩ 費用処理すべき不良たな卸資産及び架空のたな卸資産を資産として計上したケース(事例8)。
【負債に関する不適正な会計処理】
《預り金の不計上》
 ⑪ 共同事業の相手先から受け入れた追加出資金を当該事業以外に流用したことから、本来、預り金(負債)として計上すべきであったにもかかわらず、少数株主持分(純資産)として計上したケース(事例5)。
 (2) 無届出募集
 ⑫ ストックオプションの付与(=新株予約権証券の募集)に関し、届出が免除される要件に該当しないにもかかわらず、当該要件に該当するかのような偽装(使用人でない者を使用人として偽装)を行い、届出(=有価証券届出書の提出)を行わずにストックオプションを付与したケース(Ⅱ5 開示書類の不提出に係る個別事例)。
 

 2 開示規制違反の背景・原因

 最近の開示検査では、開示規制違反が発生した根本原因について検査対象会社の経営陣幹部と議論を行い、認識の共有を図っている。これは、開示規制違反の再発を防止するためには、適正な情報開示体制の整備について、経営陣幹部全員に問題意識を持っていただく必要があるとの考えによるものである。
 こうした考えに基づいて実施した最近の開示検査では、多くの場合、

 ・経営陣のコンプライアンス意識の欠如
 ・会社のガバナンスの機能不全
が背景としてあり、次のような原因による開示規制違反を把握した。
 ・業績が不振に陥る中、「継続企業の前提に関する注記」の付記や上場廃止基準への抵触を避けるために業績の維持・向上に対する強いインセンティブが働いたこと(1の①)。
 ・過去に開示規制違反に係る課徴金納付命令を受けているにもかかわらず、内部管理体制はまったく改善されていないという状況の中で、対外的な信用力を維持するため、公表した売上目標の達成を過度に重視したこと(1の②)。
 ・業績が不振に陥り資金繰りに窮する中、有価証券届出書による情報開示を避け、安易に資金を調達したいという思惑が働いたこと(1の⑫)。
 ・赤字が継続する中、社内のモチベーションを高めるため、単月黒字を達成しようとする等の強いインセンティブが働いたこと(1の⑤)。
 ・担当課の管理職が社内における評価を重視するあまり、厳しくなった担当課の業績の「黒字」化に過度に固執したこと(1の⑦)。
 ・競争の激化の中、トップダウンによる売上目標の達成が困難になっていたにもかかわらず、担当部門の管理職が目標の達成を過度に重視したこと(1の③⑥)。
 ・代表取締役社長からの目標達成についてのプレッシャーにより、担当執行役員が不適正な会計処理を指示していたこと(1の⑧⑩)。
 ・担当者は、債権の回収が困難な状況になったことを認識しながら、貸出先がグループ企業であることを理由に貸倒引当金の計上についての検討を行わなかったこと(1の⑨)。
 ・契約関係や取引の経済的実態に即した会計処理を検討する体制が不十分であったこと(1の④⑪)。

 


○証券監視委、「開示検査事例集」の公表について(10月3日)
http://www.fsa.go.jp/sesc/jirei/kaiji/20171003.htm

参考 SH1374 証券監視委、「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」を公表(2017/09/01)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=4356316

○過去の事例集
http://www.fsa.go.jp/sesc/jirei/index.htm

 

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