企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
第1部 管理をめぐる経営環境の変化
3.バブル経済崩壊~「日本再興戦略」へ 1990年(平成2年)~現在
(3) 業務の執行に係る法整備
○ 地価や株価が大幅に下落して、銀行が担保にしていた物件の価値が失われると、銀行自身が多額の不良債権を抱えて経営危機に直面した。
- (注) 銀行は、返済を見通せない企業への融資を押さえる(貸し渋り)一方で、債権回収(貸し剥がし)に努めたが、多くの融資先が経営危機に陥って返済は困難を極めた。
高度経済成長期からバブル経済崩壊に至るまで、メインバンクが融資先企業の資金とガバナンスを監視し、経営指導する役割を果たしてきたが、バブル崩壊後、この機能は大幅に縮小した。一般の企業には、自己責任と自立が強く求められようになった。
○ 1990年代後半から約10年間は、経営危機に陥った企業の再編・再建・倒産処理等を行うための法的手段が整備された時期である。本当に必要なときには間に合わなかったが、一通り整備されたので、次の大不況時には、最適な法制度を選択して迅速に再建・倒産処理等を行うことができるだろう。
再編・倒産に関する主な法整備を、以下に示す。
① 再編に関する法整備
再編法制の整備に対応して、組織再編税制、連結納税制度も整備された。
-
1) 純粋持株会社の解禁
1997年に独占禁止法が改正され、1947年に定められた「純粋持株会社の禁止」規定が50年ぶりに解禁された[1]。これにより、グループ運営を機動的に行う組織体制の選択肢が増えた。 -
2) 再編法制の整備
1997年 合併手続きを簡素化(施行)
1999年 株式交換・株式移転制度を整備(施行)
2000年 会社分割制度を導入(2001年施行)
2002年 連結納税制度(施行)
2007年 三角合併を導入(施行)
② 倒産法制の整備
-
2000年 民事再生法(施行)これに伴って和議法廃止
2001年 民事再生法一部改正(施行)小規模事業者・サラリーマン・住宅ローンに民事再生手続を創設
2001年 外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(施行)
2003年 会社更生法改正(施行)
2005年 破産法改正(施行)清算型法制を整備した。
2006年 会社法制定[2]に伴い特別清算規定を整備(施行)
○ バブル経済崩壊後(特に近年)に、多くの「基本法」が制定された。(議員立法が多い。)
「基本法」は、国の特定の制度・政策に関する理念・基本方針を示すもので、これに基づいて個別法が制定されるという位置づけにある。今のところ、「基本法」が直ちに裁判規範になって企業経営に影響を与えたケースは知られていないが、企業法務としては「基本法」が立法・改正される都度、特に、自社の方針に対する影響を分析し、関係部門に情報提供したい。
-
(注) 多くの基本法に見られる構成要素を次に例示する。
目的、基本理念、国・地方の責務、関係者の責務、配慮事項、法制・財政・金融等の措置、国の基本計画、国・地方の施策、担当組織 - 筆者には、基本法は、日本が進むべき方向を示す道標のように見える。将来、社会・経済が変化すれば、見直しが求められる時期が来ることに注意したい。見直す際には、多数の基本法及び関連法の体系図が必要になろう。
〔近年制定された基本法〕
1989年(平成元年)土地基本法
1995年(平成7年)高齢社会対策基本法、科学技術基本法
1998年(平成10年)中央省庁等改革基本法
1999年(平成11年)ものづくり基盤技術振興基本法、男女共同参画社会基本法、食料・農業・農村基本法
2000年(平成12年)循環型社会形成推進基本法、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法
2001年(平成13年)水産基本法、文化芸術振興基本法、特殊法人等改革基本法(5年間の改革を経て、平成18年失効)
2002年(平成14年)エネルギー政策基本法、知的財産基本法
2003年(平成15年)食品安全基本法、少子化社会対策基本法
2004年(平成16年)消費者基本法[5]、犯罪被害者等基本法
2005年(平成17年)食育基本法
2006年(平成18年)住生活基本法、自殺対策基本法、がん対策基本法、観光立国推進基本法[6]、教育基本法[7]
2007年(平成19年)海洋基本法、地理空間情報活用推進基本法
2008年(平成20年)宇宙基本法、生物多様性基本法、国家公務員制度改革基本法
2009年(平成21年)公共サービス基本法、バイオマス活用推進基本法、肝炎対策基本法
2011年(平成23年)東日本大震災復興基本法、スポーツ基本法[8]
2013年(平成25年)交通政策基本法、国土強靭化基本法、アルコール健康障害対策基本法
2014年(平成26年)、水循環基本法、小規模企業振興基本法[9]、アレルギー疾患対策基本法、サイバーセキュリティ基本法
2015年(平成27年)都市農業振興基本法
2016年(平成28年)官民データ活用推進基本法
2017年(平成29年)文化芸術基本法[10]
2018年(平成30年)ギャンブル等依存症対策基本法
[1] 金融持株会社は1997年制定の「持株会社の設立等の禁止の解除に伴う金融関係法律の整備等に関する法律」及び「銀行持株会社の創設のための銀行等に係る合併手続の特例等に関する法律」が施行された1998年3月から解禁された。
[2] 2005年(平成17年)6月29日制定、同年7月26日公布、2006年(平成18年)5月1日施行(ただし、三角合併を含む「合併等の対価の柔軟化」条項<会社法749条1項2号>は2007年5月1日施行<会社法附則4項>)
[3] 公害対策基本法<昭和42年>を廃止して環境法に再構築。
[4] 心身障害者対策基本法<昭和45年>を改正・改題。
[5] 消費者保護基本法<昭和43年>を改正・改題。
[6] 観光基本法<昭和38年>を全部改正。
[7] 旧教育基本法<昭和22年>を全部改正。
[8] スポーツ振興法<昭和36年>を全部改正・改題。
[9] 中小企業基本法<昭和38年>の基本理念に則って、中小企業の総合的・計画的な振興を図る。
[10] 文化芸術振興基本法<平成13年>を改正・改題。