サンリオ、タックスヘイブン対策税制に基づく更正処分に対する取消訴訟の提起
岩田合同法律事務所
弁護士 佐 藤 修 二
サンリオは、本年6月11日、東京地方裁判所に対し、更正処分取消請求訴訟を提起した旨を適時開示した。
サンリオの適時開示によれば、課税当局は、サンリオの香港子会社がタックスヘイブン対策税制の適用除外要件を充足しないとして、同税制を適用する課税処分を行った模様である。これに対し、サンリオは、同社の香港子会社は、現地の消費者の嗜好を反映するサンリオキャラクターのローカライズ(現地化)業務やキャラクタービジネスを展開するなど、現地で積極的な活動をしており、個々の現地ライセンシーのニーズを反映させるためのカスタマイズ、企画提案及びサポートを行う独立した事業実態を備えており、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件を充足すると主張している。
タックスヘイブン対策税制は、大要、タックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる、法人実効税率が低い国ないし地域に所在する日本企業の子会社が稼得した所得を、日本親会社の所得に合算して法人税を課税するという仕組みである。香港は、タックスヘイブン対策税制の適用対象地域に該当する。
もっとも、タックスヘイブンに所在する子会社であっても、そこで事業を行うことに経済合理性が認められる場合にまで親会社への合算課税を行うことは、企業の経済活動を過度に阻害し、適当ではない。それゆえ、タックスヘイブン対策税制には、一定の適用除外要件(平成29年改正後は「経済活動基準」として再定義されているが、本件は、改正前の旧法が適用される事案と見られるので、以下、「適用除外要件」の語を使用する)が設けられており、概要、子会社が単なるペーパーカンパニーではなく、事業実態を備えるものであれば、適用除外が認められる(改正前租税特別措置法66条の6第3項)。サンリオが適時開示で述べていることは、香港子会社が事業実態を有し、適用除外要件を充たすという趣旨であろう。
タックスヘイブン対策税制の適用対象地域の中には、古くからタックスヘイブンと呼ばれ、ほとんど租税の存在しない英領ケイマン諸島やバミューダ諸島のような地域の他に、香港やシンガポールのように、英語が通用し、都市インフラが充実している上に税制上の優遇措置も備えている地域がある。こうした地域は、日本企業を含む多国籍企業によって、地域統括会社を置くなどの目的で利用され、租税回避目的ではなく事業実態を備えた子会社も多いものと思われる。しかし、課税当局はこうした場合でもタックスヘイブン対策税制を適用することがあり、納税者が納得せずに司法判断を仰ぎ、勝訴判決を得るケースが少なくない。その代表例の一つは、デンソーのシンガポール地域統括会社に対してタックスヘイブン税制が適用され、国側が敗訴した事案であろう(最判平成29年10月24日民集71巻8号1522頁。拙稿・NBL1109号16頁参照)。
また、日本企業が香港子会社を経由して中国の深圳等に所在する工場に対して製造委託を行う「来料加工」は、香港のインフラと中国の低廉な人件費を二つながらに活用するビジネスモデルと言え、租税回避目的のものではなかったと思われるが、課税当局は香港子会社にタックスヘイブン対策税制を適用したことから、多くの係争を招いた。来料加工事案は、形式的には適用除外要件を充たさないことが多く、納税者が敗訴することが通例であったが(東京高判平成23年8月30日訟務月報59巻1号1頁等)、その後、ビジネスモデルとしての正当性が認知され、平成29年度税制改正における立法措置によってタックスヘイブン対策税制の適用除外とされた(現行の租税特別措置法施行令39条の14の3第21項3号括弧内)。
このように、適用除外要件を巡る係争事例には納税者に理のある場合も多く、サンリオの例も然り、という可能性がある。今後の動向を見守りたい。
<タックスヘイブン対策税制の適用除外要件を巡る近時の係争事例>
|
争点の概要 |
勝敗 |
デンソー事案(最判平成29年10月24日民集71巻8号1522頁 |
デンソーのシンガポール地域統括会社の適用除外要件充足性 |
納税者勝訴 |
来料加工事案(東京高判平成23年8月30日訟務月報59巻1号1頁等、多数) |
来料加工のために置かれた香港子会社の適用除外要件充足性 |
納税者敗訴(その後立法で適用除外とする措置がとられる) |
レンタルオフィス事案(東京高判平成25年5月29日税務訴訟資料263号-96順号12220)) |
レンタルオフィスを拠点とするシンガポール子会社の適用除外要件充足性 |
納税者勝訴 |