◇SH2348◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(141)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑬ 岩倉秀雄(2019/02/19)

未分類

コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(141)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑬―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、統合会社の求心力の構築について述べた。

 日本ミルクコミュニティ(株)は、昨日までライバル関係にあった組織文化の異なる3社が、雪印乳業(株)グループの不祥事を契機として短期間に統合し、社会との信頼関係を新たに構築するとともに、規模が大きいものの利益の出にくい市乳事業だけを集めて経営し、黒字化することを意図した会社であった。

 その為には、徹底的に事業を合理化するだけではなく、組織内に発生する様々なコンフリクトを克服し、互いに理解・信頼・協力する仕組みが必要だったが、それは、まさに「言うは易く行うは難し」のテーマだった。

 統合会社設立準備委員会も、このことを認識し、中期経営計画の目標の一つに「求心力の構築」を謳い、具体的には、働きがいのある人事制度の制定、行動規範の制定・浸透、コンプライアンス部(特別相談窓口も担当)の設置、イントラネットの構築・活用、提案制度の制定、働きがいのある人事制度の制定、従業員満足度調査と従業員満足向上対策等、を考えた。

 しかし、実際に制定された給与体系は、中期経営計画で謳ったこととは異なり、調整給を設けて5年かけて統一するという「出身会社主義」を反映したものだったので、これが従業員の融和を妨げる大きな原因になった。 

 今回は、経営基盤の確立と役員体制(ガバナンス)について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス⑬:中期経営計画④】(『日本ミルクコミュニティ史』162頁~165頁)

 これまで、中期経営計画(MC05)の4つの目標のうち、①お客様との新たな信頼関係の構築、②事業基盤の確立、③求心力の構築について考察してきたが、今回は④経営基盤の確立と、経営を推進する役員体制(ガバナンス)について考察する。

 

1. 経営基盤の確立

 経営基盤確立の目標は、経営効率を高め3年以内に繰越損失を一掃することであり、そのために別表の体制と施策を設定した。

 しかし、会社が立ち上がった当初は、狙い通りにいかなかった。

 統合に参加した各社が従来の自社商品の維持や得意先の要望にこだわったために、施策の実行は中途半端となり、情報システムや物流の混乱も重なったために、新会社は債務超過の危機に陥った。(これについては、後述する)

 

表.MC05基本方針と体制及び施策

④ 経営基盤の確立




予算管理の徹底とコストダウンへの取り組み等、効率経営に努め、早期の黒字化及び、繰越損失の3年以内での解消を図り、健全な経営基盤を確立する。
体 制 利益管理システムの構築 生産から販売までのトータル利益管理システムを構築し、迅速かつ的確な経営判断につながる経営情報を提供する。
生乳調達 基本的に需要に見合った乳量を集荷する。全国連と連携し需給調整を行い、自社工場での乳製品製造による調整は行わない。(農系の市乳専門の事業会社の位置づけ:筆者注)
資材調達 従来の購入方法にとらわれることなく、双方にメリットのある調達・安定供給・品質の安定を調達の基本とする。
商品ラインナップ 統合3社の既存アイテムを整理・統合し、資源を集中投下すべき商品を明確にする。
販売活動 収益性・市場規模・成長性評価に基づき商品とチャネル別戦略を明確化し、「選択」と「集中」による資源配分を行い、効率を追求する。
施策展開
  1. ・ 単年度黒字の早期実現
  2. ・ 繰越損失の3年度以内の解消による財務基盤の確立
  3. ・ 効率経営の確立 
物流費のコストダウン 出荷拠点の統廃合と合わせ統合3社の配送コース集約・見直しを実施する。
直営工場の生産性向上 直営工場におけるラインの統廃合、要員の見直しを実施する。他社から積極的に受注し、生産物量の増加を図る。
不採算アイテムの整理 カテゴリーごとのポジションニングを明確化にし、徹底した不採算アイテム整理を行う。
チャネル別利益管理方法の導入 製品別・エリア別利益管理に加えて、チャネル別利益管理方法を確立し、徹底を図る。

※『日本ミルクコミュニティ史』162頁より。

 

2. 役員体制(ガバナンス)(『日本ミルクコミュニティ史』163頁~164頁)

 新会社の役員体制は、2002年7月の第2回設立準備員会で「経営機構の考え方」を確認し、同年8月の第3回設立準備委員会で役員予定者を確認、8月22日の共同記者会見で社長予定者の挨拶、役員予定者の発表が行われた。

 2002年10月の第4回設立準備委員会では役員予定者の分担体制を承認し、11月の第1回取締役会で、新会社の代表取締役、役付取締役、執行役員とその業務分担を決定した。

 経営機構と役員体制に関する考え方は、以下の通りであった。

(1) 経営機構の考え方

  1. ① 社外取締役・監査役の招聘による経営の透明性の確保
  2. ② 少人数による意思決定の迅速化
  3. ③ 執行役員制度の導入(検討)による取締役会の役割の明確化
  4. ④ 社外有識者からの意見反映による社会との適合・ステークホルダーとの有機的関係の構築
  5. ⑤ 内部人材の登用による従業員のモチベーションへの配慮

(2) 役員体制の決定

  1. <経営機構>
  2. ① 取締役は11名とし、うち1名を社外から招聘する
  3. ② 監査役は4名とし、うち2名を社外監査役とする
  4. ③ 社外の声を反映し、社会への適合を図るためにミルクコミュニティ委員会を設置する。同委員会は取締役会への助言・意見交換の場とし、お客様、生産者、牛乳販売店、学識経験者など7~8名をもって構成する
  5. ④ 執行役員制度を導入する
     
  6. <役員体制の考え方>
  7. ① 代表取締役によるコーポレートスタッフ部門(経営企画、コンプライアンス、品質保証、コミュニケーション)の所管
  8. ② 専務取締役による主要現業部門(営業企画、ロジスティクス、酪農資材、商品開発、関東事業部)の所管
  9. ③ 常務取締役所管部の明確化
  10. ④ 関東事業部・関西事業部の位置付け強化
  11. ⑤ 執行役員制度による権限委譲と業務執行の迅速化

 なお、統合会社設立準備委員会は、10月16日の第4回設立準備委員会をもって解散し、その後は新会社の業務運営体制に移った。

 次回からは、会社設立後のコンプライアンス体制の構築と運営について考察する。

 

タイトルとURLをコピーしました