企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
1. 商品企画・開発・設計
(5) 技術情報の漏洩防止、安全保障貿易管理
第3章第3部「3.(2) 情報セキュリティ管理」及び「5.(1)取引を規制する法令」を参照
- ・ 技術情報(データを含む)の外部持出、提供、受取等を管理して記録する。
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・ 営業秘密として管理している技術情報がライバル企業に流出すると、大きな損害を受けることになるので、その価値を評価して、相応の管理を行うことが必要である。
(流出経路の例) USB等の媒体、インターネット送受信、紙、写真、製品、サンプル、試作品、技術者の転職
(注) 通常、メーカーが最も欲しがるのは、業界をリードしているライバル企業の技術情報である。有能な技術者の引き抜きには、多額の金銭が動くことが多い。 -
・ 武器や軍事転用可能な貨物・技術(設計・製造・使用に関する技術)が、日本や国際社会の安全性を脅かす国家・テロリスト等に渡る行為は、外為法[1]で厳しく禁じられている。技術者は、海外出張時やインターネット送信時を含めて、国が規制する技術情報が流出しないように注意する必要がある。
(注) リスト規制[2]に該当する技術は、日本国内でも非居住者に提供するときは、経済産業大臣の許可が必要。
2.生産・調達
製造部門は、予め設計部門等と連携して定めた製造仕様書(作業指図書を含む)等に従って製造作業を行い、良品を作って、納入計画に基づいて出荷する。
生産・調達の段階では、多数の従業員や取引先が、多種多様な機械装置・検査装置・エネルギー供給装置・通信機器・コンピュータ等を用いて、多数の原材料・部品・仕掛品・完成品(ハード、ソフト)等に関わる業務を繰り返し行っているので、仕入・生産・出荷等の活動に関する大量のデータ・情報が作成・蓄積される。
これらのデータ等は、市場・取引先に引渡す納期の管理、製造部門の生産性の向上、製品の品質向上及び出荷後に発見される市場不良(製品欠陥を含む)への対応(再発防止策の検討を含む)等のために用いられる。
企業が保有する経営資源(人・金(カネ)・物・情報)の多くは、この段階で投入されるので、その管理の巧拙が企業全体の生産性及び営業利益に大きな影響を与える。
次に、工場(調達・製造・倉庫・原動等)の業務に係る主な管理項目を、生産体制の構築・部品等の調達・製造・品質管理の視点で列挙し、品質管理水準の評価方法について考える。
(1) 生産体制の構築
- ① 販売目標と利益目標から「目標原価」を設定し、工程・設備・作業方法等を検討する。
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・ 求める条件: 良品を生産、工数が少ない、設備メンテナンスが簡単、生産する品番の切り替えによる稼働ロスが少ない、低コスト(内製と外注の比較を含む)、環境に好ましい等
- ② 競争力(品質、コスト、生産リードタイム、量変動対応力等)がある工場・製造ラインを作る。
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・ 工程毎に使用する機械器具を指定して、調達し、設置する。
機械、加工機、金型、製造ライン、検査器具(計量機器の校正を含む)、治工具 等を指定する。
機械・プラントは厳正に検収する。(検収条件は予め契約書で定め、売手と買手が立会って確認する。) - ・ 製造場所(組立・加工、検査、エージング、仕掛品置き場)、保管場所(倉庫、保管庫等)を指定する。
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・ 機械装置・検査装置の使用・保守(掃除、注油、部品交換等)・点検の方法を定める。(マニュアル化する。)
- ③ 安全衛生を確保する
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・ 事業者は、労働災害の防止のための法定の最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全・健康を確保するようにしなければならない[3]。
(注) 仕事を他人に請け負わせる者(建設工事(請負)の注文者等)は、施工方法・工期等について、安全で衛生的な作業が行われる条件にする配慮義務を負う[4]。 -
・ 作業方法の制定、機器の導入、作業場・保管庫の設置等にあたっては、労働災害の発生源を除去して職場の安全衛生を確保する。
(注1) 労働者の危険・健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置が、労働安全衛生法20条~25条の2に列挙されている。
(注2) 企業に設けられた安全衛生委員会等[5]と連携し、事故後ではなく、事前に安全性をチェックするのが有効である。 - ・ 危険物、火気取扱い、毒物・劇物、放射線、じん肺等に関する規制法令[6]を遵守する。
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・ 労働安全衛生法[7]に基づいて作業環境の測定を行う[8]。
- ④ 工場の操業にあたって、環境基本法を遵守する。
- 大気、水質、土壌、騒音、振動、公害、下水道、廃棄物処理等に関する規制を遵守する。
- 1) 公害防止統括者等を選任する[9]。
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・ 製造業等で法定の施設を設置している特定工場には、公害防止組織法により、ばい煙・汚水・騒音・粉じん・ダイオキシン等を監視・防止等する公害防止統括者等の選任が義務づけられる。
特定工場を設置している事業者は、公害防止統括者、公害防止管理者、公害防止主任管理者、代理者(公害防止の統括者・管理者・主任管理者が旅行・疾病・事故で休む場合の代理)を選任し、選任から30日以内に特定工場所在地の都道府県知事に届け出なければならない[10]。 - ・ 都道府県知事は、職務の実施状況の報告を求め、検査を行い、違反した公害防止統括者の解任を命じることができる。虚偽報告や検査忌避等した者には罰金が科される。
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2) 環境規制対象物等の排出実績を記録して、保管する。
大気汚染物質、排水、土壌、騒音、下水、 産業廃棄物(業者への委託を含む)等
(注1) 記録には、基準値、計測値・計測方法・計測器等を含む。
(注2) 産業廃棄物は「汚染者負担の原則」が基本である。処理業者に処理を委託しても、それを発生させた事業者の責任は免れないことに留意する[11]。
- ⑤ エネルギー・水・通信等のインフラを整備して稼働を維持・安定させる。
- ・ 電気(自家発電を含む)、ガス、重油、上下水道、通信、環境維持装置等の調達・稼働等を確保する。
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・ インフラ停止時の工場内の緊急対策を、マニュアルにする。
例 停電時に対策すべきこと。
クリーンルームのクリーン度低下対策
定温管理不能への対応(温度が上昇すると、冷凍庫が解凍、細菌が増殖等)
- ⑥ 最新の基準・規格に適合する部品・材料・ソフト等を調達する。
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・ 最新の基準・規格に適合する部品・材料等を安定的に調達できる取引先を確保する。
例 材料調達先と生産拠点をグローバルに展開している企業では、使用する全ての素材・部品等について出荷先の国々の各種の規制に適合しなければならない。このため、信頼できる優良な調達先の確保が必須である。
- ⑦ 良品を生産し、規格外品・不良品を工場から出さない。
- 1) 良品を製造するための条件を整備する。(異物混入防止を含む)
- ・ 設備・器具の状態(正常、異常、故障の兆候等)の管理を適切に行う。
- ・ 製造工程の環境を適切に維持する。(温度、湿度、クリーン度等)
- ・ 正確な計測が行われていること(出荷検査、工程検査、材料・原材料等の受入検査)、機器が適正であること(組立、加工、検査、測定、エージング等)を検査して、適正にする。
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・ 定期点検、日常点検、定期校正のルールを制定して実施すると効果的である。
交換(ベルト、照明器具、半導体レーザー、フィルター、カッター、金型等)
各種モニタリングの状況を把握し、生産計画に反映する。(機械の稼働状況、良品生産量、工程在庫、出荷量、温度・湿度等の環境データ)
ガス(二酸化炭素、窒素、酸素、アルゴン等。液化ガスを含む)の残量を確認、補充 - 2) 製品に製造時期(年・月・日・時刻等)、原産地を正しく表示する。
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・ 作業マニュアルに、誤表示・虚偽表示の可能性を排除する作業方法を具体的に記載して、それを守る。
- ⑧ 生産部門は人員と情報の数量が多いので、管理を簡潔にする。
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・ 工場レイアウト図、工程図、機械の仕様書・配置図は、必要最小限作成し、必要なものだけ保存する。
個々の資産毎に、購入時に固定資産番号を付けて固定資産台帳に登録し、定期的に現物と照合する。 - ・ 作業指図書を作成して、作業者に簡潔かつ的確に作業を指示する。
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・ 計測データ(使用した計測機器、計測方法、計測実績)を記録・保管する。(電子化・自動化を進めたい)
(注1) 計量法は、適正な計量の実施を求めている。
(注2) 製品の品質を担保するためには、材料仕入・加工・組立から出荷検査に至るまで一貫して同一基準で測定することが必要である。測定プロセス及び測定機器の計量確認のマネジメントに関しては、国際規格[12]が定められている。
(注3) 計測・記録の作業は、無人化・自動化を目指す。(ただし、機器・ソフトのメンテナンスが必要) - ・ 機械設備の保守点検・不具合調整の結果を記録する。
[1] 外為法(外国為替及び外国貿易法の通称)25条1項(前段、後段)、3項1号。輸出貿易管理令別表第1。外国為替令別表。
[2] 「輸出貿易管理令別表第1」が規制する貨物分野:武器、原子力、化学兵器、生物兵器、ロケット、先端素材、材料加工関係、エレクトロニクス部品類、電子計算機・部品等、通信装置・部品、センサ、航法装置、海洋関連、エンジン・推進装置等、機微品目、他
[3] 労働安全衛生法3条1項
[4] 労働安全衛生法3条3項
[5] 労働安全衛生法10条~19条の3
[6] 労働安全衛生法、労働災害防止団体法、消防法、危険物の規制に関する政令、毒物及び劇物取締法、放射線障害防止法、じん肺法 等
[7] 労働安全衛生法65条1項「事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。」また、同条2項「前項の規定による作業環境測定は、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従つて行わなければならない。」
[8] 「作業環境測定法」が作業環境測定士の資格、及び、作業環境測定機関等について定めている。
[9] 特定工場における公害防止組織の整備に関する法律(通称、公害防止組織法)3条1項、10条、11条1項、16条
[10] 公害防止組織法3条~6条
[11] 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(通称、廃棄物処理法)3条1項
[12] 2003年に、ISO10012:2003(計測マネジメントシステム)が発行された。これを基にしてJIS Q10012:2011が作成された。