法務担当者のための『働き方改革』の解説(24)
時間外労働の上限規制
TMI総合法律事務所
弁護士 山 口 貴 臣
Ⅺ 時間外労働の上限規制
1 今般導入された上限規制の内容
(1) 時間外労働の上限
一連の働き方改革関連法令改正において、長時間労働の是正は大きなテーマの一つと位置付けられ、仕事と家庭の両立、女性のキャリア形成・男性の家庭参加の促進等を目的として、時間外労働の上限規制が導入された。
労基法上、原則的な労働時間は1日8時間・1週40時間とされており(労基法32条)、かつ、毎週少なくとも1日は休日を設ける必要があるとされている(労基法35条)。もっとも、労使協定で定めた場合には、例外的に、かかる時間を超えて、または休日に労働者を労働させることができるものとされ(労基法36条1項)、この場合の協定を一般に36協定と呼んでいる。かかる仕組みは、今回の改正でも何ら変更はない。
新労基法36条4項は、このような36協定における時間外労働時間の上限を、月45時間/年360時間と明記したものである。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を採用している場合には、月42時間/年320時間が時間外労働時間の上限となる。
なお、改正前も、旧労基法36条2項に基づいて定められた告示(平成10年労働省告示第154号、最終改正平成21年厚生労働省告示第316号)によって時間外労働時間の基準が設定されており、かかる基準においても、月45時間/年360時間という基準が設定されていた。ところが、告示には基準があるものの、法律上は上限についての言及がなかったことから、かかる基準と異なる時間数を定めることも、違法ではないと解される余地があった。
そのため、今般の改正のポイントは、時間外労働の上限について法律で明記することにより、企業側にこれを遵守すべき法的義務が生じた、という点にある。これは、労基法制定以来、初めての大改革であるとされている。
(2) 特別条項の定め
改正前においては、上記告示によって、特別条項を設けることが認められていた。これは、臨時の場合において、36協定で定めた限度時間を超えて労働することを許容するものであって、1年間に6か月間しか利用できないという制限はあったものの、上限時間についての定めはなかった。そのため、事実上、青天井で上限時間を設定することが可能となっており、特別条項において極端に長時間の労働時間を設定している企業も存在していた。
改正による新労基法36条5項・6項は、36協定における特別条項の定めを法律レベルで定めた上で、その場合の労働時間の上限設定も明記したものである。これにより、従来のような長時間の労働時間を定める特別条項は許容されないことになった。
新労基法の下で特別条項を適用するためには、労使間の合意という手続的要件のほか、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項(筆者注:36協定において定められた時間外労働時間)の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」という実体的要件を満たす必要がある。従前は、同要件について、上記告示において、「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」とされており、特段、業務量の増加に関する予見性については言及されていなかった。したがって、文言のみを比較すれば、改正後は、あえて「通常予見することのできない」という表現が加えられている以上、予め業務量の増加が予見できる場合には特別条項を適用できない、と判断される可能性があることに留意する必要がある。1年間に適用できるのが6か月以内までであるという点は、改正前の告示における内容と変わりがない。
そして、特別条項を適用する場合であっても、以下のような上限規制がかかっている。
- 時間外労働時間が年720時間以内
- 時間外労働時間と休日労働時間の合計が月100時間未満
- 時間外労働時間と休日労働時間の合計が、直近の「2か月間」「3か月間」「4か月間」「5か月間」「6か月間」のいずれにおいても平均80時間以下
以上の労働時間に関する改正法の規制概要を図示すると、以下のようになる。
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/000332869-1.pdfより
(3) 罰則の導入
新労基法119条1号において、休日労働時間を含めて月100時間を超えた場合又は時間外労働時間と休日労働時間の合計が、直近の「2か月間」「3か月間」「4か月間」「5か月間」「6か月間」のいずれかにおいて平均80時間を超えた場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する旨の定めが導入された。
改正前は、36協定の締結なく時間外労働を行わせた場合等においては罰則の適用があったものの、絶対値としての労働時間そのものに着目した罰則規定はなかった。今回の改正に伴い、労働時間の超過そのものについて罰則が適用されることになり、労基署による監督が強化される可能性がある。
以上