ベトナム:中古機械の輸入規制を巡る動向
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
昨年夏より、特に製造業に従事する現地の企業にとって大きな問題となり、現地の日本商工会においても話題となってきたのが、中古機械の輸入規制である。本稿では、この中古機械の輸入規制のこれまでの経緯及び先月成立した通達の概要についてご紹介する。
1.これまでの経緯の概要
ベトナム科学技術省は、昨年の7月15日、通達第20/2014/TT-BKHCN号(以下「通達20号」)を公布し、中古の機械や設備一般をおおよそ広く対象とする輸入規制を昨年9月1日より適用する旨を表明し、製造から一定の年数(基本的に5年としつつ、業種等によっては3年、7年、10年又は15年)以内であり、かつ、製造直後の価値と比較した残存価値が80%以上でなければ、ベトナムへの輸入を認めないこととした。しかし、現在のベトナムでは、中古の機械や設備に依存するベトナム企業や日系を含めた外資系企業は相当数に上るのが実情であり、かかる規制が施行されればこうした企業の事業に多大な悪影響が及ぶ。そのため、日本を含めた各国の商工会に加え、ベトナム企業からも一斉に通達20号について再考を求めるとともに、その施行を見合わせるよう求める声明が出された。
これを受け、政府は、施行日とされていた昨年9月1日の直前の8月29日に至り、急遽その施行を凍結する旨を決定したのである。しかしながら、その後凍結状態を継続しつつも、ベトナム政府は通達20号の将来的な施行を諦めておらず、科学技術省は通達20号の改正法の草案をその後も継続的に発表し続けてきた。そして、今年11月13日に至り、通達第23/2015/TT-BKHCN(以下「通達23号」)として通達20号の改正法に相当するものを公布した。
2.通達20号への批判
中古機械輸入規制の立法趣旨について、科学技術省の担当者は現地での説明会において、粗悪な中古の機械や設備からもたらされる環境への悪影響の防止、安全性の確保、そして、高性能な機械や設備が導入されることによるベトナム国内産業の効率化などを挙げている。
しかしながら、例えば、一定の年数以上経った中古の機械や設備であっても、高い性能を有し、環境への影響や安全性の観点においても何らの問題のないものが多数存在することは明らかであり、年数要件は上記の立法趣旨と必ずしも必要十分な関係にはないのではないかという点、通達20号は膨大な種類・範囲の機械や設備を対象とする規制である一方で、こうした膨大な種類・範囲の機械や設備についてその製造直後の価値と比較した残存価値が80%以上であることを具体的にいかなる基準を用いて評価するのか明確ではなく、運用上の混乱が生じることが明らかであるという点などをはじめとして、数々の問題点が指摘されてきた。
3.通達23号の主な概要
かかる指摘も受け、第9次草案まで版を重ねた通達20号の改正法の草案は、基本的には、版を重ねる毎に規制内容を緩和する方向で推移してきたように思われる。かかる草案を経て最終的に公布された通達23号では、中古の機械・設備の輸入条件として、「製造直後の価値と比較した残存価値」の要件が撤廃され、①製造から10年を超えないこと、②ベトナム国家技術基準(QCVN)・国家規格(TCVN)又は安全・省エネ及び環境保護に関するG7各国の同等の基準に基づき製造された機械・設備等であることが規定された(なお、明文上は必ずしも明確ではないが、その後の政府関係者の説明なども踏まえると、①と②の両方を満たすことが要求されているように思われる)。もっとも、投資方針決定を得る必要がある案件、又は、投資方針決定は不要であるものの投資登録証を取得する必要がある案件においては、投資家が、新規投資・追加投資の投資登録証の申請手続の際に、使用する中古の機械・設備の一覧も提出し、これについて投資方針決定・投資登録証発行を管轄する当局が投資法に基づいて投資登録証を発行すれば、上記①②の要件充足の有無にかかわらず、投資家は当該案件に使用するために、かかる一覧に記載の中古機械・設備を輸入することができる。なお、投資方針決定・投資登録証発行を管轄する当局は、必要に応じて、投資方針決定・投資登録証発行前に、科学技術に関する評価機関の意見を求めることができることとされている。
こうした通達23号の規制内容を見ていると、例えば、「安全・省エネ及び環境保護に関するG7各国の同等の基準」が具体的にいかなる基準を指しているのかが一義的に明確ではない点などをはじめとして、不明確な点が散在する。また、投資方針決定・投資登録証発行を管轄する当局は、中古機械・設備の輸入を認めるか否かについても判断権を持つこととなり、現在以上に広汎な事項について裁量判断権が与えられることになる。通達23号は2016年7月1日から施行される予定である。中古の機械・設備の輸入が問題となる企業を中心に、今後、通達23号の具体的な運用の問題を含めた不安定要素を可能な限り解消し、混乱を最小化するための対策を講じていく必要があろう。