◇SH2411◇日本経済再生本部の未来投資会議、「上場子会社のガバナンス」等について議論(2019/03/19)

未分類

日本経済再生本部の未来投資会議、「上場子会社のガバナンス」等について議論

――経産省の研究会における「実務指針」の策定等を進める――

 

 日本経済再生本部(本部長=安倍晋三内閣総理大臣)は3月7日、第24回未来投資会議を開催し、今後のモビリティの方向性(地域での移動手段等)および企業のコーポレート・ガバナンスについて議論を行った。以下では、コーポレート・ガバナンスの議論について紹介する。

 安倍内閣では、コーポレート・ガバナンス改革のための諸施策が進められてきたが、さらなる強化に向けて、上場子会社のガバナンスの問題が指摘されているところである。そこで現在、経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会」(座長=神田秀樹・学習院大学大学院教授)においては、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」の検討が進められている(文末の別稿および今回配付資料7における同研究会での「取りまとめの方向性」を参照)。

 今回の未来投資会議で示された「上場子会社のガバナンスの在り方に関する参考資料」(日本経済再生総合事務局作成)によると、支配株主を有する上場子会社のガバナンス体制の問題は、わが国のコーポレート・ガバナンスの残された課題であり、「支配株主(親会社)から独立した意思決定を確保し、上場子会社の一般株主を保護すること」が求められると指摘している。現在は、東証上場企業のうち、東証上場規程にいう支配株主を有する会社(上場子会社)は昨年12月時点で628社(上場企業の17.2%)、親子上場企業は311社(同8.5%)あり、欧米各国と比較してかなり高い状況にあるとしている。

 そして、「我が国の上場子会社のガバナンスの脆弱さ」について、「本来、上場子会社のガバナンス体制は支配株主(親会社)から独立して上場子会社の一般株主を保護し、独立した意思決定を確保するため、上場企業一般より充実している必要がある」にもかかわらず、実際には、「上場子会社における独立社外取締役と独立社外監査役の人数は、むしろ上場企業一般に劣後している現状にある」と指摘している。

 さらに、「上場子会社の社長・CEOの指名方法」についても、実質的には親会社が決定している企業が21%、親子間で協議している企業が50%にのぼる一方で、子会社の指名委員会が当該子会社の社長・CEOの選任について審議している企業は11%にとどまっているとしている。

 これらの現状分析等を踏まえて、後掲の「上場子会社のガバナンスについての検討項目」が示されたものである。

 そして安倍総理大臣からは、「支配的な親会社が存在する上場子会社のガバナンスについては、新たに指針を早急に策定し、親会社に説明責任を求めるとともに、子会社側には、支配株主から独立性がある社外取締役の比率を高めるといった対応を促し、東証の基準等についても対応を検討し、麻生大臣、世耕大臣におかれては、茂木大臣と協力して、今夏取りまとめる成長戦略の実行計画に向けて、具体的な検討を進めていただきたい」旨の指示がなされた。

 

上場子会社のガバナンスについての検討項目
(未来投資会議「企業関連制度・産業構造改革・イノベーション」構造改革徹底推進会合会長)

1 現状

  1. ・ 支配株主のいる上場会社(「上場子会社」)は628(上場会社の2割)にのぼる。
  2. ・ 上場子会社が、長期安定的な形態として多数存在するのは日本特有の実務とされ、国内外の投資家も、上場子会社における利益相反問題(一般株主利益の収奪)について懸念している。国内外の投資家は、最近の我が国におけるコーポレートガバナンスの強化について積極的に評価しているが、上場子会社のガバナンスについては手つかずのままであるとの認識であり、市場機能の濫用になっているとの批判がある。
  3. ・ 現状、上場会社に関するガバナンスは、東証の上場規程(義務)とコーポレートガバナンスコード(comply or explain)により定められているが、上場子会社のガバナンスについては特段定めがない。
  4. ・ 企業経営者においても、親会社が子会社を支配するのは当然との意識が根強く、「上場している以上は一般株主保護が前提」との考え方は必ずしも「常識」になっていない。
  5. ・ 特に、最近、国内外から上場子会社問題への関心が高まる中、上場子会社のガバナンスに対する特段の規律がないまま放置すれば、日本市場の信頼が損なわれるおそれがある。
  6. ・ なお、欧米等の主要国では、判例法により、支配株主の一般株主に対するfiduciary duty(誠実義務)が確立しており、一般株主が支配株主を訴えることができるが、日本では会社法上も判例上も認められていないと言われている。

 

2 上場子会社のガバナンスについてのルール整備

 事業ポートフォリオの再編のための上場子会社の意義を認めるのであれば、親会社はその説明責任を果たすとともに、上場子会社側については、適切なガバナンスのルールを特段に明確にし、実務への浸透を図るべきではないかとの指摘がある。これに関し、以下の対応を図る。

 (1) コーポレート・ガバナンス・システム研究会(経済産業省)における報告書の骨子案(平成31年2月13日)に従い、上場子会社のガバナンスの在り方を示し、企業に遵守を促す「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を新たに早急に策定し、次のとおり在り方を示すこと。

  1. 【上場子会社側の対応】
  2. ・ 上場子会社の一般株主保護及び独立した意思決定の確保のためには、独立社外取締役の役割が特に重要であること。
  3. ・ 上場子会社におけるガバナンスの実効性を確保するためには、支配株主からの独立性が重要であることから、独立社外取締役の独立性判断基準については、少なくとも支配株主出身者(10年以内に支配株主に所属していた者)に該当するものは選任しないこと。
  4. ・ 上場子会社の取締役会の独立社外取締役比率を高める(1/3以上や過半数)ことを目指すこと。
  5. ・ 利益相反取引が発生する具体的な局面においては、例えば、独立社外取締役(又は独立社外監査役)のみ又は過半数を占める委員会において、一般株主の利益保護の観点から審議・検討することとし、かつ、取締役会においてもその審議結果が尊重される仕組みをつくること。
  6. ・ 上場子会社において、一般株主の利益を確保するためにどのようなガバナンス体制を構築しているかについて、投資家等に対して情報開示を行うこと。
     
  7. 【親会社側の対応】
  8. ・ 親会社は、グループとしての企業価値の最大化の観点から上場子会社として維持することの合理的理由とともに、支配株主として上場子会社の取締役の選解任権限について上場子会社のガバナンス体制の実効性を確保できるよう行使し、その適切性について、情報開示を通じて、投資家等に対して説明責任を果たすこと。

 (2) 東証の独立性基準等についても、(1)の方向性に沿った対応を検討すること。

 

  1. 日本経済再生本部、未来投資会議(第24回)(3月7日)(開催状況一覧)
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/index.html
  2. ○ 資料3:上場子会社のガバナンスの在り方に関する参考資料
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/siryou3.pdf
  3. ○ 資料4:上場子会社のガバナンスについての検討項目
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/siryou4.pdf
  4. ○ 資料6:金融担当大臣提出資料「コーポレートガバナンス改革」
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/siryou6.pdf
  5. ○ 資料7:経済産業大臣提出資料「企業ガバナンスについて」
    (経済産業省におけるコーポレート・ガバナンス・システム研究会での取りまとめの方向性)
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/siryou7.pdf
  6.  
  7. 参考
    SH2369 経産省、「グループ・ガバナンス・システム」で実務指針の骨子案を提示(2019/02/28)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=8327093
  8.   SH2356 経産省、「グループ・ガバナンス・システム」で実務指針のイメージを提示(2019/02/21)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=8279385
タイトルとURLをコピーしました