◇SH0795◇インドネシア:「生産系列にある」ディストリビューター続報――輸入の可否 坂下 大(2016/09/13)

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インドネシア:「生産系列にある」ディストリビューター続報――輸入の可否

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 2016年5月18日に施行されたインドネシアの新ネガティブリスト(大統領令2016年44号。以下「新ネガティブリスト」という。)において、「生産系列にある」ディストリビューターは外資100%可、「生産系列にない」ディストリビューターは外資67%まで可とされたところである。前回の拙稿(「SH0736 インドネシア:新ネガティブリスト「生産系列にある」ディストリビューター?」。以下「前稿」という。)において、この「生産系列にある」ディストリビューターに関する諸論点を紹介したが、その1つである輸入の可否に関する議論に新たな展開が生じているため、早速紹介することとしたい。

 

1. 前稿までの議論:輸入不可

 前稿で説明したとおり、「生産系列にある」ディストリビューターとは、要するにインドネシア国内の製造会社と一定の資本関係を有するディストリビューターを意味するのであるが、この「生産系列にある」ディストリビューターがインドネシア国外から物品を輸入してこれを国内で流通させることができるのか(また、できるのであれば、どの範囲の物品についてできるのか)という点が問題となっていた。この点に関しては、2016年6月2日にジャカルタで開催された投資調整庁(BKPM)による日系企業向けの説明会において、一旦は輸入可能という説明がBKPMの担当者よりなされたものの、その後の追加質問及びこれに対する文書での回答により、「生産系列にある」ディストリビューターが取り扱うことができるのは、系列にあるインドネシア国内の製造会社が製造したものに限られ、当該ディストリビューターによる輸入はできない(したがって、インドネシアにおいて輸入を行うために必要なライセンスである輸入業者番号(API)の取得もできない)旨の見解がBKPMより示されたため、当面は後者に従い輸入不可という方針で実務の運用がなされるものと思われていた。

 

2. 直近のBKPMの見解:補完財等に限り可

 このような中、去る2016年9月6日に、ジャカルタにてBKPMによる日系企業向けの第2回目の説明会が開催され、この論点についてもアップデートがなされた。そこでのBKPMの説明によると、「生産系列にある」ディストリビューターは、商業大臣令2015年118号において定める一定の補完財、テストマーケティング用品、及びアフターサービス用品(以下「補完財等」という。)に限り、輸入業者番号(API)を取得して輸入することが可能であり、また、当該ディストリビューターは製造会社ではないので、この場合に取得するAPIは(製造会社が取得するAPI-Pではなく)インドネシア国内における売買目的での物品の輸入の際に取得すべきAPI-Uであるとのことであった。商業大臣令2015年118号は、原則として自ら製造に用いる原材料等の輸入のみが認められるAPI-P保有者に対して、補完財等に限って完成品の輸入を認めるものであるが、「生産系列にある」ディストリビューターによる輸入の可否についても(取得するのはAPI-Uであるが)これとパラレルに考えるということである。この結論はBKPMから何らかの形式の書面でも公表される見込みである。(なお、輸入業者番号(API)制度の概要は拙稿「輸入業者番号(API)に関する商業大臣令の改正」を、商業大臣令2015年118号の概要は前川陽一弁護士による「輸入ライセンス規制の改正―製造業者による完成品輸入の例外を認める規定の復活」をそれぞれ参照されたい。)

 BKPMによると、上記の経緯により一度は輸入不可という方針を示したものの、これに対して実務界から多くの意見が寄せられたこと等を受け、上記方針の変更に至ったとのことであるが、補完財等の輸入は、もともと系列にある製造会社自身において可能であるため、外資100%が認められる「生産系列にある」ディストリビューターにこれを認めたとしても、実質的なメリットがさほど生じないケースもあり得ると思われる。また、法令の適用の問題として、API-P保有者が輸入できる物品の範囲に関する規定である商業大臣令2015年118号(あるいはその中の補完財等という概念)を、どのような整理の下でディストリビューターが保有することとなるAPI-Uに対する制限として機能させるのかという点については現時点では必ずしも明らかではない。いずれについても今後の法令の改正動向及び実務の運用を注視する必要がある。

 

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