◇SH2427◇金融庁、有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施 武藤雄木(2019/03/26)

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金融庁、有価証券報告書の作成・提出に際しての
留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施

岩田合同法律事務所

弁護士 武 藤 雄 木

 

1 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について

  1.  ⑴ 概要
  2.    金融庁は、有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として、事業年度ごとに、有価証券報告書の記載に関係する主な法令等の改正及び前年度の有価証券報告書レビューの審査結果等を公表している。平成31年度の留意すべき事項は以下のとおりである。
     
  3.  ⑵ 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項

    1.  ア 平成31年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    2.    本改正は、平成30年6月28日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告において、「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」及び「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けた適切な制度整備を行うべきとの提言がなされたことを受け、有価証券報告書の記載事項の改正を行うためのものである。
    3.  イ 税効果会計基準の改正等の公表を踏まえた財務諸表等規則の改正
    4.    本改正は、税効果会計に関する表示及び注記事項に関する定め並びに必要と考えられる一部の会計処理について見直しがなされたことを踏まえて、財務諸表等の表示及び注記に所要の改正を行うためのものである。
       
  4.  ⑶ 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項
  5.    昨年度の法令改正関係審査(平成30年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令の改正)及び重点テーマ審査(引当金、偶発債務等の会計上の見積り項目、繰延税金資産の回収可能性)の結果を踏まえて、複数の会社で共通して記載内容が不十分であると認められた事項が明らかにされている。留意すべき主な事項は以下のとおりである。
審査項目 留意すべき事項
企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  1. ・ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載する必要があること
  2. ・ 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載する必要があること
引当金、偶発債務等の会計上の見積り項目
  1. ・ 偶発債務(債務の保証(債務の保証と同様の効果を有するものを含む。)、係争事件に係る賠償義務その他現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるものをいう。)がある場合には、その内容及び金額を注記しなければならないこと
繰延税金資産の回収可能性
  1. ・ 繰延税金資産の計上額を見積る場合に用いる将来の業績予測については、合理的な仮定に基づく必要があること

 

2 有価証券報告書レビューの実施について

  1.  ⑴ 概要
  2.    金融庁は、上場会社等から提出された有価証券報告書の記載内容について、より深度ある審査を行い、もって有価証券報告書の記載内容の適正性を確保するために、各財務局、福岡財務支局及び沖縄総合事務局と連携して、「法令改正関係審査」、「重点テーマ審査」及び「情報等活用審査」を柱とした有価証券報告書レビューを行っている。
  3.    平成31 年度の有価証券報告書レビューについては、以下の内容で実施される。
     
  4.  ⑵ 法令改正関係審査
  5.    金融庁は、有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として挙げられた平成31年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令の改正及び税効果会計基準の改正等の公表を踏まえた財務諸表等規則の改正について、適切な記載がなされているかを審査するとしている。そのため、上場会社等は、所管の財務局等に対して、①役員の報酬等、②株式の保有状況及び③税効果会計についての有価証券報告書の記載状況に関する調査票を提出することが求められている。
     
  6.  ⑶ 重点テーマ審査
  7.    金融庁は、以下のテーマに着目して審査対象となる会社を選定するとしている。近年、上場会社では、役員・従業員に対するインセンティブ報酬として株式報酬を導入する事例が増えてきていることなどを踏まえたテーマ設定だと思われる。

    1. ・ 関連当事者に関する開示
    2. ・ ストック・オプション等に関する会計処理及び開示
    3. ・ 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理及び開示
       
  8.  ⑷ 情報等活用審査
  9.    上記⑵、⑶に該当しない場合についても、適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案して審査を実施するとしている。

 

3 取組みへの対応

 平成31年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令の改正は、企業情報の適切な開示を通じて企業価値の向上を図ることを企図したものであるところ、現状では適用初年度ということもあり、改正内容に係る企業情報を如何に開示していくべきか上場企業等は手探りの状況にあると思われる。そのような中にあって、今般、金融庁が公表にするに至った有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項は、これから本格化する平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成過程において参照すべき指針の一つとなるといえる。

 

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