◇タイムライン◇経産省、不正競争防止法の外国公務員贈賄罪に関する
指針の改訂版を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
経済産業省は、平成27年7月30日、「外国公務員贈賄の防止に関する研究会」(座長:山口厚 早稲田大学大学院法務研究科教授)での検討結果を踏まえ、不正競争防止法の外国公務員贈賄罪に関する指針(以下「外国公務員贈賄防止指針」)の改訂版(以下「新指針」)を公表した。
新指針においては、米国司法省などの海外当局による日本企業が行った贈賄等に関する法執行事例が生じている状況を受け、企業で求められる贈賄防止体制の指針を示すとともに、わが国企業が企業グループとして贈賄リスクを適切に制御した上で、正当な営業活動を行う環境を整備する必要がある等の現状が述べられている。
新指針における改訂のポイントは、次のとおりである。
1 法解釈の明確化
-
• 通関・税金還付・消防点検等の際に適法な手続を行っているにもかかわらず、合理性のない差別的取扱いを避けるために現地公務員等から金銭や物品を要求された場合でも、要求を拒絶することが原則。但し、賄賂要求が継続する場合、自社の損害回避のためにやむを得ず行う支払いに関しては、処罰対象たる利益供与に当たらないことはあり得る
-
• 時期、品目や金額、頻度その他の要素から、純粋に社交や自社製品・サービスへの理解を深めることを目的とする少額の贈答、旅費負担、娯楽提供等に関しては、必ずしも贈賄行為と評価されるわけではない
-
• 社内において正規の承認手続を得ない利益供与や、帳簿等における虚偽の記録の存在は、「営業上の不正の利益」であることを疑わせる要素となり得る
-
• 贈賄に応じない場合に暴行を受ける可能性があるなど、生命・身体に対する現実の侵害を避けるため、他に現実的に取り得る手段がないためやむを得ず行う必要最低限度の支払いは、緊急避難として不処罰となり得る
2 企業における外国公務員贈賄防止体制の強化
-
• 海外事業を実施する企業について、外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を行う必要があり、早急に検討を行うことが期待される旨を明記
-
• 親会社は、企業集団に属する子会社(海外現地法人等)を含む、適切な外国公務員贈賄防止体制を構築・運用する必要がある旨を明記
-
• 海外当局発行のガイドライン等(米国FCPAガイドライン等)の参照を推奨
-
• 社内規則の在り方として、リスク(進出国、事業分野及び行為類型)を勘案した「リスクベース・アプローチ」に基づく、①「基本方針」策定・公表、及び②基本方針に基づく「社内規程」(会食・旅費負担などの社交行為や、代理店起用など高リスク行為に関する社内承認ルールや、違反者の懲戒処分に関するルール等を定めた社内規則)の策定という、二段階構造の社内規則を例示
-
• 高リスク行為については、適切な社内決裁ルートの構築、記録・監査といった社内検討態勢の整備を要求
3 現地日本大使館への相談の推奨
-
• 賄賂要求を受けた企業に関しては、現地日本大使館・領事館に設けられた「日本企業支援窓口」等への相談を推奨
|
新指針策定により、海外事業を行う日本企業において、会社法改正等による内部統制強化の流れとも併せ、外国公務員贈賄防止体制の構築・整備を進める企業が増加するものと思われる。
しかし、下記図表のとおり、日本においては外国公務員贈賄罪(平成11年2月施行)の摘発事例が累計でわずか4件と事案の蓄積が少ない上、新指針において適法・違法となる事例の「線引き」がある程度具体化・明示されるようになったものの、参考となる事例・基準が未だ十分な状況とはいえないため、今後の法執行状況や相談事例等の蓄積をさらに注視していく必要があろう。