公取委、今治タクシー事業協同組合に対する警告
岩田合同法律事務所
弁護士 山 田 祐 大
1 はじめに
公正取引委員会は、2019年3月26日、今治タクシー事業協同組合(以下「本組合」という。)が、その組合員間の共通乗車券(チケット)の発行及び集金業務等において、独占禁止法19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕)の規定に違反するおそれがある行為を行っているとして警告した旨発表した。
拘束条件付取引とは、相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引することをいい、相手方の事業活動を「不当に拘束する」場合、すなわち、相手方の事業活動を拘束する条件が公正な競争を阻害するおそれがある場合に該当することになる。そこで、本件ではいかなる点が公正な競争を阻害するおそれがあると判断されたのか解説を行う。
2 本件事案の概要
本件事案の概要は、公正取引委員会が発表した以下の図の事実関係のとおりである[1]。
すなわち、公正取引委員会は、本組合が、組合員であるタクシー事業者との間で契約を締結して共通乗車券事業(以下「本事業」という。)を行うに当たり、組合員に対して、①クレジットカード決済を導入することの禁止、②フリーダイヤルサービス等の禁止、③クーポン等による運賃割引の禁止をそれぞれ定めた行為(以下「本件拘束」という。)が、不当な拘束にあたるおそれがあると判断したものである。
3 本件において懸念される公正競争阻害性
タクシー事業者が提供する通常の乗客運送サービスは、それ自体において、他の事業者と差別化を行いにくい性質がある。
そこで、タクシー事業者は、上記①から③のサービスを含む他の付加的なサービスを乗客へ提供することにより、自己を他の事業者と差別化して市場における競争力を増大させることができる可能性がある。しかしながら、本件拘束は、上記競争力の増大を禁止するものであり、自由競争を阻害するおそれがある。ゆえに、公正取引委員会は、この点を捉えて拘束条件付取引規制に違反したおそれがあると判断したと考えられる。
4 公正取引委員会の警告への対応について
警告は、独占禁止法に定めのある法的措置ではなく、公正取引委員会が同法19条等の規定に違反するおそれがある行為がある又はあったと認める場合において、当該事業者又は当該事業者団体に対して、その行為を取りやめること又はその行為を再び行わないようにすることその他必要な事項を指示することをいう(公正取引委員会の審査に関する規則26条)。
事業者は、当該警告に応じる義務はないが、公正取引委員会が排除措置命令を発出おそれもあるので、事業者としては自主的な解消措置を取るのか、排除措置命令に対する取消訴訟を見込んだ対応を取るのか慎重な判断が求められる。
5 本件を踏まえた事業者の留意点
事業者は、市場での過当な競争を避けたいとの認識のもとに同業者等との契約においてその事業活動を拘束する条項を設けることを検討することがあると思われる。かかる拘束が「不当な拘束」と認められるのは直接的に競争を制限する定めに限られず、本件のように顧客を誘因するキャンペーンや決済の便宜を図る機器の導入を制限することによって間接的に競争を阻害するよう場合も該当し得るということは、事業者として認識しておくことが有用であると考えられる。
以上