◇SH3698◇フィリピン:小売業に関する外資規制の改正動向続報(1) 坂下大(2021/07/28)

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フィリピン:小売業に関する外資規制の改正動向続報(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 本年2月の拙稿において、フィリピンにおける小売業に関する外資規制の改正動向を紹介した(SH3482 フィリピン:小売業に関する外資規制の概要と改正動向(1)及びSH3483 フィリピン:小売業に関する外資規制の概要と改正動向(2))。当時上院で審議中であった小売自由化法(the Retail Trade Liberalization Act of 2000)の改正法案(1840号)は、その後さらなる審議、内容修正を経て、本年5月に上院で承認された。すでに下院で承認済みの改正法案と若干異なる点も含まれていることから、今後さらに両院協議会による内容の最終確定の手続を経る必要があるが、下記のとおり小売業の門戸を外資に大きく開放する方向での改正が間近に迫りつつある。そこで本稿では、上院案による改正の内容と、改正に関する今後の見通しを紹介する。

 

現行法 上院案による改正の内容
1. 払込資本金要件
  1. ・ 払込資本金額が250万米ドル(約2億7,500万円)未満の小売業は、外資による出資は一切不可。
  2. ・ 払込資本金額が250万米ドル以上であれば外資出資比率の制限はない。
  1. ・ 外資出資が可能となる左記の払込資本金額の基準値を5,000万ペソ(約1億1,000万円)に引下げ。
  2. ・ 政府は3年毎にこの払込資本金の要件について検討し、国会に提言を行う。
  3. ・ なお、払込資本金要件の遵守を証する資料の提出義務の文脈で、60%以上をフィリピン内資が保有している場合には(つまり外資40%以下であれば)、定款、GIS、及び/又は監査済み計算書類の提出をもって「本条の義務」を履行したものとして扱う旨の規定がある。文言上、この「本条の義務」には資料提出義務のみならず払込資本金要件遵守義務そのものが含まれるはずであるが、これは外資40%以下の場合における払込資本金要件の撤廃を意図したものではなく、あくまで提出資料の簡素化を図る趣旨のものと思われる。この点は最終的な改正内容をさらに確認する必要がある。
2. 投資額要件
  1. ・ ハイエンド品等に特化する場合を除き、各店舗につき83万米ドル(約9,100万円)の投資額(簡単にいうと建物や在庫等を含む有形無形の資産の額)が必要。
  1. ・ 2以上の実店舗を有する場合には、各店舗につき2,500万ペソ(約5,500万円)の投資額が必要。
  2. ・ 60%以上をフィリピン内資が保有している場合には(つまり外資40%以下であれば)この投資額要件は適用されない。
3. 株式公開義務
  1. ・ 外資出資比率が80%を超える小売業者は、事業開始から(事業開始後に外資出資比率が80%を超えた場合は当該超過時からと解される。)8年以内に、その株式の30%以上をフィリピン国内市場において公開しなければならない。
  1. ・ 左記義務は撤廃。
4. フィリピン人の優先雇用
  1. ・ 規定なし。
  1. ・ 外資の出資を受けた小売事業者による外国人の雇用にあたっては、雇用法の定める、当該職務について適任、有能で意思のあるフィリピン人が不存在であることを事前に確認すべき旨の規定が、憲法の定めるフィリピン人労働力優先のポリシーを十分に踏まえて遵守されなければならない。
  2. ・ (補足説明)上記雇用法の制度の下、フィリピンにおける外国人の就労に必要な当局の雇用許可は、事前に当該外国人が就任予定の職務の詳細を公告し、一定期間内に異議申立てがなされなかったことの確認等(いわゆる労働市場テスト)を経て発行される。上記改正案は、このようなフィリピン人の優先雇用の原則が小売業においてもなお妥当することを確認的に規定したものであると思われる。

 

(2)につづく

 


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(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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