日弁連、社外取締役ガイドライン2019年改訂版を掲載
――コーポレートガバナンス・コードの改訂等の状況を踏まえて整理――
日本弁護士連合会は、3月14日付で作成した「社外取締役ガイドライン2019年改訂版」をHPに掲載した。
日弁連では、2013年2月に、弁護士会会員およびその他の社外取締役候補者、社外取締役を新たに選任する企業等を対象とした「社外取締役ガイドライン」を作成し、その後、2015年3月に改訂していたところである(後掲の別稿参照)。本ガイドラインは、取締役の善管注意義務の法的分析・整理を踏まえ、社外取締役の就任から退任までの役割等について、ベストプラクティスをコンパクトに取りまとめたものとなっている(後掲の「概要」参照)。
今回の改訂では、前回の改訂以降に、①コーポレートガバナンス・コードの改訂・施行、②日本版スチュワードシップ・コードの浸透、③社外取締役の選任割合の増加、等の状況が生じており、「現在は、社外取締役を選任するかしないかではなく、会社は社外取締役をどう活用するか、社外取締役は自らが何を成すべきかについて、正面から取り組む時代となっている」との認識の下、改めてガイドラインを整理したものである。
今回改訂された主な部分は、次のとおりである。
第1 社外取締役にはどのような者がふさわしいか
1 社外取締役に望まれる資質
「社外取締役の候補者」として前回の改訂で追加した「行政職OB」を削除し、また、「多様性の確保」について、モニタリングの実効性を発揮できるようにするという観点からも「ジェンダーや国際性の面を含む多様性を確保」すること等が望ましいとした。
第2 社外取締役の会社に対する善管注意義務の法的分析
2 社外取締役の責任
「社外取締役の職務と責任」のうち「責任限定契約、会社役員賠償責任保険(D&O保険)」について、「会社がD&O保険に加入している場合、保険の内容(特約等)を確認すべきである」とした。
4 有価証券報告書等に対する虚偽記載の責任
今回の改訂で新たに追加した項目であり、上場会社の有価証券報告書等に虚偽記載がなされた場合、当該会社の役員は株主・投資家等に対して損害賠償責任を負うことがあるとし、金融商品取引法に基づく責任追及における役員側の立証責任等を指摘した上で、「事後の検証が可能なよう、適切な記録を残すべきである」とした。
第3 社外取締役の具体的活動の指針
1 就任検討時における留意事項
「能力・資質・独立性の自己確認」について、「十分な時間等の確保」の項目を追加し、「取締役会に十分な準備を行った上で出席できるかはもちろん、所属する委員会やその他の出席すべき会議、有事の際に社外取締役として十分な時間が取れるかという点も自己確認すべきである」とした。
4 取締役会でのモニタリングの項目
「取締役会の決議事項について」では、「取締役会の付議基準の設定」を追加した。
「経営に関するモニタリング」では、「政策保有株式について」、「取締役会の実効性評価」の項目を追加したほか、「役員報酬について」、「取締役候補の指名について」の内容を大きく修正した。また、「経営陣交替への関与について」では、経営陣の続投の可否、責任の取り方について、「助言」のみとされていたものを「助言、説得又は提案を行う」こととした。
5 任意の委員会における事項
今回の改訂で新たに追加した項目であり、設置検討・設計・運用の場面ごとに、指名委員会・報酬委員会における留意事項をまとめている。
7 不祥事発生時の対応策
不祥事対応について、日本取引所自主規制法人により定められた「上場会社における不祥事対応のプリンシパル」を念頭に置くべきであるとした。
「初動対応」については、「内部通報制度が適切に運用されているかどうか」を監督すべきであること等を追加した。
8 任期及び退任に当たっての留意事項
「任期」では、「再任と在任期間」について、「一般的には、社外取締役が就任後会社の営業の内容……等について知見等を深めることにより、期待される役割を良く果たすことができると考えられるので、再任されるのが望ましい」とした。しかし、「再任が重なり在任期間が長期化するときは、社外取締役に期待される独立性に疑義が生じ得ることに配慮する」として、「本ガイドラインとしては、企業及び投資家の動向等を考慮し、最低4年は必要と考えている」とした。
社外取締役ガイドラインの概要
本ガイドラインは、日本の上場会社において99%以上を占める監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社を対象としている。指名委員会等設置会社の社外取締役については、これらを適宜応用・調整の上参照されたい。
- 1 会社、候補者の双方が検討できるよう、社外取締役の就任時、また就任の依頼時に検討すべき事項として、「社外取締役に望まれる資質」を記載した。社外取締役にとって重要な独立性や専門性、また多様性等について記載した。
- 2 取締役の責任を理解した上で就任し、職務に携わることができるよう、社外取締役の善管注意義務の法的分析を整理して提供する。社外役員(監査役も含む)についても「不作為」に基づく責任が発生すること、また、いわゆる証券訴訟において社外役員が責任を負う可能性が高いことについても記載した。
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3 就任後の具体的な活動指針として、概ね以下のとおり場面を分けて記載した。
- ⑴ 就任時
- 社外取締役への就任を依頼されたとき、自らの適格性を判断するために、どのような事項を、どのように検討するか。
- ⑵ 平常時の職務
- 社外取締役の平常時の職務として、何をどのようにモニタリングするか。また、内部統制部門、監査役(会)、会計監査人等と、どう連携するか。
- ⑶ 任意の委員会
- 任意の委員会につき、設置の有無に応じた社外取締役の対応、設計場面における構成、対象者、諮問事項、運用場面における留意点。
- ⑷ 非常時の職務
- 平常時の職務と異なる非常時の職務として、組織再編等のM&A等及び不祥事発生時の対応。
- ⑸ 社外取締役の任期・退任
- 社外取締役の任期の望ましい期間及び退任時の留意点として、利害関係者等への説明、任期中に受領した資料の保管。
- ⑹ 監査等委員会設置会社における場合
- 監査等委員会設置会社の取締役について、その独自の職務について、監査、他部門との連携、独立性、モニタリング、任意の委員会との関係等。
- ⑺ その他社外取締役に期待される役割
- 指名・報酬等への関与、社外取締役間の関係、株主との対話、自己研鑽等。
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日弁連、社外取締役ガイドライン2019年改訂版を掲載(3月26日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/justice/survey.html - ○ 社外取締役ガイドライン(2019年3月14日改訂)
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https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/guideline_190314.pdf
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参考
SH0270 柏木健佑「日弁連、『社外取締役ガイドライン』の改訂版を公表」(2015/03/31)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=1028099