◇SH1370◇タイ:外国人労働者及び使用者に適用される新規制 箕輪俊介(2017/08/30)

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タイ:外国人労働者及び使用者に適用される新規制

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 タイ国内の製造業において、周辺国からくる外国人労働者は安価な労働力を確保するための貴重な人材源である。そして、タイと陸続きのミャンマー、ラオス、カンボジアといった地域からはよりよい賃金や生活を求めてタイへ不法入国をし、不法就労を行っている者が後を絶たない。

 このような不法就労の問題に対応するため、2017年6月23日、外国人の就労管理に関する新たな勅令(the Royal Decree on Managing the Work of Aliens, B.E. 2560)(以下、「新勅令」という。)が施行された。この新勅令により、旧来、外国人の労働許可に関して規律していた外国人雇用法(2008年)及び外国人労働者の斡旋を規律していた法令(the Royal Decree on Bringing Alien to Work in the Kingdom B.E. 2559 (2016)。以下、「旧勅令」という。)は撤廃され、一つの法令(新勅令)に統合されることになった。新勅令の内容は大要、外国人雇用法及び旧勅令の内容を継承するものであるが、上記の不法就労者に関する問題に対処するために、罰則を強化している。例えば、就労許可証を有していない、又は就労が許可されていない職業に従事している外国人を雇用した場合、旧法下では外国人一名の雇用につき、10,000バーツ以上100,000バーツ以下の罰金が使用者に対して科されることとされていたが、新勅令では、かかる場合に400,000バーツ以上800,000バーツ以下の罰金が使用者に対して科されることとなり、罰金額が大幅に増額された。

 この新勅令の施行は大きな波紋を呼び、かかる厳罰な処罰の対象となることへのおそれから、不法就労の疑いのある外国人労働者が大挙して国外へ逃走する、又は使用者が不法就労の外国人労働者をタイ国外に送還する事態を引き起こした。報道によると、新勅令施行後数日間の間に、6万人を超える外国人労働者が出国したとされている。

 これにより、周辺国からきた外国人労働者に頼る事業では、深刻な労働力不足が将来起きることへの不安と混乱を引き起こす事態となった。かかる事態を是正するために、2017年7月4日、国家平和秩序維持評議会(NCPO)は、新たな暫定措置令(以下、「本暫定措置令」という。)を公布した。本暫定措置令は、新勅令の施行日である2017年6月23日に遡って効力を発し、新勅令に基づく以下の罰則規定は、2018年1月1日まで施行を延期することとされた。

処罰対象となる行為 新勅令・本暫定措置令に基づく規制

使用者が就労許可証を有しない、又は就労が許可されない職業に従事している外国人を雇用した場合

外国人一名の雇用につき、400,000バーツ以上800,000バーツ以下の罰金

使用者が就労許可証を有する従業員を、就労許可証の記載と異なる「就労」に従事させていた場合

外国人一名の雇用につき、400,000バーツ以上800,000バーツ以下の罰金

従業員が就労許可証を有しない、又は就労が許可されない職業に従事している外国人を雇用した場合

5年以下の懲役、10,000バーツ以上100,000バーツ以下の罰金

従業員が緊急労働許可証を取得する必要がある業務において、これを取得することなくかかる業務に従事していた場合

20,000バーツ以上100,000 バーツ以下の罰金

 

 本暫定措置令の発令により、新勅令施行後の混乱は一定程度沈静化されたが、労働省は更に、現住している不法就労者の就労を継続させつつ、その実態を把握し、猶予期間の満了する2018年1月1日までに適法なタイの雇用体系の枠組みに取り入れるために、特別な時限措置を設けた。この措置により、2017年7月24日から2017年8月7日までの15日間の間に、タイ国内に100カ所以上設置された臨時センターに届出を行ったミャンマー人や、カンボジア人、ラオス人の不法就労者については、適切な手続を経れば、使用者及び従業員は共に刑罰を受けることなく、また、従業員は一度出国した上で、有効な身分証明書、労働許可証及びビザを自国にて取得することなく、タイ国内にいながら身分証明書、労働許可証及びビザを受けることが認められた。

 報道によれば、上記手続を利用して届出を行った不法就労者は80万人近くに及び、かかる届出を行った不法就労者を雇用していた使用者は、およそ20万社になったとされる。上記期間の間に届出を行わなかった不法就労者は一度タイ国外に出た上で適切な手続を取る必要がある。かかる手続を取っていない不法就労者及びこれを雇用する使用者は、2018年1月1日以降、新勅令及び本暫定措置令に基づく厳罰な処罰の対象となる。

 

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