◇SH2488◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第25回) 齋藤憲道(2019/04/18)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1.「製品規格」の仕組みを各種の管理の軸にする

(1)「製品規格」には「製品試験」と「品質管理体制審査」の2つの試験がある

 日本の産業標準化法(旧、工業標準化法)は、鉱工業品の構造、設計方法、試験方法等の標準化を促進して品質改善、取引の単純公正化、使用・消費の合理化等を図っている。

 そして、登録認証機関が、形状・寸法・材質・成分・品質・性能・耐久性・安全性・機能等が規格に適合しているとして認証した鉱工業品(包装・容器・送り状を含む)に、製造業者が「JIS マーク」を付すことを認める[1]

  1. (注1) 個々のJIS規格には、アルファベット1文字(分野を表す)と数字4~5桁を組み合わせた番号が付与されている[2]
  2. (注2) JISは任意基準だが、国・地方公共団体の技術基準設定や物品購入時にJISを尊重する点において強制基準の性格を有する[3]

 企業が生産する鉱工業品がJIS 規格(製品規格)に適合するかどうかの審査は、一般に、製品自体の特性を調べる「製品試験」と、それを製造する工場・事業場の「品質管理体制審査」の2つのテストによって行われ[4]、両方に合格した場合に認証される[5]。(加工品についても同様)

  1.  「製品試験」は、JIS規格に定める試験・分析・測定によって行う。
  2.  「品質管理体制」とは、製造設備・検査設備・検査方法・品質管理方法・その他品質保持に必要な技術的生産条件のことをいい、省令で定める基準に適合するかどうかを審査する。

① 製品試験[6](製品がJIS規格に適合することを審査する。)

 まず、製品自体が規格に適合しなければならない。

 適合しているか否かは、鉱工業品のうち試験用のものについて「製品試験」(JIS規格に定める試験、分析、測定)を行って審査する。

  1. (注) 通常、量産品の試験は、JISで求められる個数をサンプリングして行う[7]。全数を試験する場合は、製造品質管理体制審査を省略できる[8]

 試験は、原則として登録認証機関が、同機関の試験設備を用いて、同機関の試験員により実施する。

  1. (注) 上記に準じる方法も認められる[9]が、登録認証機関が、申請者の試験場所・試験員(登録認証機関又は申請者の所属)・第三者試験機関等で実施した試験データの活用について、JIS17025:2018(ISO/IEC17025:2017)〔試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項〕を満足していることを確認しなければならない。
  1. 例 リチウムイオン電池(セル)に関する JIS 規格[10]の構成
  2.  
  3.  〔基本規格〕 基礎特性の測定方法、技術用語(JIS C8711~C8714)
    〔製品規格〕 特性、サイズ(JIS C8711)
    〔方法規格〕 安全性と試験方法(JIS C8714)
    (注)「製品規格」とは別に、国・団体によるリチウムイオン電池に係る「危険物輸送規制」が設けられている。
    〔規制の例〕 UN(国連)オレンジブック[11]Ⅲ Class9(危険物輸送)、航空(ICAO[12]、IATA[13])、海運 IMO[14]

② 品質管理体制の審査

 たとえ、1個の良品(いわゆる、チャンピオン・サンプル)ができて、それが製品試験に合格しても、その製造業者等の「品質管理体制」(製造設備、検査設備、検査方法、品質管理方法その他品質保持に必要な技術的生産条件)が省令[15]で定める基準に適合していることを審査[16]し、同等品が継続的に生産(多くの場合、量産)される体制が整備されていなければ、認証されない。

 同省令は、「品質管理体制」の審査に関して、次の1)2)3)の基準を設け、この全てを満たすことを求めている。

1) JISに規定する設備を用いて製造・加工・検査を行い、JISに規定する検査方法で検査すること。

2) 次の方法で品質管理していること。

1. 社内規格の整備

(1) 次の1~6に関する事項につき、社内規格がJIS規格に従って具体的かつ体系的に整備されていること。

  1.   1 JIS認証製品の品質、検査・保管  2 原材料の品質、検査・保管  3 工程毎の管理項目・管理方法、品質特性とその検査方法・作業方法  4 製造設備・加工設備、検査設備の管理  5 外注管理  6 苦情処理

(2) 社内規格が適切に見直され、かつ、就業者に十分周知されていること。

2. JIS認証製品につき、JIS規格に適合することの検査・保管が社内規格に基づき適切に行われていること。

3. 原材料につき、検査・保管が社内規格に基づき適切に行われていること。

4. 工程の管理

(1) 製造・加工、検査が工程毎に社内規格に基づき適切に行われ、作業記録、検査記録、管理図を用いる等の必要な方法で適切に管理されていること。

(2) 工程で発生した不良品・不合格ロットの処置、工程異常の処置、予防措置が適切に行われていること。

(3) 作業の条件・環境が適切に維持されていること。

5. 製造設備・加工設備、検査設備の点検・検査・校正・保守等が社内規格に基づき適切に行われ、設備の精度・性能が適正に維持されていること。

6. 外注管理が社内規格に基づき適切に行われていること。

7. 苦情処理が社内規格に基づき適切に行われ、苦情要因の改善が図られていること。

8. 各種の管理(JIS認証製品、原材料、工程、設備、外注)や苦情処理等の記録が必要な期間保存され、かつ、品質管理推進に有効に活用されていること。

3) 上記1)、2)のほか、品質保持に必要な次の技術的生産条件を満たしていること。

1. 社内標準化・品質管理の組織的な運営が行われていること。

(1) 社内標準化・品質管理の推進が、企業の経営指針として確立され、計画的に実施されていること。

(2) 社内標準化・品質管理を適正に行うため、各組織の責任・権限が明確に定められ、下記2. の「品質管理責任者」を中心に各組織が有機的に連携し、かつ、問題点を把握して、適切に解決措置していること。

(3) 社内標準化・品質管理の推進に必要な教育訓練が就業者に対して計画的に行われ、外注先にも社内標準化・品質管理の推進に係る技術的指導を適切に行っていること。

2. 次の「品質管理責任者」を配置していること。

(1) JIS認証製品の製造部門・加工部門とは独立した権限を有して、次の職務を行うこと。

 1 社内標準化・品質管理に関する計画の立案・推進
 2 社内規格の制定・改廃・管理の統活
 3 JIS認証製品の品質水準の評価
 4 各工程の社内標準化・品質管理の実施に関する指導・助言・部門間調整
 5 工程に生じた異常・苦情等に関する処置・対策に関する指導・助言
 6 就業者に対する社内標準化・品質管理の教育訓練の推進
 7 外注管理の指導・助言
 8 JIS認証製品のJISへの適合性の承認
 9 JIS認証製品の出荷の承認

(2) JIS認証製品の製造・加工に必要な技術知識・実務経験を有し、かつ、大学等の専門課程で品質管理科目を修得して標準化・品質管理の知見を有すること。



[1] 産業標準化法30条1項(旧、工業標準化法19条1項)、日本工業規格への適合性の認証に関する省令2条

[2] A(土木及び建築)一般・構造/試験・検査・測量/設計・計画/設備・建具/材料・部品/施工/施工機械器具、B(一般機械)機械基本/機械部品類/FA共通/工具・ジグ類/工作用機械/光学機械・精密機械、 C(電子機器及び電気機械)測定・試験用機器用具/材料/電線・ケーブル・電路用品/電気機械器具/通信機器・電子機器・部品/電球・照明器具・配線器具・電池/家電製品、D(自動車)試験・検査方法/共通部品/エンジン/シャシ・車体/電気装置・計器/建設車両・産業車両/修理・調整・試験・検査器具/自転車。以下、大項目のみ記載。E鉄道、F船舶、G鉄鋼、H非鉄金属、K化学、L繊維、M鉱山、Pパルプ及び紙、Q管理システム、R窯業、S日用品、T医療安全用具、W航空、X情報処理、Zその他

[3] 産業標準化法1条、2条、30条、31条、69条(旧、工業標準化法1条、2条、19条、20条、67条)

[4] 産業標準化法30条3項(旧、工業標準化法19条3項)

[5] 国際規格であるISOとの整合化が進んでいる。

[6] JIS Q1001:2015(適合性評価-日本工業規格への適合性の認証-一般認証指針)6(初回工場審査及び初回製品試験)6.2(初回工場審査)、6.3(初回製品試験)

[7] 「計数値検査に対する抜取検査手順」に関する規格: JISZ9015-0、JISZ9015-1、JISZ9015-2、JISZ9015-3(ISO2859-0、ISO2859-1、ISO2859-2、ISO2859-3)

[8] 産業標準化法30条3項(旧、工業標準化法19条3項)

[9] JIS Q1001:2015  6.3.2(初回製品試験の実施)

[10] 「Liイオン二次電池の製品規格&安全性試験2011(シーエムシー・リサーチ 2011年発行)」に詳しい解説がある。

[11] 国連危険物輸送基準勧告

[12] 国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)Technical Instructions for Safety Transport of Dangerous Goods

[13] 国際航空運送協会(IATA:International Air Transport Association)Dangerous Goods Regulations

[14] 国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)International Maritime Dangerous Goods Code

[15] 日本工業規格への適合性の認証に関する省令(平成17年3月30日 厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第6号)。本文中の記載は同省令2条1項の要点である。

[16] 産業標準化法30条3項、31条2項(旧、工業標準化法19条3項、20条2項)。10,667件(2018年3月末時点)のJIS規格が定められている。

 

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