SH3916 中国:EUがWTOに提訴した中国の新しい知財戦術「禁訴令」(上) 鹿 はせる(2022/02/24)

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中国:EUがWTOに提訴した中国の新しい知財戦術「禁訴令」(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

 

 2022年2月18日に、EUはWTOに対して、中国の裁判所(人民法院)が、①EU企業に対して知的財産権保護のため外国の裁判所に訴えることを事実上制約する仮処分(禁訴令)を続々発令していること、②同仮処分に関する裁判所の判断等の情報開示を十分に行っていないこと等が、WTOの知的財産保護に関する条約、いわゆるTRIPS協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)に違反するとして、提訴(協議要請)を行ったと公式ウェブサイトで公表した[1]

 中国の裁判所が近時そういった禁訴令を外国企業に対して下していることは、後述するように日本企業もその対象となっていることから既に日本でも報道されているが、本稿では1. 禁訴令が問題となった事案背景及び訴訟の類型、2. 禁訴令の中国法上の根拠、3. 各発令の概要、4. EUが行なった提訴の概要と今後の見通しを整理の上、更に5. 日系企業に与える可能性を含め初期的なコメントを行う。なお、禁訴令は仮処分の一種であり、英語では“Anti-Suit Injunction”、ASIと略されることが多いが、本稿では中国及び日本での用法に従って「禁訴令」とする。

 

1 禁訴令の背景及び訴訟類型

 中国の禁訴令が問題となった訴訟はこれまで5件あるが、当事者、類型及びタイミングはいずれも近似している。訴訟の原告はいずれも携帯電話メーカーであり、被告はいずれもその携帯電話製造に必要な標準必須特許(SEP)を保有する外国企業である。

 標準必須特許は、標準規格に準拠した商品役務を製造・供給するために回避できない特許であり、特許権者は、公正、合理的かつ無差別の条件(FRAND条件)で他社にライセンスすることが求められる。しかし、何がFRAND条件にあたるかは解釈の問題であり、特許権者とライセンシーの間で紛争となりやすい。

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(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

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