◇SH2530◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(162)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉞ 岩倉秀雄(2019/05/14)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(162)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉞―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、危機対応計画の策定、シミュレーションの実施、メディアトレーニング等について述べた。

 危機発生時の混乱を避けるためには、平時から最悪の事態を想定した危機対応計画を策定し、規定化・マニュアル化して組織内に周知徹底しておくことが必要である。

 危機対応計画の策定には、経営トップを含む一定レベル以上が参加し、全社的・部門横断的な協議により決定する。

 具体的な検討項目としては、①危機発生時の組織内の連絡体制、②危機対策本部(本社と現地)と事務局の設置・運営方法、③危機レベルの設定と対応体制、④情報開示方法、⑤ステークホルダーへの連絡体制、⑥危機発生原因調査チームの組織化方法等、が想定される。

 策定した危機対応計画が想定どおりに機能するかを確かめるために、平時からシミュレーションを実施する必要があるが、定期的に行うか不意に行うかは、ビジネスの特徴を踏まえて各組織が判断する必要がある。

 なお、シミュレーションの実効性を確保するために、法的・社会的・経営的環境の変化を踏まえて、計画の内容を評価し見直すことは常に必要である。

 メディアトレーニングは、メディアの特性を経営者に理解してもらい、事前に専門家のアドバイスを受けて、いざというときにあわてないようにするために実施する。

 危機発生時には、インタビューを受ける経営者の印象が組織全体の印象に決定的な影響を与えるので、定期的に何度も練習して組織の意思が社会にきちんと伝えられ、仮に意図的な質問があっても挑発に乗らず、冷静に回答できるようにしておく必要がある。

 その他に、メディアの論調分析、過去事例の収集、メディアとの良好な関係の形成、イシューマネジメント等も危機の予防上重要である。

 今回は、危機発生時の対応について、経験を踏まえて考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉞:組織の危機管理⑥】

 危機発生時の対応が、組織の存続可能性を決定する。

 この現実を踏まえ、ここではあらかじめ一定の危機対策計画を持った組織を想定し、危機が発生した場合の対応について、危機対策本部の立ち上げからメディア対応を含む危機対策本部の各機能の留意点について考察する。

 

1. 初期対応

 現場から緊急事態発生の第一報が本社危機担当部門に入った場合、危機担当部署はただちに担当役員、関連部門とともに、以下の対応が必要になる。

  1. ⑴ 危機の内容、被害状況、現状での影響、悪化した場合の予測、メディア取材の有無等を確認する。
  2. ⑵ 事故か事件か、社会問題に発展するか等を判断する。
  3. ⑶ 緊急事態の発生現場と本社に危機対応組織を設置して情報連絡体制を確立する。
  4. ⑷ 関係部署にさらなる情報の収集や定時連絡体制等当面の対応について指示する。
  5. ⑸ 情報は、危機対応組織の事務局長(危機担当部門長)を通して危機対応組織責任者(社長や担当役員等)に集約し、メディア対応を広報部門に集約する。
    なお、現場でのメディア対応が必要な場合には、本社の広報部門が現場に行って対応する。
  6. ⑹ 第一報を受けて危機対応組織メンバー(社長、担当役員、本社主管部門長、総務部門長、品質保証部門長、コンプライアンス部門長、法務部門長、広報部門長等)により、ダメージを最小にして収束させるための全社的な危機対策本部を設置する。

 なお、第一報が入って危機対策本部を立ち上げるには、「○○件以上のクレームが入った場合」や「健康被害が出た場合」等、一定のルールが必要であり、平時から自組織の危機の性格に応じて設定しておく必要があることは、既述した通りである。

 危機対策本部の設置場所は、通常業務とは独立した会議室等に専用のFAX、電話、ホワイトボード、シュレッダー、TV、パソコン、コピー等必要な機材を備えた場所が良い。

 危機対応組織メンバーのほかに、実際の作業を行う事務局担当者を、関連各部門から選出しておくとともに、必要により、本社から現地に危機対策応援メンバーを派遣する。

 また、ケースにもよるが、危機対策組織には早期から法律家やコンサルタント等の専門家に参加してもらいアドバイスを得る。

 筆者の経験では、初めて危機に遭遇する組織の場合、初期段階から専門家の参画を得る決断ができず、事態が悪化して自力では対応困難になってから助言を求めることになりやすいが、むしろ専門家の助言は、事態を悪化させないために危機発生の初期段階から得る必要がある。

 なお、個別具体的な問題への対応は、現場責任者に権限を大幅に委譲し、本部は対応方針と戦略を示し情報連絡体制を維持する方が、現場を熟知している現場責任者の自由度が増して、現実的で機動的な対応が可能になる。

 

2. 初期対応方針の決定とポジションペーパーの作成

 危機対策本部が取り組むべき最初の重要事項は、すべての情報を分析して公開情報・非公開情報、確認情報・未確認情報等に分類し、経営トップが参加して初期対応方針を決めることと、公開情報をポジションペーパーとして作成することである。

 その際、未確認情報は再調査を指示する。

 基本方針の策定に当たっては、経済的利益優先の組織の価値観ではなく、社会的モラルを基準に判断する必要がある。

 また、組織は状況認識において事態の深刻さを直視できず、自組織に都合の良い見方をしやすいので、最悪の事態を想定した対応を決めておく方が事態の悪化にあわてない。

 さらに、うそや隠し事は露見しやすいので事実を隠さない姿勢が重要である。

 ポジションペーパーは、組織として外部に対応するベースになるもので、危機や被害の状況、経過、原因、今後の影響見通し、対策等できる範囲で公表する。

 後で判明する可能性の高い情報は、自ら公表しメディアの追及を受けないようにする。

 ポジションペーパーはメディア、流通、行政、消費者、株主、金融機関、従業員、関係会社、業界等に対応する統一見解なので、関係部門に周知徹底されなければならない。

 また、情報連絡には、報告日・時、情報発信者、情報内容、連絡先、情報の出所、確認・未確認の有無等を記入した情報連絡用のシートを作成し活用すると、連絡時のトラブルを回避できる。

つづく

 

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