経産省、公取委、総務省、デジタル・プラットフォーマーに関するルール整備のオプションを公表
岩田合同法律事務所
弁護士 唐 澤 新
2019年5月21日、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」(以下「本検討会」という。)が取りまとめた、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備に関するオプションを公表した。本稿ではそのうち「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」について解説する[1]。
デジタル・プラットフォームにおいては、商品・サービスを提供する事業者と消費者というようにプラットフォームを介して異なる複数の利用者層が存在する両面市場が構成される。プラットフォームを利用する消費者数が増加するほど、商品・サービスを提供する事業者にとっての便益が高まるというように間接ネットワーク効果が働き、市場の規模が大きいほど利用者にとっての便益が高まるが、その反面、大手のデジタル・プラットフォーマーへの集中が生じやすく、また、データを提供する利用者が一度特定のデジタル・プラットフォームに慣れ親しんでしまうと、それ以外のデジタル・プラットフォームを選択しにくくなる(ロックイン)といった特徴もある。有力なデジタル・プラットフォーマーが自らの力を濫用して利用者に対して不当な不利益を課したり、競争者を不当に排除したりすれば、公正な競争が歪められる可能性が高い。
「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」1頁より抜粋
本検討会は、かかる問題に対して(1)独占的な事業者に対する規制、(2)一般的な「業」規制、(3)一般法である独占禁止法とその補完規律による規制の三つのアプローチの検討を行った。このうち(1)のアプローチは、デジタル・プラットフォーム又はその下にあるデータを「不可欠施設」(エッセンシャル・ファシリティ)とみて、電力、通信、鉄道事業のように厳しい業規制と参入障壁を設けようとするものである。しかし、デジタル・プラットフォームの発展の経緯に鑑みれば、むしろ競争によるイノベーションを促した方がよく、かかる厳格な規制は適切でないとされた。また、(2)のアプローチは、一定の類型の「業」を特定して(1)よりも緩やかな規制を設けるというものであるが、技術革新によって日々新たなビジネスモデルが生まれるデジタル・プラットフォームについて、規制対象とすべき「業」の範囲を継続的に適切に特定することには一定の限界があり、他方で、デジタル・プラットフォーム一般を対象とする包括的な業規制を設けるとすれば、事業者や消費者の便益を損ねる可能性もあることから、かかるアプローチについては今後の十分な議論を待つべきものとされた。
こうして、本検討会は、(3)のアプローチ、すなわち、(i)独占禁止法を迅速かつ適切に運用するための方策と、(ii)同法を補完してデジタル市場の透明性・公正性を促進する規律を検討すべきとした。まず、(i)独占禁止法の運用との関係では、優越的地位の濫用を含む不公正な取引方法や私的独占に対するサンクション(排除措置命令や課徴金納付命令)の適用の余地を認めながらも、かかる事後規制では、デジタル・プラットフォームに依存する利用者(特に中小企業やベンチャー企業)が報復をおそれ審査に協力しない、あるいは、事件の審査、処分までに相当程度の時間を要し被害が大きなものとなりかねないとの課題が指摘されている。そのため、迅速な救済を可能とするような独占禁止法の運用や制度整備、具体的には、①ガイドラインの制定、②特殊指定の告示、③確約手続の積極活用[2]、④事業者団体の組成、⑤継続的な市場の実態調査の実施の検討を行うべきとした。
また、(ii)独占禁止法を補完する規律についても、イノベーションに対する過剰な抑止とならないよう包括的で介入的な事前規制ではなく、①独占禁止法違反の未然防止のための規律、②利用者(特に中小企業・ベンチャー企業等)の合理的選択を促すための規律、③利用者(特に中小企業・ベンチャー企業等)のスイッチング・コストを下げるための規律を中心に設計すべきとし、かかる検討にあたっては、まずはBtoCのオンライン・ショッピング・モール及びアプリ・ストアを議論の起点とすることも一案であるとした。
今後は、政府において、このたび公表された各オプションを参考に、具体的措置の実施へ向けたより詳細な検討が行われることから、引き続き動向には注視する必要がある。
以 上
[1] 他に「データの移転・開放等の在り方に関するオプション」も公表されている。利用者がデジタル・プラットフォームにロックインされることにより生じる弊害を解消するためには、デジタル・プラットフォームに集積した利用者に関するデータを、利用者が自ら再利用したり、他のオンラインサービス提供者等に利用させたりできるようにすることが重要であり、かかるデータの移転・開放のルールの内容、対象及び導入のアプローチに関するオプションがまとめられたものであるが、紙幅の制約上、紹介のみにとどめたい。
[2] 確約手続とは、独占禁止法違反の疑いについて、公正取引委員会と事業者との間の合意により解決する仕組みであり、事業者が講じた是正措置について、内容が十分であり、確実に実施される見込みがあると公正取引委員会が認定する場合には、排除措置命令、課徴金納付命令がなされないこととなる。問題の迅速な解決に資するものではあるが、違反行為が認定されないことから、先例としてのルール形成が十分になされないおそれがあるとの指摘がある。