◇SH2614◇公取委、平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況を公表(2019/06/19)

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公取委、平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況を公表

 

 公正取引委員会は6月5日、平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況を公表した。

 公取委では、迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下、国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。

 特に平成30年度においては、デジタルプラットフォーマー等のIT・デジタル関連分野の事業者による単独行為事案について積極的な審査を行い、審査の過程において事業者から改善措置の申出等がなされ、独占禁止法違反の疑いを解消するものと認められたことから審査を終了した事案について、法運用の透明性や事業者の予見可能性を高める観点から事案の概要を公表するなど、社会的ニーズに的確に対応した事件に取り組んだところである。

 平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況の概要は、以下のとおりである。なお、同年度における下請法の運用状況等については、後掲の別稿を参照されたい。

 

第1 審査事件の概況

1 法的措置等の状況

⑴ 排除措置命令等の状況

 独占禁止法違反行為について、のべ46名の事業者等に対して、8件の排除措置命令を行った。排除措置命令8件の内訳は、価格カルテル1件、入札談合3件、受注調整3件、不公正な取引方法1件となっている。価格カルテル・入札談合・受注調整7件の市場規模は、総額49億円超である。

⑵ 警告等の状況

  1. ① 違反の疑いのある行為が認められた3件について、関係事業者に対し、事前説明を行った上で警告・公表を行った(優越的地位の濫用:2件、拘束条件付取引:1件)。
  2. ② デジタルプラットフォーマーに関する事案等の事業者から改善措置の申出等を受けた3件について、法運用の透明性や事業者の予見可能性を高める観点から、事案の概要を公表した(排他条件付取引:2件、拘束条件付取引:1件)。

⑶ 課徴金納付命令の状況

 のべ18名の事業者に対して、総額2億6,111万円の課徴金納付命令を行った。一事業者当たりの課徴金額の平均は1,450万円であった。

 

2 申告の状況

 独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について、公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は、3,620件であった。申告者に対しては、3,887件の措置結果等の通知を行った。

 

3 課徴金減免制度

 課徴金減免制度に基づき、事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は、72件であった(平成18年1月の制度導入時から平成30年度末までの累計は1,237件)。

 また、価格カルテル・入札談合・受注調整事件7件におけるのべ21名の課徴金減免制度の適用事業者について、これらの事業者の名称、減免の状況等を公表した。

 

第2 行為類型別の事件概要

1 価格カルテル・入札談合・受注調整

⑴ 価格カルテル

 近畿地区に店舗を設置する百貨店業者による価格カルテル事件について、1件の法的措置を採った。

⑵ 入札談合・受注調整

  1. ① 入札談合
  2.   宮城県大崎市等が発注する建設関連業務の入札等における談合事件について、3件の法的措置を採った。
  3. ② 受注調整
  4.   民間の事業者が発注する物品等の調達における受注調整事件について、3件の法的措置を採った。

 

2 不公正な取引方法

 競争者に対する取引妨害

 農林水産省が東北農政局において発注した土木一式工事に係る取引における取引妨害について、1件の法的措置を採った。

⑵ 排他条件付取引

 みんなのペットオンライン株式会社が、ブリーダーとの取引において、その事業活動を制限している疑いについて審査を行った。また、エアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シー及びAirbnb Japan株式会社が、取引先事業者との間の契約において、その事業活動を制限している疑いについて、ITタスクフォースにより審査を行った。

 どちらの案件についても、審査の過程において、事業者から違反被疑行為に係る改善措置の申出等がなされたところ、上記の疑いを解消するものと認められたことから審査を終了し、事案の概要を公表した。

⑶ 拘束条件付取引

 タクシー事業協同組合による拘束条件付取引事件について、独占禁止法に違反するおそれがある行為が認められたことから、警告を行った。

 また、Apple Japan合同会社が、MNO(Mobile Network Operator=電気通信役務としての移動体通信サービスを提供する電気通信事業者であって、当該移動体通信サービスに係る無線局を自ら開設又は運用しているもの)3社との契約に基づき、MNO3社の事業活動を制限している疑いについて、ITタスクフォースにより審査を行った。

 本件については、審査の過程において、Apple Japan合同会社の最終親会社であるアップル・インコーポレイテッドから、契約の一部を改定するとの申出がなされたところ、上記の疑いが解消されるものと認められたこと等から、審査を終了し、事案の概要を公表した。

 

3 中小事業者等に不当に不利益をもたらす不公正な取引方法

⑴ 優越的地位の濫用

 岩手県内で生産される商品の卸売、小売等を営む事業者による納入業者に対する優越的地位の濫用事件について、優越的地位濫用事件タスクフォースにより審査を行い、独占禁止法に違反するおそれがある行為が認められたことから、警告を行った。

 このほか、同タスクフォースにより調査を行い、優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして56件の注意を行った。これを取引形態別にみると、小売業者(ドラッグストア、ホームセンター等)に対する納入取引が37件ともっとも多く、次いで物流取引が12件、宿泊業者に対する納入等取引が3件、卸売業者に対する納入取引が2件、その他の取引が2件となっている。

 また、都市ガスの製造販売、ガス機器の販売等を営む事業者によるサービスショップに対する優越的地位の濫用事件について、独占禁止法に違反するおそれがある行為が認められたことから、警告を行った。

⑵ 不当廉売

 酒類、石油製品、家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理を行い、不当廉売につながるおそれがあるとして227件の注意を行った。

 また、石油製品小売業者に対してレギュラーガソリンをその供給に要する費用を著しく下回る対価で供給していた石油製品卸売業者に対し、不当廉売につながるおそれがあるとして3件の注意を行った。

 

第3 IT・デジタル関連分野における取組状況等

 公取委は、ITタスクフォース、農業分野タスクフォース、公益事業タスクフォース等を設置し、これらの分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合に、専門的な検討・分析、効率的な調査を実施することとしている。平成30年度は、ITタスクフォース等において処理したIT・デジタル関連分野の3つの事案の処理結果を公表した(上記のペット取引の仲介サイト、iPhone、民泊サービス仲介サイトの事案)。

 また、公取委は、IT・デジタル関連分野、農業分野、電力・ガス分野における、独占禁止法違反被疑行為に係る情報を広く受け付けるため、平成28年3月以降、順次専用の情報提供窓口を設置しており、平成30年度における情報受付件数は、IT・デジタル関連分野が117件、農業分野が20件、電力・ガス分野が24件となっている。

 

第4 独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟

 平成30年度当初において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は7件であったところ、同年度中に新たに3件が東京地方裁判所に提起された(このうち1件については併せて執行停止の申立てがなされた)ため、同年度に係属した排除措置命令等取消請求訴訟は10件となった。

 これら平成30年度の係属事件10件のうち、同年度中に原告の請求を棄却する判決が4件(うち1件は同年度中に原告が控訴、残り3件は同年度末時点で上訴期間中であったが、その後、いずれも原告が控訴している)、原告の請求を一部認容する判決が1件(同年度末時点で上訴期間中であったが、その後、控訴期間の経過をもって確定し終了)あった。

 これらの結果、平成30年度末時点において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は10件である。

 

第5 審判及び審決等の概要

 平成30年度中に係属していた審判事件数は178件(うち89件は課徴金納付命令に係るもの)で、平成30年度においては15件の審決を行った。内訳は、排除措置命令に係る審判請求棄却審決6件、排除措置命令を変更する旨の審決1件及び排除措置命令を取り消す旨の審決1件並びに課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決6件及び課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決1件である。

 この結果、平成31年3月末時点では163件の審判事件が係属中である。

 

 

  1. 公取委、平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況について(6月5日)
    https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/jun/190605.html
  2. ○ 平成30年度における独占禁止法違反事件の処理状況について
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/190605honbun.pdf
  3. ○ 別添1
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/190605betten1.pdf
  4. ○ 別添2
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/190605betten2.pdf
  5. ○ 概要
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/190605gaiyou.pdf
  6. ○ ポイント
    https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/190605point.pdf
  7.  
  8. 参考
    SH2599 公取委、「平成30年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等」を公表(2019/06/12)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=9152878
  9.   SH1885 公取委、平成29年度における独占禁止法違反事件の処理状況を公表(2018/06/05)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=6330112

 

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