◇SH3169◇ベトナム:新競争法の施行細則~ようやく成立(2) 中川幹久(2020/05/28)

未分類

ベトナム:新競争法の施行細則~ようやく成立(2)

 

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

競争制限的協定

 新競争法では、競争制限的協定として11の類型から成る協定を規制対象としており、かかる類型の1つには、キャッチオール的な規定として「著しく競争を制限する効果」をもたらすこととなる契約が含まれる。また、こうした協定は、絶対的に禁止される3類型(入札談合、新規参入障害の協定、競争者排除の協定)、同じ関連市場の企業間では常に禁止される3類型(価格カルテル、供給先・供給元の制限、生産・販売数量の制限)を除き、基本的に「著しく競争を制限する効果」がある場合に禁止されている。政令35号では、この「著しく競争を制限する効果」の有無について、以下の要素の一つ又は複数に基づいて判断することが定められている。

  1. ・ 協定に参加した企業の市場支配率が、参加していない競合企業の市場支配率との比較においてどのように変化するか
  2. ・ 当該協定の存在が、企業の市場参入の判断に影響し、市場参入障壁となるか
  3. ・ 当該取引分野における技術の研究、開発、刷新、アップグレードに対する制限となるか
  4. ・ 当該協定に伴いインフラ利用が制限される場合は、利用を制限されたインフラが事業活動に必要な程度、協定に参加していない競合企業が同等のインフラを利用するために負担しなければならないコストと時間の程度
  5. ・ 協定参加企業から商品・役務を購入するために必要なコストと時間、又は、競合企業の商品・役務の購入に切り替えるために必要なコストと時間を、それぞれ当該協定の締結前後で比較し、コスト・時間が増加しているか
  6. ・ 関連する市場において協定参加企業に関係する固有の事情が存在する場合、かかる事情が競争活動に与える重要性の程度

 また、政令35号には、セーフハーバーが設けられ、以下のいずれかに該当する場合には「著しく競争を制限する効果」はないものとみなす旨が定められている。

  1. ・ 水平型(同じ関連市場の企業間)の協定:かかる企業の関連市場における市場占有率の合計が5%未満
  2. ・ 垂直型(垂直関係にある企業間)の協定:それぞれの企業の関連市場における市場占有率が15%未満

 

まとめ

 ベトナムで初めての競争法(旧競争法)が施行されてから約15年が経つが、政令35号では、日本や欧米の競争法でも見られるアプローチも取り入れられ、新競争法の施行にあたって必要となる一定の解釈指針は示されたように思われる。他方で、ベトナムにおける競争当局として新競争法で規定された国家競争委員会については、その組織や運営の詳細について定めた施行細則は、近日中に成立するとの噂は聞かれるものの、本稿執筆時点ではいまだ成立していない。公正な判断・運用を行う規制当局が組成・整備された上で、十分な適用事例が集積され、また、適時かつ十分な情報開示がなされて規制適用の予測可能性が高められることが、公正かつ自由な競争の促進を図る上で重要であるように思われる。国家競争委員会について定めた施行細則の成立を含め、今後の法整備・運用のさらなる向上に向けた各種取組みに期待したい。

タイトルとURLをコピーしました