企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
2.生産・調達
(2) 部品・材料等の調達
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① 部品・原材料・薬品・消耗品等の現物管理を行う。
物品授受(受入検査等)、入庫、棚卸し、製造ラインへの払出しの方法・手順を定める。
〔特別な保管方法を用いる例〕・・・作業基準を決めて守る。 -
・ 一定の環境が必要な物品の保管
(管理項目の例)温度(高温、超低温、冷蔵、冷凍、恒温)、湿度(自然、恒湿)、ガス雰囲気の種類(不活性ガス等)、音、光、クリーン度、細菌(減菌、無菌)等 - ・ 危険物(劇毒物、爆発・発火・引火物、有害化学物質、放射性物質等)の貯蔵庫保管
- ・ 貴金属(金、銀、白金、パラジウム等)の厳重保管
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・ 薬品、薬品原料、生体試料等の取扱い(取り扱い者限定)及び保管方法
- ② 部品・原材料等の調達計画を作成し、発注・受入・保管する。
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・ 調達計画を策定して、発注する。
サプライチェーン全体の状況を正確に把握して、実行可能な生産計画を作成する。 -
〔取引基本契約の「不可抗力」条項〕
取引基本契約には、契約当事者の契約履行義務を減免し、又は、相当期間の猶予(納期等)を与えることを定める「不可抗力」の条項が設けられている。
2011年の東日本大震災後、次のように「不可抗力」を細かく例示する契約が増えている。 -
不可抗力の事例
戦争、内乱、政府・立法府の行為(輸出入禁止、港湾空港閉鎖、船舶・航空機の接収・拿捕、法令の制定・改正等)、電気・ガス・水道・通信回線の不通または供給不足、輸送機関の事故、労働争議(ストライキ等)、従業員の安全を確保するための事業所閉鎖・休業、原材料の供給停止、火災、天災地変(地震、台風、洪水、竜巻、津波、地盤沈下・液状化、火山噴火等)、放射能汚染、鳥インフルエンザ等の疫病または法定伝染病、以上に起因するサプライチェーンの切断 - これによって、契約当事者がそれぞれ自らの責任でリスク・マネジメントを行うべき範囲が明確になり、サプライチェーンが一段と強固になることが想定される。
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・ 発注、納品、受入、受入検査結果(合格、不合格、特別採用)、支払(経理が実施)等を記録する。
(注) 受入検査には、ソフトウェア・テストを含む。 -
・ 仕入、使用、保管、廃棄を記録する。
期中・期末の適当な時期に「棚卸し」を行って実数を確認する。
(注) 特別な条件で保管すべき物は、その条件が詳細に分かるように記録する。
温度、湿度、無菌、クリーン、危険物、貴金属等の高価物品、高価切削屑(ダライ粉等)等 -
・ 供給力、コスト力、技術力を持つ企業(下請を含む)を選定して、取引する。また、これに該当する企業を育てることも重要である。
(注) 日本では、下請法の遵守が重要事項であることに注意する。
(3) 製造 生産計画から完成・出庫まで
- ① 生産計画を作成し、その通りに生産する。
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・ 自社の生産計画に影響を与える正しい情報を入手して分析し、対策(増産、減産、機種変更等)する。
販売の見通しを立てる: 市場動向、新規の受注動向、納期変更要請、キャンセル等
計画の変更: 生産(外注を含む)計画、販売計画、在庫計画、人員計画(作業人数を工程別に設定、出勤率を考慮、交代制の実施、臨時雇用の可否等)
工程別生産能力のバランスを調整: 工程能力(機械稼働を含む)、部品・材料の調達、品質トラブル実態等 -
・ 生産活動を行う。
組立、加工、エージング、ソフトウェア作成、検査、保管、工場内搬送 等 -
・ 生産の状況を記録する。
部品・材料等の調達、生産、工程検査・出荷検査、手直し良品、不良廃棄(歩留り)、工程在庫、完成品在庫等
(注) 検査工程では検査方法、検査機の状況、不良品発生状況、工程環境(温度、湿度、クリーン度等)等を記録する。 -
・ 作業の状況を記録する。
人事関係: 作業員配置、勤怠、作業内容、作業時間、交代制の引き継ぎ、監視カメラ等
機械関係: 機械毎に、正常稼働・チョコ停・故障停止・不良品発生等の状況、製品切り替え(異品番生産)への対応状況、製造環境(温度、湿度、ガス雰囲気、クリーン度等)等
- ② 作業者を確保し、安全管理・作業管理を行う。
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・ 業務管理の体制を明確にして、関係者に管理体制及び管理事項を周知する。
〔作業員の作業管理に関する事項〕
必要な作業員を必要な作業場・製造ラインに配置、作業員の勤務管理(出社・退社、出勤、欠勤、年休等)
作業場への立入許可、服装(作業服、安全靴、無塵服、エアシャワー等)、手洗い、手袋・マスク等装着
(注) 立入規制の目的=人の安全確保、無塵・無菌の作業環境確保、情報セキュリティー管理(技術ノウハウ流出防止)、故意の異物混入(=犯罪)防止等 -
・ 製造作業場の安全管理には、特に注意する。
安全衛生管理の体制・ルールを作る。
危険源を見付けて取り除く。 -
・ 作業員が作業に適する健康状態であることを、必要な時期(定期、運転・操縦の直前等)に、確認する。
疲労・睡眠・休養、病気、伝染病、飲酒、識別能力(視力・聴力を含む)等
- ③ 製造工程の原因で発生する品質トラブルに対処できる体制を整える。
- ・ 完成品・仕掛品・材料に「製造番号」「ロット番号」を付してトレーサビリティを確保し、企業内の品質管理や販売後の市場クレーム対応時に使用する。
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・ 作業時の誤使用を防止する。(例:生体と検体・検査データ・投与医薬等を完全に一致させるID管理の実施)
- ④営業の出庫指示に従う。
- ・ 品番、数量、1ロットの大きさ、納期、包装方法、搬送方法等を決めて、出庫する。
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・ 各メーカーが、自社の商品の搬送方法を定めている。(他社と業務提携して共同運送を行う例もある。)
- ⑤ 完成品倉庫の状況を記録する。
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・ 入庫、保管、出庫の実績を記録する。
期中・期末の適当な時期に「棚卸し」を行って実数を確認する。 - ・ 保管の状態を記録する(温度、湿度、施錠の状態等)
- ・ 倉庫内で流通加工(ラベル張り・値札張り・少量袋詰め等)を行う場合は、その作業実績を記録する。