大和ハウス工業、中国所在関連会社における不正出金で第三者委員会報告書を公表
――日中「50:50合弁」に不正の主因、多角的・具体的な再発防止策を提言――
大和ハウス工業(本社:大阪府大阪市、東証第一部上場)は6月18日、中華人民共和国所在の持分法適用関連会社における不正行為に関し、第三者委員会より報告書を受領したと発表した。
本件関連会社「大連大和中盛房地産有限公司」(以下「関連会社」または「大連JV」という)を巡っては3月13日、「預金残高と帳簿に差異があることが発覚し調査したところ、合弁先(大連中盛集団有限公司)から派遣されている取締役ならびに出納担当者(計3名)による不正の疑い」が判明したと発表。顧客・株主・関係者へのお詫びを表明するとともに、不正に会社資金が引き出されていたこと(判明している預金残高と帳簿の差額は14.15億元:3月12日時点で1元=16.6円により換算すると約234億円)、関連会社の取締役2名および出納担当者1名が関与していた疑いがあること、関連会社において3月12日、不正行為を行ったと思われる当該3名に対して現地捜査当局に業務上横領等の疑いで刑事告訴の手続に入ったことを明らかにした。
またこの時点で、当該関連会社・大連JVが海外現地企業(大連中盛集団有限公司。以下「中盛集団」という)との合弁による関連会社であったことから業務執行については合弁先(中盛集団)からの派遣者に依存していたとし、今後は関連会社の内部統制システムについても見直しを行っていく方針に言及。再発防止に向け、第三者委員会を設置して調査を実施することとともに、国内外を問わずグループ全体でリスクマネジメントの強化を図るとした。
3月29日には同日開催の取締役会で第三者委員会の設置を決議したと発表。原則として日本弁護士連合会による「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠したとする第三者委員会は社外の専門家のみ、弁護士2名・公認会計士1名で構成されるものとなった。
委員会への委嘱事項については「① 本件不正行為に係る事実関係の調査」「② 本件不正行為に類似する事象の有無の調査」「③ ①及び②に係る発生原因の分析及び再発防止策の提言」「④ その他、第三者委員会が必要と認めた事項」の4点。6月18日に公表された同日付「第三者委員会報告書(開示版)」によると、委員会が本件不正出金の調査を開始した当初の段階において「大連JV所有の販売用住宅等が、中盛集団の子会社(中略)の債務の支払のための代物弁済に用いられて」いたことなどを認識、委員会としては本件不正出金に加えて、このような不正な代物弁済行為(以下「本件不正抵債房取引」という)をも調査対象としたという。また、中国の法制度および不動産取引実務に関する十分な理解が必要となることから、委員会として同国の大手法律事務所所属の中国弁護士らに意見を求め、調査の参考としたとされている。
調査期間は3月29日〜6月13日。関係資料の精査、関係者計38名に対するヒアリング、デジタル・フォレンジック調査を実施するとともに、計11回の委員会を開いて調査方針・事実認定等について議論・検討を行った。ただし、不正への関与が疑われる大連JVの元総経理x氏・財務部長z氏・出納担当者y氏については本件不正出金の疑いが発覚して以降所在不明であったためにヒアリングできず、また、デジタル・フォレンジック調査においては中国で広く利用されているメッセンジャーアプリ「WeChat」のデータなども保全された。
本件不正出金については調査の結果、大連JVの預金の帳簿に記載されていない銀行預金の引出しおよび入金が行われており、その結果として帳簿上に記帳されていた預金が実際の預金口座には存在していないことが明らかになったという。不正入出金の累計額は14億1,295万人民元にのぼり、送金先の多くは銀行取引明細書上、中盛集団の子会社(中盛建築)とされていた。委員会によれば「実行者は、中盛集団グループ及び大連JVのそれぞれの資金の都合に応じて帳簿外の入出金(不正入出金)を繰り返していたと思われる」「中盛建築は、2014年以降、ほぼ毎年のように大連JVからの不正送金により相当額の資金を得て、資金繰りを行っていたと推測される」などと、その目的を推認。手口の解明についても試みるとともに「不正出金の実行者とその動機の分析」にまで踏み込み、仔細な認定を行った。
報告書は本件不正抵債房取引についても、x氏が大連JVに無断でその不動産を中盛集団グループのために流用していたことなどを認定。そのうえで「実行者がなぜ本件不正を実施でき、その不正が長期間発覚しなかったのかについて」の検討では、まず大連JVの運営上の問題点として「大連JVのような、最高権力機関(董事会)における議決権比率が日中当事者の間で半々の合弁企業」(以下「50:50合弁」という)においては信頼関係の構築と合意の形成が重視されやすいという特有の傾向に触れ「合弁企業の自浄作用を促すべき内部統制を構築・運用することが期待できないのであれば、そもそも50:50合弁ではなく、DH(編注・大和ハウス工業)が支配権を掌握して合弁企業をコントロールすることが妥当であるともいえる」と指摘。大和ハウス工業が50:50合弁体制を維持し、同社によるコントロールが不十分であった点に本件不正を容易にした主な要因があったとした。
その他の要因としては、同社において「大連JVにおける事業運営と総経理等による業務執行が適切に行われることを確保するための執行・管理体制や内部統制システムに問題があった可能性」を指摘しつつ、再発防止策として(1)合弁会社の設立・管理、(2)合弁会社の平時の運営、(3)現地の制度、法律、商習慣についての理解の向上、(4)現地法人・合弁会社の運営を支援する本社体制の構築、(5)DHにおける、有事に対応できる体制づくり、(6)ガバナンス・内部統制機能の拡充、(7)不正リスクに対する役職員の理解の向上を目的とする研修ーーといった多角的な7つの観点から各項目に係る具体策を提案。たとえば(1)については、①合弁会社管理の基本方針の策定、合弁契約及び定款への落し込み、②合弁スキームの慎重な検討、③合弁パートナーに対する財務調査・人物調査、④合弁パートナーの問題発生時のバックアッププランの検討の4点を掲げ、それぞれの対応の必要性・留意点を説明した。
大和ハウス工業では、本報告書を受けた同社の再発防止策等について「今秋、改めて公表させていただく予定です」とコメントしている。