◇SH2413◇中国:外商投資法の成立と草案からの変更点(上) 鹿はせる(2019/03/19)

未分類

中国:外商投資法の成立と草案からの変更点(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿 は せ る

 

 中国で、従来の外資三法(「中外合弁企業法」、「中外合作経営企業法」及び「外資企業法」)に代わり、外商投資を統一的に管理する「外商投資法」が、ついに2019年3月15日全人代で正式に可決され、2020年1月1日から施行されることとなった。同法については、去年末に一次草案、今年1月末に二次草案がそれぞれ作成されているが(一次草案については、当事務所の川合弁護士の寄稿[1]、一次草案から二次草案の変更点については筆者の寄稿[2]をそれぞれ参照されたい)、今般成立した法案(以下、「成立法案」という。)は、二次草案から更にいくつかの変更が加えられている。以下、二次草案からの変更点及び今般新たに判明した一次草案からの変更点[3]のうち、主なものを概観する。

 

1. 外商投資優遇措置の制定権者の限定

 一次草案第14条は、「国家は国民経済及び対外開放の需要により、優遇措置を採用し、外国投資者の特定業務、領域、地区への投資を奨励及び誘導する」と規定していたが,二次草案及び成立法案ではその後に「外商投資者、外国投資企業は法律、行政法規及び国務院の規定により優遇措置を受けることができる」の一文が追加された。

 中国では、法律は全人代及び全人代常務委員会が制定する法規範に限定され、国務院が憲法及び法律に基づき制定する法規範は行政法規とされる。その他には、地方政府が制定する地方政府規則及び国務院の各部、委員会及び行政管理機能を有する直属機構が所管事項について制定する部門規則がある。上記追加された文の意義は、外国投資者に優遇措置を与える場合には、法律、行政法規又は国務院の規定による必要があると明記したことであり、地方政府及び国務院の各部が地方規則又は部門規則に基づき優遇措置を独自に創設することはできないことが明確にされた。

 

2. 商品に加え、「役務」の平等取り扱い

 二次草案第16条は、「国家は外商投資企業が政府調達活動に公平に参入することを保障する。政府調達においては法に従い外商投資企業が中国国内で製造する商品を平等に取り扱う」と規定していたが、成立法案では「国家は外商投資企業が政府調達活動に公平に参入することを保障する。政府調達においては法に従い外商投資企業が中国国内で製造する商品及び提供する役務を平等に取り扱う」と変更された。

 従来の「商品」だけでは役務(サービス)が含まれるか明確ではなかったところ、両者を区別する理由はないことから、成立法案では商品役務の平等取扱いが共に定められることとなった。

 

3. 外商投資手続の簡素化

 二次草案第19条は、「各級人民政府及び関連部門は利便性、効率性及び透明性の原則に従い、外商投資サービスの向上を図るものとする」と規定していたが、成立法案では、「各級人民政府及び関連部門は利便性、効率性及び透明性の原則に従い、事務手続の簡素化、事務効率の向上及び行政事務サービスの最適化を行い、外商投資サービスの水準を高めるものとする」と変更された。

 従来、外商投資企業はその設立や変更に際して同一の書類を異なる部門に提出し、その提出の順序や書式も統一されていないなど、手続の繁雑さが問題となっていた。成立法案では、今後手続の簡素化が行われる方向性がより明確に示された。

 

4. 国内外送金範囲の拡大

 一次草案第21条は「外国投資者の中国国内における出資、利潤、資本収益、知的財産権使用料、法に従い取得した補償又は賠償等について法に従い人民元又は外貨にて自由に転出することができる」と規定していたが、二次草案及び成立法案では「外国投資者の中国国内における出資、利潤、資本収益、資産処分所得、知的財産権使用料、法に従い取得した補償又は賠償、清算所得等について法に従い人民元又は外貨にて自由に転入又は転出することができる」と変更され、外商投資企業の清算・撤退に伴う所得について、国内外への送金も法律に従い処理されることが追記された。

 

5. 知的財産権に対する侵害行為の処罰の明記

 二次草案第22条第1項は、「国家は法に従い外国投資者及び外商投資企業の知的財産権を保護し、知的財産権者及び関係権利者の適法な権益を保護し、自由意思の原則及び商業規則に基づいて技術提携の展開を奨励する」、第2項は「外商投資の過程における技術提携の条件は各投資者の合意により確定されるものとし、行政機関及びその職員は行政手段を利用して技術を強制的に譲渡させてはならない」と規定していたが、成立法案では第1項「国家は法に従い外国投資者及び外商投資企業の知的財産権を保護し、知的財産権者及び関係権利者の適法な権益を保護し、知的財産権の侵害行為について、厳格に法に従い法的責任を追及する」と変更され、自由意思に基づく技術提携を奨励する文言は、第2項の文頭に追加されることとなった。

 現在進行中の貿易紛争をめぐる米中協議では、米国側は中国の知的財産権保護が不十分であることを問題としており、本変更は、その改善姿勢を明らかにするものと評価できるように思われる。

 

タイトルとURLをコピーしました