インドネシア:オムニバス法の制定(2)
〜投資及び事業環境の改善(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 村 洸 介
本年11月2日、インドネシアで雇用創出に関する法律(通称「オムニバス法」)が制定、即日施行された。オムニバス法は、インドネシアへの投資促進及び雇用機会の創出等を目的として、既存の78の法律の関連条文をまとめて改廃するもので、対象となる法分野は非常に多岐にわたる。その中には、投資法、労働法、会社法、独占禁止法、所得税法等外国企業のインドネシアへの投資活動に密接に関連する法令が多数含まれている。
そこで本稿では、日系企業にとっても関心が高いと思われる、オムニバス法第3章「投資及び事業環境の改善」に規定されている、①許認可手続きの主要な変更点と②新たな投資規制について概説する。
許認可手続きの主要な変更点
1. 許認可のリスクベース・アプローチ
これまで外国企業がインドネシアで事業を開始するためには、インドネシア法に準拠した株式会社を設立後、オンラインの許認可申請システム(Online Single Submission(OSS))に登録して、①事業識別番号(Nomor Induk Berusaha(NIB))を取得した上で、②事業許可(Izin Usaha)を取得し、③事業内容に応じて必要なコミットメントを履行する(これにより事業許可の効力が発生する)、というプロセスが必要とされてきた。
これに対して、オムニバス法が定めるリスクベース・アプローチと呼ばれる新たな許認可システムでは、当該株式会社が実施する事業がリスクのレベルに応じて①低リスク、②中リスク、③高リスクの3つのカテゴリーに分類され、そのリスクの大きさに応じて事業開始に必要な許認可手続きが定められている。
具体的には、①事業が「低リスク」に分類される場合は、NIBを取得すれば直ちに事業を開始することができる。②「中リスク」の事業については、NIBに加えて、スタンダード証明書(Sertifikat Standar)が必要であり、(i)「中・低リスク」の場合は、事業を行う要件を満たすことを説明する事業者自身のステートメントレター、(ii)「中・高リスク」の場合は、中央政府又は地方政府が要件を満たすことを確認し発行する証明書が必要となる。③事業が「高リスク」に分類される場合にのみ、NIBに加えて、事業許可を取得する必要がある。なお、リスクの程度は、健康、安全、環境等の要素を基準に判断される。
NIB | スタンダード証明書 | 事業許可 | |
① 低(Low)リスク |
○ |
× |
× |
②(i) 中・低(Medium-low)リスク |
○ |
○(事業者自身が作成) |
× |
(ii)中・高(Medium-high)リスク |
○ |
○(政府が発行) |
× |
③ 高(High)リスク |
○ |
△(事業内容による) |
○ |
これに関して、投資調整庁(BKPM)の説明によれば、上記のリスクの大きさに基づく事業の分類は、内資・外資の区別なく、インドネシア標準産業分類(KBLI)に基づく事業分野ごとになされる。したがって、日系企業が「低リスク」の事業に参入することも事業内容次第で可能と考えられるが、具体的にどの事業がどのリスクに分類されるかについては、オムニバス法上明らかでなく、施行規則として3か月以内に制定される政令において定められることになっている。また、スタンダード証明書や事業許可の要件も、オムニバス法には定められていない。
2. 許認可手続きの簡素化
これまで事業許可に係るコミットメントとして取得する必要があった、立地許可(Izin Lokasi)、環境許可(Izin Lingkungan)、建設許可(Izin Mendirikan Bangunan)、建物価値証明書(Sertifikat Laik Fungsi)に関しては、オムニバス法によって許認可の内容が変更されたり、OSSの利用や要件の緩和等を通じて手続きが簡素化される。
3. 既存の企業への影響
オムニバス法の制定までに発行済みの事業許可等は、その期限まで有効である。また、BKPMによれば、既存の企業について、仮にその事業が「高リスク」に分類されても、既に事業許可を取得していれば特に影響は生じないとのことである。
これに対して、申請中の事業許可等については、オムニバス法の許認可手続きに従うと規定されている。ただし、実務上は、関連する施行規則が整備されるまでは従前の許認可手続きの運用が継続される可能性もあるため、各企業は、申請状況を個別に確認する必要があると考えられる。
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(なかむら・こうすけ)
2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。2019年~長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク勤務。
2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、日本企業によるインドネシアへの事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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