ユニゾホールディングスがエイチ・アイ・エス公開買付けに反対、新規の公開買付けに賛同を表明
――敵対的TOBに進展、ユニゾHD側は対抗TOBで非公開化へ――
ユニゾホールディングス(以下「ユニゾHD」という)は8月6日、同社普通株式を対象としてエイチ・アイ・エスが実施している公開買付けに対し、反対の意見を表明することを同日開催の取締役会で決議したと発表した。その後、8月16日にはフォートレス・グループのサッポロ合同会社による公開買付け(同月19日に開始)に賛同意見を表明。株主には新たな公開買付けへの応募を推奨している。
エイチ・アイ・エスが本公開買付けについて公表したのは7月10日。ユニゾHDは同日、関連情報を精査したうえで速やかに同社の見解を公表する予定などと発表した。同月16日には「本公開買付けが当社との事前の協議なく開始されたものであることを踏まえ、本公開買付けに係る当社の意見を表明するにあたり、当社取締役会の意思決定過程における恣意性のおそれを排除し、その公正性及び透明性を確保することを目的とし」て、特別委員会の設置を表明していた(経過および特別委員会の判断対象・構成等について、SH2693 ユニゾホールディングス、エイチ・アイ・エスによる公開買付けで特別委員会を設置――事前協議なく開始されたTOBに対応、社外取締役5名全員が委員に就任 (2019/07/26)既報)。なお、本公開買付けは7月11日〜8月23日の30営業日を届出当初の買付期間とし、買付価格は1株3,100円、買付予定数およびその上限は13,759,700株(買付け等後における株券等所有割合にして45.00%)である。
1. 第1次意見表明(留保)と本意見表明報告書の提出に伴う公開買付者への質問
ユニゾHDではその後7月23日、本公開買付けに対する意見の表明を留保すると発表。「現時点までに当社が入手することができた情報のみでは、本公開買付けの目的、本公開買付け後に公開買付者が企図する当社との資本提携を含む業務提携の具体的な内容及びその結果として見込まれるシナジーの有無、本公開買付けにおける買付け等の価格の根拠その他の本公開買付けの是非及びその諸条件について評価・検討する上で重要であると考えられる多くの事項の詳細が明確ではありません」などとその根拠・理由を説明するもので、併せて、同日開催の取締役会において公開買付者に対する質問を記載した意見表明報告書を提出することにした旨を発表し、「公開買付者の事業内容・実績」「公開買付けの経緯・内容・価格」「公開買付け後の事業シナジー」「公開買付け後の経営方針」について、それぞれの細部を確認する4頁建ての「公開買付者に対する質問」を明らかにした。これを受けてエイチ・アイ・エスは同じく23日、「質問に真摯に回答することで、本公開買付けの実施にご理解頂けるものと考えており、早急に回答すべく準備を進めて」いくと表明した。
エイチ・アイ・エスは7月30日、「ユニゾホールディングス株式会社株式(証券コード:3258)の意見表明報告書による質問に対する回答に関するお知らせ」と題するニュースリリースのなかで18頁建てとなる「公開買付者に対する質問への回答」を公表。本回答をもって本公開買付けの実施にユニゾHDの理解が得られるものと考えているとするとともに、本公開買付けの成立後、速やかにユニゾHD経営陣と協議できるようその申入れを行う予定であると発表した(なお同日、公開買付開始公告などの一部訂正が質問への回答内容に沿うかたちとなるように行われている)。
ユニゾHDにおいても同日、これを受け、提出された対質問回答報告書の内容を精査し、その他の情報と合わせて本公開買付けについて慎重に評価・検討を行い、上記・特別委員会の答申内容をも踏まえたうえで本公開買付けに対する同社の意見を最終的に決定、表明する予定であると発表した。
2. ユニゾHD特別委員会の判断とこれを踏まえた反対の意見表明
このような経緯を経て8月6日、ユニゾHDは本公開買付けに対する反対の意見表明を決議・公表したもので、ここに至り本件は敵対的TOBへと進展したことになる。同日付発表「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」によると、意見表明に当たっては、同社として外部専門家であるフィナンシャル・アドバイザー:2社、法務アドバイザー:2法律事務所、税務アドバイザー:1税理士法人、株式価値算定機関:3社、ホテル・コンサルタント:2社を起用し、助言等を受けたほか、特別委員会として上記・各アドバイザーとは異なる法務アドバイザーおよび株式価値の算定に関するアドバイザーをそれぞれ独自に選任したという。
特別委員会においては、1)7月16日に審議を開始し、2)同月22日には独自のアドバイザーの選任を決議するとともに同社が「本公開買付けに対して留保の意見を表明し、公開買付者に対して質問書の提出をすること」に関して審議を行い、3)8月5日には公開買付者から提出された対質問回答報告書や株式価値算定機関により算定された株式価値算定結果を踏まえたうえで審議を実施。そのうえで8月5日、特別委員会の全員一致の意見として取締役会に対し「本公開買付けは当社の企業価値向上及び株主共同の利益の向上に資するものとはいえず、また、本公開買付けに係る対価は妥当でないことから、本公開買付けには合理性がないと考える」旨の答申を行った。
8月6日開催の取締役会においては、この答申を受け、出席取締役全員の一致により反対の意見表明を行う決議をし、またこの取締役会において、出席監査役全員が反対の意見表明に異議がない旨を述べたとされる。
ユニゾHD側の反対理由としては、次の5点が挙げられた。①本公開買付けにより公開買付者・同社の間で事業上のシナジーを創出することは困難であること、②公開買付者による同社株式の取得により同社の不動産事業のノウハウが一方的に収奪されるなど、本公開買付けは同社の企業価値を毀損するおそれがあること、③同社の財務状況、経営成績、ユニゾグループ第四次中期経営計画等を踏まえると同社株式の株式価値は本公開買付価格を大きく上回っていると考えており、同社の企業価値に照らして不十分であること、④本公開買付けが買付予定数の上限を付した強圧的な手法によるものであること、⑤同社に対して何ら事前の通知・連絡もないまま突然公表され一方的に開始された公開買付けであり、同社が公開買付者との間で信頼関係のない状態にある状況下、両社間で事業上のシナジーを発揮することは極めて困難であると考えていること。
たとえば、より具体的に上記①の理由をみると、「本公開買付けは、旅行事業を中心に営む公開買付者が、不動産事業を中心に営む当社の株式を取得する異業種間の株式取得ですが、本公開買付届出書ではそれぞれの主力事業である旅行事業及び不動産事業における相互のシナジーについては具体的に言及されていません」と説明するとともに、エイチ・アイ・エスおよびユニゾHD両社のセグメント別の収支状況を掲げて「相互の主力事業にシナジーが生じない」と結論付けている。
エイチ・アイ・エスはこの発表と同日となる8月6日、ユニゾHDの賛同が得られなかったことについて遺憾と述べるとともに、引き続き本公開買付けの実施により「対象者にとっては対象者の事業に関する新たな成長機会の創出が、当社にとっては当社のホテル事業及び不動産事業の更なる成長が、それぞれもたらされるものと確信して」いるとする見解を表明した。
一方のユニゾHDでは8月11日、「当社の企業価値の向上と公正な手続を通じた一般株主利益の確保を図る観点から、他の買収者が上記観点に照らしてより良い条件の買収提案を行う可能性について確認しており……今後、複数の候補者から提案を受ける可能性がある」ため、ア)同日開催の取締役会においてこれを報告するとともに、イ)今後、特定の買収者から具体的な提案があり同社が意思決定をする必要がある場合には、7月16日に設置した同社特別委員会に対し、当該買収提案について諮問することを決議したと発表。①今後の具体的な提案の有無、②提案を受けた場合にその内容が十分なものであること、③提案を受けた場合に買収が実現することの成否――の「いずれについても保証できるものではありません」と留保しつつ、提案を受けた場合には同社として今般の特別委員会に対する諮問を行い、その答申内容を踏まえたうえで意思決定する予定であるなどとしており、他の買収候補者との間で以後考えられる見通しを一報した恰好となった。
3. 新規の公開買付けの公表とユニゾHDによる賛同の意見表明
(1) 世界最大規模の不動産投資ファンドらによる買収提案
8月16日、ユニゾHDが本公開買付けに対する対抗策としてソフトバンクグループ傘下の投資ファンドとともに別の公開買付けを実施する方向であると一部報道が伝えた。ユニゾHDは同日10時50分(以下、時刻はTDnetによる適時開示の時刻)、同社発表によるものではないこととともに「候補者と協議しており、本日、特別委員会及び取締役会を開催予定」と発表した。その後、同日16時30分には「サッポロ合同会社によるユニゾホールディングス株式会社株券(証券コード3258)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を公表。
本ニュースリリースおよび一連のものとして公表された同日16時30分付の「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」などによると、サッポロ合同会社がユニゾHD普通株式の全株取得を目的として新たな公開買付けを実施、経営環境の変化に即応し、上場維持費用を削減する観点から、ユニゾHDをサッポロ合同会社の完全子会社としたうえで非公開化・非上場化を図る。サッポロ合同会社が全株取得できなかった場合には、本公開買付け成立後、株式売渡請求または株式併合により、すべての株式取得を目的とした手続を実施する。買付予定数の下限を22,813,500株(所有割合にして66.67%。公開買付け後に所有する議決権数の合計がユニゾHDの総議決権の3分の2以上となる)と設定し、応募株券等の総数がこれに満たない場合には全部の買付けを行わない。届出当初の買付期間は8月19日〜10月1日の30営業日、買付価格は1株4,000円であり、買付けを行う株式の最大数である34,220,295株に対する買付代金は136,881,180,000円となる。
サッポロ合同会社は2018年4月設立。同社には運用資産額4兆円超の国際的投資運用会社 Fortress Investment Group LLC(以下「FIG」という)の関係法人である Sapporo Holdings I LLC が出資し、また、同社は FIG の関係法人であるフォートレス・インベストメント・グループ・ジャパン合同会社との間でアセットマネジメント契約を締結するとともに本公開買付けに要する資金1,375億円をフォートレス・グループが運営するファンドから調達する。ユニゾHD側が今般、本公開買付けに対して賛同の意見表明を行った理由として、a)経営方針の合致、b)非上場化の必要性、c)フォートレス・グループの情報・ネットワーク・ノウハウ等の活用、d)従業員の労働条件維持、インセンティブ付与、e)公開買付価格の妥当性(4,000円は提示された最高値)、f)エイチ・アイ・エスの公開買付けに比べて優位かつ強圧性がなく公平――の6点を挙げているところ、フォートレス・グループは14か国の拠点に約480名の不動産投資プロフェッショナルを擁する世界最大規模の不動産投資ファンドの運営会社であり、上記 c の利点がサッポロ合同会社による完全子会社化によって見込まれる企業価値向上策とされている。
(2) ユニゾHDにおける「他の潜在的な買収者」の検討と経過
ユニゾHDはエイチ・アイ・エスによる公開買付けの公表を受け、ユニゾHDの企業価値の向上、株主に適正価格で売却機会を提供すること、他の潜在的な買収者がこのような観点からよりよい条件の買収提案を行う機会を確保すること(マーケット・チェック)を目的とし、潜在的な買収者の提案を求めるなどしてマーケット・チェックを実施。7月中旬以降、フォートレス・グループを含む候補者16社に対して、エイチ・アイ・エスの公開買付けよりもよい条件で買収提案を行う可能性について確認したという。ユニゾHDでは外部専門家であるフィナンシャル・アドバイザー:2社、法務アドバイザー:3法律事務所、税務アドバイザー:1税理士法人、株式価値算定機関:3社、ホテル・コンサルタント:2社を起用して助言等を受けたほか、特別委員会においても上記アドバイザーとは異なる法務アドバイザーおよび株式価値の算定に関するアドバイザーを起用した。
このような対応を含む今般の公正性担保措置は、ユニゾHDによれば、α)独立した株式価値算定機関からの株式価値算定書の取得、β)独立した特別委員会の設置、γ)独立した法律事務所からの助言、δ)8月16日開催の取締役会における取締役全員の承認および監査役全員の異議がない旨の意見、ε)本公開買付価格の公正性を担保する客観的状況の確保:マーケット・チェックの実施とフォートレス・グループを含む候補者16社への確認、候補者を4社に絞り込んだその後の協議・交渉、エイチ・アイ・エス公開買付価格を900円上回る公開買付価格――となっている。
結果、ユニゾHDの特別委員会において8月15日・16日と検討された答申内容は次のとおりとされた。①本取引の目的は正当であること、②手続は公正であると認められること、③当社の株主に交付される対価は妥当であると認められること、④当社の少数株主にとって不利益ではないと認められることから、⑤本取引は当社の企業価値向上・株主共通の利益に資すると考える。
(3) フォートレス・グループ側からみた展開
フォートレス・グループにおいては、1)7月19日、ユニゾHDが選任したフィナンシャル・アドバイザーを通じて買収提案の可能性について打診を受け、検討を開始。2)同月30日までの間にデューデリジェンスを実施してユニゾHDと協議し、同月30日付で全部の株式を取得することを目的として公開買付けを実施する意向がある旨を記載した意向表明書をユニゾHDに提出。3)株式の全部取得と完全子会社化を内容とする本取引に関する最初の提案を8月10日付で行い、4)その後もユニゾHDとの間において協議・交渉を継続、8月14日には買付価格を1株4,000円とするなどの正式な買収提案に至り、5)最終的な協議の結果、8月16日、1株4,000円により本公開買付けを(同月19日から)開始することを決定している。
フォートレス・グループとしてユニゾHDの企業価値向上に貢献できる「施策を迅速かつ着実に実現するためには、対象者の上場を維持し、上場会社としての独立性を前提とする業務提携や資本提携ではなく、少数株主との利益相反のおそれを排して、対象者を公開買付者の完全子会社とすることが必要不可欠であると判断」し、また「上場を維持することとした場合、対象者株式の今後の市場株価によっては第三者による公開買付けその他の方法による敵対的な買収に向けた動きが発生することもあり得るところであり、こうした事態を未然に防止し、 対象者の安定的な経営を確保すること」なども踏まえ、「非公開化・完全子会社化することが最も適切な対応であると判断」したという。
(4)「覚書」としての合意事項
フォートレス・グループの関係法人である Fortress Japan Investment Holdings LLC(以下「FJIH」という)とユニゾHDとの間には、次のような項目を内容とする8月16日付「覚書」が締結されており(以下、ユニゾHD公表資料より「骨子」を抜粋)、「本公開買付けに係る重要な合意に関する事項」として開示された。
①公開買付者による本公開買付けの実施、②当社による本公開買付けへの賛成及び成立のための協力、③本公開買付けより優位な第三者からの提案、または公開買付け開始時の、当社による本公開買付けへの賛成撤回の権利と、その場合の当社による違約金支払い(1,375億円の1%)、④本公開買付けの資金調達:自己資金1,375億円、⑤当社の完全子会社化、⑥当社業績に重大な悪影響を及ぼす行為を行わない、⑦本公開買付け成立後の当社経営の独立性原則尊重/第四次中期経営計画の原則尊重/当社の合理的な判断および裁量による物件売却(本公開買付け成立から2年間、物件取得については、公開買付者の事前承諾が必要)、⑧全取締役の指名権と取締役による前項⑦の遵守、⑨当社従業員の現在と同等以上の労働条件の維持および一定のインセンティブ報酬付与、⑩公開買付者のエグジット(公開買付者の持分払戻し、第三者への譲渡〔完全子会社化から2年間は当社および当社従業員の同意必要〕、再上場)。
(5) 配当予想の修正、株主優待の取扱いに係る公表
ユニゾHDによる8月16日付発表「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」においても、ⅰ)本公開買付けの成立を条件として、本年4月16日に公表した2020年3月期の配当予想を修正し、2020年3月期の中間配当および期末配当を行わないこと、ⅱ)2020年3月末以降の日を基準日とする株主優待の贈呈を実施しないことが決議された旨、公表されているところであるが、ユニゾHDにおいては同日、改めて「令和2(2020年)3月期(第43期)配当予想の修正及び株主優待の取り扱いに関するお知らせ」を発表し、これらの点に関する注意を促している。
中間配当・期末配当を合わせて前期実績と同等の85円00銭の配当金が予定されていたところ、完全子会社化・上場廃止を伴う本公開買付けの成立を条件として、無配となる。
株主優待に関しては、本年3月末日を基準日として贈呈された株主優待券・プレミア優待券・長期保有プレミア優待券については来年6月30日を有効期限として引き続き利用できるという。