経産省、デジタルガバナンスに関する有識者検討会とりまとめ資料を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する活動は、「デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」という)」と呼ばれる。
経済産業省が平成30年9月にとりまとめ公表した「DXレポート」において、我が国企業のDXに向けた取組、特に将来の成長に向けたIT投資が欧米に比べて遅れている実態がある旨の問題点が指摘されていた。
このような背景のもと、経済産業省は、我が国企業におけるDX推進に向けた制度を設計するため、デジタルガバナンスに関する有識者検討会を設置し、企業のDXに向けた取組における行動原則となる「デジタルガバナンス・コード」を策定するとともに、令和元年9月17日、デジタルガバナンスに関する有識者検討会とりまとめ資料において公表した。デジタルガバナンス・コードは、コーポレートガバナンス・コードのような既存のコード類と同様、主に上場企業において実施が望ましいとされる以下の5つの基本原則からなる。
- ① 原則1 成長に向けたビジョンの構築と共有
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経営者は、ビジネスのデジタル化やデータ活用といった世界的潮流と、「2025 年の崖」の課題に対応するためにDXに取り組むべきである。さらに、DX を通じて企業価値を継続的に向上・創出し、経営環境の変化に迅速に対応して企業として成長していくことを経営ビジョンの中に明確に盛り込み、従業員や顧客、投資家等、社内外に共有するべきである。
- ② 原則2 ビジョンの実現に向けたデジタル戦略の策定
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経営者は、DX によってビジネスモデルや業務プロセスを変革していくために、その変革を実行し、根付かせるためのデジタル戦略を明確にするべきである。デジタル戦略の策定においては、データ活用や新たなデジタル技術獲得の戦略とともに、技術的負債の低減及び獲得した技術の再負債化の回避のための戦略をトータルで検討するべきである。
- ③ 原則3 体制構築と関係者との協業
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経営者は、DX を継続的に推進する企業文化を醸成し、推進のための体制を構築するべきである。また、企業の成長と中長期的な価値の創出は、従業員、取引先等ステイクホルダーの貢献の結果であることを十分に認識し、これらの関係者との適切な協業に努めるべきである。
- ④ 原則4 デジタル経営資源の適正な配分
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経営者は、ビジョン実現のために、既存の業務の仕組みやそれを支えるIT システムやデータにどのような見直しが必要であるかを認識し、デジタル経営資源を適正に配分するべきである。また、DX を推進するにあたって、IT システム刷新の重要性を投資家等の市場関係者に分かりやすい形で明確に説明し、その理解を得る努力を行うべきである。
- ⑤ 原則5 デジタル戦略の実行と評価
- 経営者は、経営ビジョンやデジタル戦略の下、その実行により生じたセキュリティ等のリスクや成果をモニタリング・評価・フィードバックするためのプロセスを行うべきである。
デジタルガバナンス・コードに基づいて実施された企業の取組については、将来的には全ての上場企業が情報開示を行う環境整備を行うことが目標とされたうえ、投資家等の市場関係者による達成度評価のための客観的な評価基準の策定が目標とされている。現状、我が国企業にとってただちに何らかの措置を講ずべき義務や責任が生じるわけではないが、今後、客観的評価基準の策定・公表に加え、上場企業における自己評価・開示の義務化等に向けた動きが行われる可能性もあるため、引き続き経済産業省を中心とする検討状況を注視していく必要があろう。
【デジタルガバナンス・コードの策定経緯(デジタルガバナンスに関する有識者検討会とりまとめ資料2頁)】
【デジタルガバナンス・コードの構造(デジタルガバナンスに関する有識者検討会とりまとめ資料3頁)】
以 上