◇SH2785◇消費者庁、埼玉消費者被害をなくす会と株式会社NTTドコモとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定 松原崇弘(2019/09/19)

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消費者庁、埼玉消費者被害をなくす会と株式会社NTTドコモとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定

岩田合同法律事務所

弁護士 松 原 崇 弘

 

1.要旨

 契約期間中の約款変更による契約条件の変更を定めた規定の有効性が争われた裁判に関し、消費者庁は、適格消費者団体である特定非営利活動法人埼玉消費者被害をなくす会(以下「なくす会」という。)から、消費者契約法23 条4項4号の報告があったので、同法39 条1項に基づき、なくす会(原告・控訴人)と株式会社NTTドコモ(被告・被控訴人)との間の訴訟(控訴審:東京高等裁判所平成30年11月28日判決(控訴棄却)、原審:東京地方裁判所平成30年4月19日判決(請求棄却))に関する控訴審判決の確定を公表した。

 以下、消費者庁が、公表内容として取り上げた事項と契約実務で参考になる点を紹介するほか、本公表制度に関して補足する。

 

2.公表内容

⑴ 公表事項

 適格消費者団体が消費者契約法12条に基づく差止請求に係る訴訟を提起した場合において、当該訴訟に係る判決があった場合、消費者庁は、適格消費者団体による差止請求に係る判決の概要、当事者(適格消費者団体、事業者等の名称)、改善措置情報[1]を公表するものとされている。このうち消費者庁にて整理した判決の概要から、契約実務で参考になる点を紹介する。

⑵ 事案

 適格消費者団体であるなくす会が、被告である株式会社NTTドコモが利用者との間でサービス契約を締結するに際し、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に該当する約款変更に関する契約条項(「当社は、この約款を変更することがあります。この場合には、料金その他の提供条件は、変更後の約款によります。」との条項。以下「本件変更条項」という。)を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるなどと主張して、被告に対し、同法12条3項の規定に基づき、本件変更条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求める等した。

⑶ 結論

 控訴審、第1審ともに、本件変更条項が、同法10条に規定する消費者契約の条項に当たらないとして、適格消費者団体の請求を認めなかった。

 

【控訴審の判断の要旨】

本件変更条項

「当社は、この約款を変更することがあります。この場合には、料金その他の提供条件は、変更後の約款によります。」

裁判所の判断

消費者契約法10条に定める契約条項に当たらない。

10条前段

  1. ・ 改正民法の定めが参考となり、契約の目的、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款を変更することがある旨の定めの有無等に照らして、合理的なものであるか否かを検討。
  2. ・ 本件変更条項が、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項である(法第10 条前段)とは認められない。

10条後段

  1. ・ 本件変更条項の性質や必要性、同条項により契約者が被る不利益の程度、同条項により追加された本件手数料条項の目的・内容の相当性等を総合的に考量すると、本件変更条項が、契約者と事業者である被控訴人との間の情報や交渉力の格差を背景として、契約者の法的に保護されている利益を信義則に反する程度に両当事者の衡平を損なう形で侵害しているということはできない。

⑷ 本件変更条項(約款)の改善点

 本件変更条項は、消費者契約法に基づき無効と判断されなかったが、公表資料は、裁判所の判断(10条前段に関する部分)として、以下の改善点を紹介している。

  1. ・ 本件変更条項は、「当社はこの約款を変更することがあります。この場合、料金その他の提供条件は、変更が客観的に合理的なものである場合に限り、変更後の約款によります。」との趣旨と解するのが相当である。

 そして、以上の解釈に関し、補足する形式で、

  1. ・ ただし、条項自体からは、無限定の変更が許されるように読める点からすれば、文言の明確性の観点からも、変更が許される一定の合理的な範囲について、できる限り明確な文言により定めておくことが将来の紛争を防止するためにも望ましいものと思料する。

 と論じている。

    事業者が、約款において、本件変更条項と同様の条項を用いている場合、紛争予防(現に紛争になっている)と明確性の観点から、上記解釈に沿った文言に修正することが望ましいといえる。2020年4月1日から施行される改正民法(548条の4第1項等)の対応にあたり、関連情報として参照されたい。

 

3.本公表制度

 本件に関しては、消費者庁より、第1審判決後、控訴審判決後、上告審を経て判決が確定した後に、それぞれ判決の概要等の公表事項について公表された。

 適格消費者団体は、不特定かつ多数の消費者の利益のために、差止請求権を適切に行使しなければならないとされ(消費者契約法23条1項)、適格消費者団体は、判決が確定した等の場合に、内閣総理大臣に対し、報告する義務が課されている(同法23条4項)。本公表(同法39条1項)はかかる適格消費者団体からの報告を受けて行われる。

 他方、事業者に対しては、この公表に先立つ行政庁(消費者庁所管)の準備に関して、報告や通知する義務が課されておらず、特段の対応は不要である。行政庁による公表というと、事業者にとって、ネガティブに受け止めることもあろうかと思うが、本公表制度で、勝訴敗訴関係なく公表されるのは、確実に周知されることに重点が置かれていると解され、事業者としても、被害の発生又は拡大の防止や個別事件の解決促進[2]のために利活用されるための情報公開制度と捉えることなろう。

 


[1] 差止請求に係る相手方から、差止請求に係る相手方の行為の停止若しくは予防又は当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとった旨の連絡を受けた場合における、その内容及び実施時期に係る情報(消費者契約法施行規則第14条、第28条参照)。

[2] 消費者庁消費者制度課『逐条解説消費者契約法〔第4版〕』(商事法務、2019)490頁から491頁参考。

 

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