◇SH2845◇経営者保証に関するガイドライン及び同Q&Aの一部改定について 山名淳一(2019/10/24)

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経営者保証に関するガイドライン及び同Q&Aの一部改定について

岩田合同法律事務所

弁護士 山 名 淳 一

 

1 はじめに

 日本商工会議所(以下「日商」という。)及び一般社団法人全国銀行協会(以下「全銀協」という。)は、2019年10月15日、経営者保証に関するガイドラインQ&A(以下「Q&A」という。)の一部改定を実施した。

 本稿では、経営者保証に関するガイドライン(以下「本ガイドライン」という。)及びQ&Aについて簡単に紹介し、今回のQ&A一部改定の概要について解説する。

 

2 本ガイドライン及びQ&Aについて

⑴ 本ガイドラインの成立経緯

 経営者保証とは、中小企業や小規模事業者(以下併せて「中小企業」という。)が金融機関から資金調達を行う際に、経営者個人が保証人となることをいう。

 経営者保証は、経営の規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある反面、経営者による思い切った事業展開や、保証後において経営が窮地に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因になっているなど、企業の活力を阻害する面があるとも指摘されていた。そこで、このような弊害に対応するため、2013年12月、日商と全銀協を共同事務局として設立された「経営者保証に関するガイドライン研究会」において、本ガイドラインが策定された。

 金融庁が制定する金融機関に対する監督指針[1]においても、本ガイドラインは「融資慣行として浸透・定着させていくことが求められる」ものであるとされており、金融機関は、本ガイドラインを融資慣行として浸透・定着させていくために、同監督指針に具体的に列挙された取組みを進めることが強く要請されている。

⑵ 本ガイドラインの内容

 本ガイドラインは、大別して、①経営者保証に依存しない融資の促進と、②中小企業の債務整理の際に顕在化する経営者保証債務の適切な整理促進のための準則を置いている[2]。ここでは、今回のQ&A一部改定の対象となっている①の点についてその内容を簡単に説明する。

 本ガイドラインは、経営者保証に依存しない融資を促進するために、中小企業・経営者側と金融機関側のそれぞれに対応を求めている。

 まず、中小企業・経営者側には、経営者保証を提供することなしに資金調達を行うために、①法人と経営者との関係の明確な区分・分離、②財務基盤の強化、③経営の透明性確保を求めている(本ガイドライン4⑴)。これは、経営者保証が、債権回収の原資として期待されるという本来的効果だけでなく、事業資産から個人資産への不合理な資産移転の防止や財務諸表への信頼性確保といった、中小企業に特に見られる問題への対策(心理的効果)として利用されている点[3]を考慮したものと考えられる。

 これに対し、金融機関側には、まず、経営者保証に依らない融資手法のメニューを充実させることを求めており、例えば、一定の条件が成就するまでは保証債務が発生しない又は条件が成就することで保証債務が消滅するといった条件付き保証契約、流動資産担保融資、金利を上乗せすることなどが例として挙げられている。

 また、金融機関側には、債務者たる中小企業が、法人と経営者個人の資産を明確に分離し不合理な資産移動がないことや、法人からの適時適切な財務情報等の提供があることなどの要件を将来にわたり充足すると見込まれる場合に、経営者保証を求めない可能性を検討することが求められている(本ガイドライン4⑵)。

⑶ Q&Aについて

 Q&Aは、本ガイドラインを策定した「経営者保証に関するガイドライン研究会」において、本ガイドラインに即して具体的な実務を行う上で留意するポイントをまとめたものであり、本ガイドラインを補足し具体化する内容となっている。

 

3 今回のQ&Aの一部改正の概要

 今回のQ&Aの一部改定は、本ガイドラインの趣旨の一層の明確化を図ることにより本ガイドラインの円滑な運用を図る観点からなされたもので、主に経営者保証に依存しない融資の促進のための施策(本ガイドライン4及び5)に関するQ&Aが改定された。

 今回の改定では、主に金融機関側に関するQ&Aが補足・具体化され、例えば、①条件付保証契約のコベナンツ(条件)の例として外部を含めた監査体制の確立等による社内管理体制の報告義務を追加(Q4-8)、②経営者保証を求めないことを検討する際の要件(前記2⑵)につき全て満たしていなくても総合的判断によることや各要件の基準を明確化するために要件を細分化するなどの柔軟な運用を求めること(Q4-10)、③中小企業側に将来の要件充足を求めるために条件付保証契約を活用すること(Q4-11)といった内容が追加された。

 これらの改定は、経営者保証に依存しない融資を実現するために、金融機関側により積極的な役割を果たすことを求めるものと見ることができる。

 

4 今後の展望

 2020年4月に施行予定の改正民法(債権法)では、個人保証人保護の目的から、事業性貸金債務に係る保証契約の成立に公正証書を要求するなど(民法新465条の6第1項)、個人保証を制限する規律が導入された。経営者保証はその有用性から前記制限の適用から外れたものの、個人保証人保護の潮流は今後も強まると考えられ、経営者保証に依存しない融資が求められる傾向もますます強くなっていくと考えられる[4]

 中小企業・経営者側は、本ガイドラインで求められる法人と経営者個人の資産の明確な分離や経営の透明性等を確保するための社内体制の整備を進めて、経営者保証を必要としない体制の構築を進めるべきであり、また、金融機関側は、そのような中小企業側の努力を誠実に評価して、経営者保証の要否を慎重に検討することが求められる。

以 上



[1] 「主要行等向けの総合的な監督指針」Ⅲ-9、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」Ⅱ-10。

[2] 小林信明「経営者保証ガイドラインの適用開始から1年が経過して」金法2013号(2015)1頁。

[3] 松嶋一重「個人保証をめぐる制度的現状と残された課題――中小企業の活力向上のための経営者保証の在り方」金法2054号(2016)22頁。

[4] 井上聡=松尾博憲編著『practical金融法務債権法改正』(金融財政事情研究会、2017)95頁。

 

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