国交省、住宅宿泊事業に伴う「マンション標準管理規約」の改正
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 鹿 祥 吾
国土交通省は、平成29年8月29日、同年6月に住宅宿泊事業法が成立したことを踏まえ、分譲マンションにおける住宅宿泊事業の実施を可能とする場合及び禁止する場合の規定例を示す「マンション標準管理規約」の改正を実施した。
具体的な改正点としては、①住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業(新法民泊)を可能とする場合、②住宅宿泊事業を禁止する場合、③いわゆる家主居住型の住宅宿泊事業(住宅宿泊事業者が同じマンション内に居住している住民である場合)のみを可能とする場合、④(家主居住型の住宅宿泊事業のうち)いわゆる家主同居型(住宅宿泊事業者が自己の生活の本拠として使用している専有部分において宿泊させる場合)のみを可能とする場合について、それぞれ従前の規約に追加して規定する例を定めている。
本年6月に個人の住宅やマンションの一部や空室等を一定の要件のもとで宿泊施設として利用させる住宅宿泊事業(新法民泊)を認める住宅宿泊事業法が成立し、同月16日から1年以内には施行予定である。
新法民泊は「住宅」を用途とする建物で営むことができるため、ホテルや旅館が営業することができない住居専用地域においても営業することが可能であり、かつ、国家戦略特区内における民泊条例に基づく営業にも限定されない。このように、新法民泊は一般市民の生活の本拠のすぐそばで行われ得るものであるため、近隣住民にとっては、不特定な人たちが入れ代わり立ち代わり出入りすることへの生活安全上の不安、ごみや騒音をめぐるトラブルなど、住民の生活環境に悪影響をもたらすとの指摘がなされている。
住宅宿泊事業法の成立を踏まえ、分譲マンションにおいてこのような住宅宿泊事業を巡るトラブルを防止するためには、住宅宿泊事業を許容するか否かについて、あらかじめ区分所有者間でよく議論し、その結果を踏まえて、住宅宿泊事業を許容するか否か、許容する場合にはどのような類型のものを許容するかについて管理規約上明確化しておくことが望ましい。
もっとも、従前のマンション標準管理規約12条においては、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」と規定しているところ、住宅宿泊事業は「住宅として使用する」専有部分を用いるものであるから、この規定のみでは専有部分を住宅宿泊事業に用いることの可否が明らかではないという問題があった。
そこで、国土交通省は、改訂された標準規約において、冒頭に述べた①から④の場合毎に従前の規約に追加して規定する例を定めたものである。今後は、各分譲マンションにおいて、議論を深め、結論に応じて上記規定例に準じた規定が定められることが見込まれる。
なお、国土交通省は、住宅宿泊事業法の運用においては、マンションで住宅宿泊事業を実施する場合には、その届出(同法3条)を受けた際に、民泊を禁止する旨の管理規約等がない旨を確認することを予定し、届出時に管理規約の改正がされていない場合には管理組合の総会・理事会決議を含め、管理組合として民泊を禁止する方針が決定されていないことについて確認することを予定している(本件記事【資料3】パブリックコメントにおける主な意見の概要とこれらに対する国土交通省の考え方[1])。
かかる標準規約の改訂により、今後は各マンションの管理規約が同マンションにおいて住宅宿泊事業が実施されているか、今後実施される可能性があるか否かを判断する一つの徴表となることが見込まれる。今後の民泊事業の展開を推し量るにあたり、実務上参考になると思われることから紹介した次第である。