◇SH2891◇弁護士の就職と転職Q&A Q97「外資系事務所のジュニアアソが次に選ぶのは、大手か? 中小か?」 西田 章(2019/11/18)

法学教育

弁護士の就職と転職Q&A

Q97「外資系事務所のジュニアアソが次に選ぶのは、大手か? 中小か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 外資系法律事務所には、大手事務所からの内定を貰いながらも、「数十名の同期と一緒に大手に就職しても面白くない」として、「逆張り」で入所を決めたジュニアアソシエイトがいます。ただ、内定取得から実際に勤務を開始するまでの1年半のタイムラグの間に、自分を誘ってくれた採用担当すらも事務所を退職してしまっている、という事例も散見されます。

 

1 問題の所在

 大手事務所は、扱っている業務範囲も広く、多数のパートナーがいるために、「これがやりたい!」という志望が明確でない就活生にとっては、「まずは色々やってみたい」と考えた場合に魅力的な選択肢に見えます。ただ、すでに勤務をしている学部やロースクールの先輩に話を聞けば、「事務所としての守備範囲は広くても、分業が進んで、かえって、ジュニアアソシエイトが携われる業務範囲が早期に固定されてしまった」という先例も知らされます。

 それでは、大手を避けることを決めて、たとえば、「自分は、クロスボーダーの独禁法の専門家になりたい」などと興味分野を絞って外資系を選択しても、「司法修習中に、国際カルテルの仕事の波は引いていた」ということもありますし、「実際に担当してみたら、興味を抱けなかった」ということもあります。

 また、キャリアパスという点から見ても、「外資系は英語が大事だから、留学させてもらえるものと思い込んでいたが、事務所は『日本法の専門家』を求めて東京オフィスの採用をしているので、米国留学に消極的だった」とか、「東京オフィスにパートナー枠を増やすということは、数億円規模の売上げが期待されるため、内部昇進よりも、大手事務所から、営業力を持ったパートナーを外部招聘するほうが現実的だと気付いた」といった事情も、入所後に知ることになります。

 結局のところ、「国内大手には、国内大手特有のリスクがあるように、外資系にも外資系特有のリスクがある」ということを知らされることになります。そこで、「どちらにもリスクがあるならば、キャリアの王道として大手に入り直すべきか?」という思いと、「大手でも外資でもないならば、第三の選択肢として、中小事務所にいい先があるのではないか?」という思いに悩まされるアソシエイトに遭遇します。

 

2 対応指針

 若手弁護士にとって、最大のリスクは「有為な経験を積めないままに年次が上がっていく」ことにあります。そのため、「この外資系事務所の東京オフィスでパートナーに内部昇進するのは困難」と見切ったとしても、現事務所での勤務に成長が伴えば、すぐに移籍する必要はありません(シニアアソシエイト層が薄いほどに、ジュニアのうちから責任ある仕事を任せてもらえる、という傾向もあります)。ただ、大きな方向性として、「自分は大規模ディール/最先端案件を扱いたいのか? それとも、小規模案件でも自分個人を信頼してくれる客を少しずつ増やしていきたいのか?」については意識しておくべきです(後で見直しをする仮置きであっても)。

 成績優秀層が、欧米系ファームで英語ネイティブの一流弁護士とのコミュニケーションを積んでいれば、大手事務所の中途採用にも門戸が開かれます。ただ、「優秀な生え抜きが多数いる、内部競争が激しい組織に転校生として後から参加する」という立場では、「この人は、●●法を扱うアソ」という特別枠のラベルを貼ってもらったほうが居場所を確立しやすいです。

 他方、中規模以下で、毎年1〜2名しか新人を採用しない事務所は、「家族的雰囲気」を大事にしがちなので、ジュニアならば「訴訟も法律相談もディールもなんでもやります!」というリスタート組に向いています。

 従前は、「大手に長くいたら、インハウスしか行き場がなくなる」とか「独立したいならば、中小のほうが独立後のイメージを掴みやすい」と言われていましたが、最近では、「大手出身者が、独立後も出身母体とも連携して仕事を続ける」という事例や、「中小事務所のほうが幅広く顧問業務を扱っているので、インハウスに向いている」という事例も見られます。

 

3 解説

(1) 外資系事務所を辞めるタイミング

 国内系事務所が、「弁護士先にありき」の経営方針であり、「優秀な弁護士には、ぜひ長く事務所に残ってもらいたい」「既存メンバーでどんな仕事を開拓できるかを考える」という順序で発想するのに対して、外資系事務所は(フランチャイズ型でなければ)本部で決定された経営方針に従って、東京オフィスの損益分岐点や人員計画も影響を受けるために、「優秀でもプランに合わない弁護士は事務所を去る」ことになります。そのため、国内系事務所のように、「恩義あるパートナーを裏切るわけにいかない」という浪花節的な発想を抱いたとしても、それに見返り(パートナーに昇進して長く働かせてもらえる)を求めることはできません。アソシエイトの側でも、「この事務所が自分にとってベストの環境であれば頑張るが、より適切な職場があれば、時機を逃さずに、自分本位で進路を決める」べきであると思われます。

 アソシエイトの中には、「国内系よりも、欧米系の事務所の自由な雰囲気が好き」という方もいます。ただ、仮に、「将来は欧米系事務所でパートナーを目指したい」と願ったとしても、「東京オフィスに残ってパートナーへの内部昇進を目指すシナリオ」と「国内大手事務所でパートナーになった後に、パートナーとしての中途採用を目指すシナリオ」を見比べた場合に、どちらに現実味があるのかも微妙なところです。一流事務所ほど、内部昇進の審査基準は厳しいために(全世界のオフィスにいる同世代のパートナー候補と見比べられた上で、海外オフィスの成長性との比較において、東京オフィスにおけるパートナー枠増員が説得的でなければなりません)、「生え抜きのほうが有利」とはまったく言えない状況にあります(現実には、大手事務所から、欧米系ファームの東京オフィスへのパートナークラスでの異動が少ないのは、「欧米系ファームのパートナー採用の門戸が狭い」というよりも、単に、大手事務所で成功しているパートナーにとってみれば、「アワリーレートが安くて、マンパワーも充実している国内大手にいるほうが仕事をしやすい」という事情のほうが大きそうです)。

(2) 外資系から国内大手への移籍

 国内大手事務所は、数十人規模で新人を採用しますが、それでも「英語が得意なアソシエイト」は足りていません。新卒採用プロセスからしても、「英語ができれば、法的センスが低くても良い」という方法を採用していませんので、「高い法的センスが推認される上に、さらに、英語もできる人はいるか?」となると、このアンド条件をクリアしてくれる人材はいまでも貴重です。そのため、「英語人材」という特別採用枠は、即戦力の中途採用のほうが成り立ちやすいとも言えます。

 そういう意味では、「欧米系ファームで外国人弁護士とのコミュニケーションには慣れたが、欧米系ファームでは、英語がうまい日本人弁護士というだけでは評価されない(当然の前提をクリアしただけ)」「むしろ、英語力があることを、所内の同世代の弁護士との差別化要因として活用したい」というならば、国内大手事務所への移籍は、お互いのニーズに合致した選択肢になります。

 ただ、逆に、「外資系では、訴訟や株主総会指導をできなかったので、そういったことも含めて幅広く経験を積みたい」というアソシエイトにとってみれば、キャリアのリスタートの場としては、大手事務所は相応しくないようにも思えます(大手事務所には、すでに訴訟や株主総会指導を担当している生え抜きのアソシエイトが充実しているので)。

(3) 外資系から国内中小への移籍

 国内の中小規模で、毎年1〜2名しか新人を採用しない事務所においては、「事務所の家族的雰囲気」を大事にする先が多いです。このような先では、「すでに他事務所で仕事のスタイルが固まってしまっているシニアアソシエイトは、うちの事務所に馴染むかどうかわからない」ために(優秀かどうかに関わらず)採用を控える、という傾向も見られます。そのため、外資系事務所のアソシエイトにとって、「家族的雰囲気を大事にする中小規模事務所は、ジュニア時代にしか採用してもらえるチャンスがない(行くならば、若いうちしかない)ということになります。

 中小の事務所であれば、「パートナーに昇進できるシニアアソシエイトは●人に一人」というような所内競争があるわけではありません。パートナーの全員がすべてのアソシエイトと仕事をしたことがあれば、その人柄や仕事振りを理解できているので、フォーマルなパートナー審査のプロセスを置く必要もありません。むしろ、パートナー審査の中心は、「こいつはパートナーにして(給与を無くしても)自分で稼いで食っていくことができるか?」に絞られてきます。

 そういう意味では、中小事務所入所後におけるキャリア形成上の課題は「パートナーになるための所内競争」よりも、「パートナーになった後の対外的な生存競争」のほうに力点が置かれます。そのため、「日本企業のために訴訟や顧問業務も一からやり直したい」と願うアソシエイトにとっては、中小事務所は魅力的な選択肢となります(「パートナーになってから、何を専門としてリーガルマーケットで認知してもらうか?」という大問題は存在していますが、それを考えるまでの時間的猶予を与えてもらえる、という意味で)。

以上

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