「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」を
閣議決定
岩田合同法律事務所
弁護士 丸 山 真 司
1 背景
2020年2月18日、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下「DPF法」という。)案が閣議決定された。同法律案は同日時点で開会中の通常国会に提出される予定である。
オンラインモール、アプリストア等のデジタルプラットフォーム(以下「DPF」という。)については、DPF提供者による利用事業者(DPFを通じて商品、役務等を消費者(一般利用者)に提供する事業者)に対する一方的な取引条件の変更、利用事業者が有する取引データを利用したDPF提供者による直接販売等、独占禁止法等との関係上問題となる事例が存在するという指摘がなされることもあり、個別の法律による対応が行われていたが、DPFの重要性が増大している昨今の状況に鑑み横断的な規律を設ける必要が高まっているため、同法律案が国会に提出されることとなった。
2 DPF法の概要及び特徴
- ⑴ 目的・基本理念(1条・3条)
- DPF法は、DPFの重要性が増大している中で、利用事業者等の保護を図ることが課題となっている状況に鑑み、各種の規律を通じてDPFの透明性及び公正性、DPFに関する公正かつ自由な競争等を実現することを目的とする。
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そして、そのための施策においては、DPF提供者による自主的かつ積極的な取組を基本とし、国等の規制を必要最小限とすることによって、DPF提供者の創意工夫が発揮されること及びDPF提供者と利用事業者の相互理解の促進が図られることが基本理念とされている。
- ⑵ 規律対象(4条)
- DPF法は、DPFのうち特に取引の透明性及び公正性を高める必要があるものを「特定デジタルプラットフォーム」(以下「特定DPF」という。)として経済産業大臣が政令に基づいて指定することとし、特定DPF提供者を規律の対象とする。
- この指定は、国内事業者、外国事業者であるかを問わず、また株式会社、合同会社等の会社形態を問わずなされ、さらに潜脱を防止するため、2者以上の事業者が共同でDPFを提供する場合もその全体を規律の対象とすることも可能となっている。
- ⑶ 規律内容
- ア 情報開示(5条)
- DPF法は、特定DPF提供者に、利用事業者・一般利用者に対する以下の事項を含む一定の事項に関する情報開示を義務付けている。
- ・ 取引を拒絶する場合の判断基準
- ・ 他のサービス等の利用を要請する場合の内容、理由等
- ・ 検索順位を決定する基本的な事項
- ・ 特定DPF提供者が取得・使用するデータの内容、条件等
- ・ 苦情、問合せ等への対応に関する事項
- ・ 提供条件によらない取引を要請する場合のその内容、理由等
- ・ 取引を拒絶する場合の理由等(事前の通知)
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・ 提供条件を変更する場合の理由等(事前の通知)
- イ 体制整備(7条)
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また、DPF法は、特定DPF提供者に対して、経済産業大臣が定める指針に基づいて、利用事業者に適切な対応をするための体制、取引の公正さを確保するための体制、利用事業者との間の紛争解決のための体制等を整備することを求めている。
- ウ 自己評価、報告、経済産業大臣による評価等(9条)
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DPF法は、特定DPF提供者に対し、上記情報開示、体制整備等について、毎年、自己評価を付した報告を経済産業大臣に提出することを求め、経済産業大臣はこれらを評価するとともにその結果を公表することとされている。
- ⑷ その他の規律
- ア 勧告、公表、措置命令等(6条・8条)
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特定DPF提供者が上記情報開示(5条)の規定を遵守していないと認められる場合、上記体制整備(7条)について特に必要があると認められる場合等には、経済産業大臣による勧告、公表、措置命令等がなされることとされている。
- イ 利用者による申出(10条)
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利用事業者・一般利用者は、特定DPF提供者が規律に違反していると認める場合は経済産業大臣に対しその旨を申し出ることができ、特定DPF提供者はかかる申出を理由として不利益な取扱いをしてはならないとされている。
- ウ 公示送達の整備(21条)
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DPF法は外国事業者への適用も予定されているため、外国への送達に関する公示送達の手続きが整備されている。
3 今後の展開
DPF法案は、現在開会中の通常国会に提出予定とされている。DPF提供者については、その活動に一定の規律を設け利用事業者・一般利用者を保護し、取引の適正・公正を確保することが求められるが、他方で、過度の規律は我が国の国際競争力の低下を招くおそれもあり、DPF法によってこれらの適切なバランスが図られることが期待される。
以上