◇SH0487◇消費者庁、消費者裁判手続特例法の施行に関連する政省令、ガイドライン等を公表 青木晋治(2015/11/25)

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消費者庁、消費者裁判手続特例法の施行に関連する政省令、ガイドライン等を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 青 木 晋 治

 

 消費者庁は、平成27年11月11日、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続に関する法律(以下「消費者裁判手続特例法」という)の施行日を平成28年10月1日とする決定を公表し、関連する政省令、ガイドライン等を公表した。

 消費者裁判手続特例法は、消費者と事業者との間に情報の質・量や交渉力の格差により消費者が自ら回復を図ることには困難を伴う場合があることに鑑み、消費者の財産的被害の集団的な回復を図るための二段階型の訴訟制度を設けるため制定された法律であり(消費者裁判手続特例法1条)、当該訴訟制度は日本版クラスアクションと呼ばれる。ただし、米国のクラスアクションと異なり、消費者のために訴訟をする原告を一定の者(特定適格消費者団体)に限り、訴訟の対象事案、判決効の及ぶ範囲などに差異を設けている点で、大きく性格が異なるとされる(消費者庁「消費者裁判手続特例法Q&A」8頁)。

 以下、消費者裁判手続特例法に定める裁判手続のポイントについて概説する。

 

1 対象となる請求

 対象となる請求は以下のとおりである(消費者裁判手続特例法3条1項)。

  ① 契約上の債務の履行請求(第1号)

  ② 不当利得に係る請求(第2号)

  ③ 契約上の債務不履行による損害賠償請求(第3号)

  ④ 瑕疵担保責任に基づく請求(第4号)

  ⑤ 不法行為に基づく損害賠償の請求(第5号)

 ただし、次の損害は対象外であり、消費者裁判手続特例法を利用した訴えを提起することはできない(同3条2項各号)

  ・拡大損害(第1・3号)

  ・逸失利益(第2・4号)

  ・人身損害(第5号)

  ・慰謝料(第6号)

 

2 訴訟手続

(1)手続追行主体(原告適格)

 「特定適格消費者団体」のみが可能である(消費者裁判手続特例法3条1項参照)。個々の消費者や弁護士は手続追行主体となることはできない。

 なお、「特定適格消費者団体」とは、消費者契約法2条4項に規定する「適格消費者団体」[1]の中から内閣総理大臣の認定を受けた者である(消費者裁判手続特例法第2条第10号・同65条)。「特定適格消費者団体」の認定や監督等については消費者裁判手続特例法第65条に定めるほか、今般、平成27年11月11日付で消費者庁が公表した「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」[2]に消費者裁判手続特例法、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律施行規則に基づく申請に対する審査並びに特定適格消費者団体に対する監督及び不利益処分の基準等が明らかにされている。
 

(2)二段階型手続

 二段階型の訴訟制度となっている。概要を図示すると以下のとおりである(消費者庁HP「消費者財産的被害の手続的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律について」[3]参照)。

 

 

 一段目は、共通義務確認訴訟である(消費者裁判手続特例法3条~11条)。これは事業者の共通義務を認定(事業者が、相当多数の消費者に対して、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、金銭を支払うべき義務を負うべきことの確認)する手続である。

 二段目は簡易確定手続である(消費者裁判手続特例法12条~51条)。共通義務確認訴訟における判決の確定等の日から原則一月以内に提起する必要がある(消費者裁判手続特例法15条)。簡易確定手続では、共通義務確認訴訟で事業者の共通義務が認められたことを前提に、各対象消費者の債権を個別に確定、すなわち、「誰に、いくら支払うか」を確定する手続である。

 

3 簡易確定手続に消費者の加入を促す仕組み

 以下の仕組みがある。なお、③の事業者による公表義務・情報開示義務は、制度の実効性の確保のために事業者に課される義務であるが、請求の相手方自身に課される義務であり、特徴を有する。

① 裁判所によるもの

 以下の事項について官報への公告(消費者裁判手続特例法22条)

 ・簡易確定手続開始決定

 ・対象債権権及び対象消費者の範囲

 ・簡易確定手続申立団体の名称及び住所

 ・届出期間及び認否期間
 

② 特定適格消費者団体によるもの

 ・対象債権を有する消費者に対し書面又は電磁的方法で個別に通知・公告(同25条・26条)
 

③ 事業者(相手方)によるもの

 ・裁判所の公告事項(同22条1項各号)の公表義務(同27条)

 ・対象消費者の情報が記載された文書の開示義務(同28条)

 ・特定適格手続申立団体の申立てによる裁判所の文書開示命令(同29条)

 

4 施行日

 施行日は平成28年10月1日である。ただし、経過措置の規定があり、施行前に締結された消費者契約に関する請求(不法行為に基づく損害賠償請求については、施行前に行われた加害行為に係る請求)については適用がない点に注意を要する。

以 上

 

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